学園ヘヴンSS(和希×啓太)

きみのことすきなんだ

「啓太は、お人よしすぎるんじゃないか?」

会計室で言われるままに、女王様の手伝いをしている啓太を見て、俺は眉をひそめた。
昨日だって、どーみても、仕事から逃げてる王様に頼まれた仕事をしていたし。
成瀬のハニー攻撃にだって、困ったように笑ってるだけだし。
その顔がまた可愛いんだけど、さ。

「別に…そんなことないだろ、俺。フツーだよ、フツー」
「いいや、そんなことある!大体、啓太は隙が多すぎるよ? そんなんじゃ、お前、すぐにいいように利用されちゃうぞ……!」

言ってしまった後に、しまった、と思った。
恐る恐る啓太を見ると、案の定、ふぅん、と呟いて、こっちを睨んでいた。

「へえ……? 和希が、ソレを言うんだ……?」

「いや、あの、啓太……」

「そうだよな、気を付けなきゃいけないよな。理事長が、どこでどんな計画立ててるか、わかんないし?」
「啓太……!」
「西園寺さん、俺、生徒会室、行って来ますね。書類、これで全部ですか」
「ああ、そうだ。頼む」
「わかりました」

机の上の書類を持って、啓太はさっと出て行ってしまった。

「啓太……」
「鬱陶しい」
「郁、そんな本当のことを言ったら、理事長が可哀相ですよ?」

優雅にお茶を注ぎながら、七条にさり気なく止めをさされて、余計にがっくりくる。

「君達……言いたいように言ってくれるな……」
「すみません」
「臣、謝る必要はない。この男が、迂闊なだけなんだからな。啓太が怒るのも無理ない」
「そうですね。伊藤くんは、確かに、お人よしなところはありますけど。そこが彼のいいところでも、ありますしね」
「あれは、簡単に利用されるような人間でもない」
「そんなこと、一々、言われなくても、わかっている。MVP戦を一緒に戦ったのは、俺なんだから」
「だったら、言い訳をする相手が、違うんじゃないのか、理事長?」
「それも、わかってるさ…!」

会計室のドアを叩きつける勢いで開閉して、俺は生徒会室に、走った。

 
「啓太…!」

生徒会室の手前でやっと追いついた。
立ち止まって振り向いた啓太は、俺をじろりと睨んだ。

「啓太、ごめん! さっきは言いすぎた。俺、お前の事、心配で、つい…」

思いっきり焦って言う俺に呆れたのか、啓太は、溜息を一つついてから、笑った。

「俺の方こそ、ごめん。和希が俺のこと、気遣ってくれてるのは、よくわかってる。だけど、俺……もう十六、なんだよ? 和希に守ってもらうばっかりの、小さい子じゃなくて。だから、もう少し信頼して欲しいなって…」

そう言って、真っ直ぐに俺を見た啓太を見て、再会するまでの年月を思った。
啓太を守れるくらい強くなりたいって、ずっと思ってたけど。
あの時の小さな男の子はもう、俺の庇護なんかなくても、ちゃんと、自分の足で立っていけるようになっていたんだ。
MVP戦を通しても、そう思った。
思ったけど……!

「しょうがないだろ? 啓太のこと、好きなんだから」
「か、和希…っ!?」
「好きだから、どうしても気になるんだ。……啓太が、無防備すぎる気がして。ごめん、信頼してないわけじゃないんだけど」

自分でも、なんて説得力のない言い訳なんだと思いながらもこれが本音なんだから、どうしようもない。

「ごめんな、啓太」

耳まで赤くなった啓太が、もういいから、と必死で首を振っている。

「終わったのか?」
「中嶋さん!? い、いたんですか?」
「ああ。さっきから。取り込み中だったので、声をかけるのを遠慮してたんだ。会計室から、書類を持ってきたんだろ。西園寺から電話があった。ああ、これだな。じゃあ、確かに、受け取ったからな」

口をぱくぱくさせている啓太から書類を受け取った中嶋は、俺を見てニヤリと笑って、生徒会室に戻っていった。
まずい相手に、貸しを作っただろうか?

「和希、気付いてたんななら、何で言わなかったんだよ〜!」

そうだとしても、俺は気にしない。何故なら――

「啓太のことの方が、最優先事項だったから」
「和希〜っ!」
「いいだろ? 別に見られて困ることじゃないんだから」
「俺は、困るっ!!」

まだ赤く染まったままの顔で叫ぶ啓太に、俺は笑って、ごめん、ともう一度あやまった。
全然説得力無いんだよって怒られちゃったけど、これって不可抗力なんだよ、啓太。
だって、俺はきみのこと、すきなんだ。
きみが想うより、たぶん、ずっとね。


Fin.