弄り遊戯SS(二宮×陸)

  delicious  

 フォークでぽいっと、僕の皿に放りやられたそれを見て、顔を顰めた。

「……あのさぁ。食べられないんだったらさ、残せばいいじゃん。何で僕によこすワケ」

 ステーキのつけあわせの、にんじんのグラッセ。
 にんじんとピーマンがダメだなんて、なんか子どもみたいで可愛いなって思うけど。
 だからって、何も、僕の皿に入れなくてもいいと思う。
 僕の皿は、ゴミ箱じゃないんだからさ。

「いいじゃん。陸ちゃん、食べてよ。……お前さぁ、晩飯だぜ?サンドイッチってフツー、昼飯だべ?」
「いいだろ。僕はこれで十分なんだから」
「もうちょっと太った方がいいんじゃね?陸ちゃん、細すぎ」
「……だったら、肉よこすもんじゃないの?」
「やだよ。俺、肉好きだもん」
「二宮……」

 悪びれない顔で、しれっと言われて、僕はそれ以上言う気が失せた。
 ……口で二宮を言い負かそうなんてコト自体、僕には無理な話だ。
 これ以上、何を言っても無駄だろう、たぶん。
 でも、僕から言わせれば、二宮だって、十分細いって思うんだけどな。
 おまけに、好き嫌いは多いし、子供味覚だし。

「たまには、食べてみたら。久々に食べたら、意外に美味しいかもよ?これも」

 だけど、毎回毎回、にんじんやピーマンを回されるのもちょっと……なので、テキトーに言ってみる。
 食わず嫌い、だったりするかもしれないし。

「え〜。やだ。ぜってー、まずい。これが美味くなるわけねー。……あ〜、でも、そうだなぁ。陸ちゃんが食わしてくれるんなら、食ってもいーよ」
「………は?」
「だから、陸ちゃんが食わせて」
「何バカなこと、言ってんだよっ……!?」

 僕は、思わず顔を紅くして、二宮を睨んだ。
 なんで、こんなとこで、そんなことしなくちゃいけないんだよ……!?
 どこのバカップルだよっ、それ!
 いくらなんでも、恥ずかしすぎっ!

「えー。いーじゃん。そんくらい。陸ちゃんが言ったんじゃん。食えって」
「そうだけど……」
「だろ?じゃあ、責任取ってよ」

 相変わらず、わけがわからない。
 こいつは、変なところで、妙に頑固で。
 言い出したら、きかないところがある。
 こんなことで騒いで、人目を浴びるのもイヤだったから、僕は渋々頷いた。

「わかったよ……」

 フォークで、赤いにんじんを、ぷすりとさして、二宮の口に持っていこうとしたら―――。

「違うって、陸ちゃん。そうじゃなくて」

 僕の手ごと、フォークを掴むと、それを、僕の口に突っ込んだ。
 え?
 何で!?
 と思ったのも、束の間、顔を寄せてきて。

「………っ!?」

 舌、が。
 二宮の舌が、入ってきて。
 にんじんのグラッセが、舌の上で、咀嚼されてゆく。

「んっ……」

 ごくん、と嚥下した音は、僕だったのか、二宮だったのか。
 とにかく、にんじんがなくなって、ようやく僕は解放された。

「ゴチソーサマ」
「……ばかっ!」

 へらっと笑って言われて、僕は反射的に怒鳴り返した。
 そして、思わず辺りを見回した。
 幸い、こっちを見ている人は、誰もいなかったみたいだけど……。
 だからって、だからって!

「な、なに、考えてんだよ、こんな、とこで……!」

 小声で、精一杯、抗議する。
 なんかもう、色々ありえなさすぎっ。

「なにって〜?陸ちゃんのコト」

 悪びれない顔が、可愛いなんて、僕は思わないからな、絶対!

「あ、あのねぇ……っ!」

 ここは、ファミレスで。
 しかも窓際で。
 表通りなんかに面してて。
 そういうの、少しは気にしろよ、お前は!

「んだよ。家ではもっと、すごいコト、すんじゃん」
「家はいいんだよ、家は!」
「へぇ?ふぅん?……いいんだ?」
「よ、よくないよッ!」

 何だか、段々、自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。 
 顔を紅くしてぐるぐるしている僕を、二宮は、唐突に抱きしめてきた。

「でよ」
「え?」
「なんかすっげー、ヤリたくなってきた。もうここでヤッてもいいくらいなんだけど、さすがに、それはマズイっしょ?」
「当たり前だろ!」
「じゃ、そゆことで。いこ、陸ちゃん」

 そう言って、二宮は僕の手をひいて、レジに向かった。
 ほんと、ワケわかんない。
 ワケ、わかんないけど―――。
 まだ、にんじんの味のする口を、もう片方の手で拭いながら。
 美味しかった、と思う僕のほうが、よっぽどワケわかんない、って、繋がれた手を振りほどけないまま、思った。


Fin.
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