弄り遊戯SS(穂高×陸)

  きみに伝えたい  

 こっちを伺うように見る、怯えた目が、大嫌いだった。
 イライラして、小突いて、赤くなった痣を見て、居たたまれなくなる。
 違う。
 俺は、こんなことをしてーんじゃねぇって。
 お前を傷つけたいわけじゃ、ねぇのに。
 だけど、アイツの目を見たら、ダメだった。
 どうしても、ダメだった。



 相変わらず、ちまくて、ハムスターみてーだよな、コイツ。
 とろとろとろとろ歩く、結城のつむじを見て、中学の頃のまんまだよな、と思った。
 俺と同じ、大学生とは到底思えない。
 同窓会で再会した時、あまりの変わらなさっぷりに、驚いたくらいだ。
 こいつだけ、時間が止まってんじゃねぇの?実は。
 首なんか、マジで男かよ、ってくらいにほせーし。
 俺がちょっと力入れたら、ぽきん、とカンタンに折れちまいそうだ。
 実際、こいつの肌は跡がつきやすい。
 ちょっと、力を入れただけで、すぐ赤くなる。
 いや、こいつにとっては、ちょっと、どころじゃねーんだろーけど。

 
「結城……っ!」

 すれ違い様の自転車に、ちんたら歩いてる結城がぶつかりそうになって、俺は襟を掴んで引っ張った。

「クソ、危ねーだろッ!気ぃつけろよ、バカ!」
「ほ、穂高……、苦しい……っ」
「あ、わりーわりー。お前も、ちゃんと前見て歩けよな。チャリなんかにひかれるなよ。年寄りかよ、お前は」

 掴みっぱなしだった襟を離してやったら、けほけほ咳をして、涙目で俺を見上げた。

「わ、悪かったね……、とろくて!コンタクトがずれて、ちょっとよく見てなかっただけだよ」
「ああ?だったら言やーいいだろ。自転車にひかれそうになる前によ」
「アパートまで、もう少しだし、大丈夫だって思って……。穂高だって、引っ張る前に言ってくれたらいいじゃないか。ひっぱられなくても、自転車くらい、よけられるよ」
「……ああ、そうかよ。そりゃー、悪かったな」

 ……なんだよ、コイツ。
 なんで、責められなきゃいけねぇんだよッ!?
 別に感謝しろとは言わねぇけどさ。
 ………ムカつく。
 こいつのちんたらした歩きに合わせるのもバカらしくなって、いつもの歩調で歩くと、あっという間に距離が出来た。

「あっ……、穂高……っ!」

 結城が慌てて追いかけてきて、けつまづいて、こけそうになったのを、片手で支えた。

「何、やってんだよ、お前は」
「だ、だってっ……」

 俺の腕にしがみついて、結城はうつむいた。

「猫みたいに、掴んで引っ張られて。そりゃ、ぼくは、穂高よりチビだし、軽いけど。ちゃんと、言ってくれたら、自転車くらいよけるし……。あの、ごめん。何言ってんだろうね、僕。」

「――――結城、」

 下向いてぐだぐだ言う、結城の肩に腕を回して、俺は歩き出した。

「悪かったな。口より先に手がでちまうんだよ、俺は」

 悪い癖だ、と思ってる。
 相手は同じ人間なんだし、大抵の事は、口で言えば伝わるって事も、ちゃんとわかってる。
 そっちの方が、確実だってことも。
 だけど、その……なんつーか、さあ……。
 条件反射?っての?
 気ィついたら、手が出るんだよ、俺は。
 特に、こいつみたいなトロくせーヤツ相手だと。
 なんかこう、言いたい事はあるはずなのに、言葉が、みつかんなくて。
 イライラして、手が出る。
 それをまたこいつは、何か言えばいいのに、なんも言わずに、黙って俯くんだ。
 で、それがまた、俺の神経に触る。
 ……悪循環だった。
 だが、今は違う。
 少なくとも、俺に言いたい事、言えるくらいには、こいつも成長したらしい。
 見た目は全然、変わんねーけど。

「ちょ、ちょっと、穂高……恥かしいよ」

 だからって、それを俺が聞くかどうかは、その時次第、だけどな?

「うるせぇ。ごちゃごちゃ言ってと、ここで犯すぞ」
「なっ……、こんなとこで、変なこと、言わないでよ」

 さっと、白い細い首が、赤くなった。
 ああ、食いつきてぇ……。

「んだよ、ヤルことヤッてんのに、今さら」
「そ、そういう問題じゃないんだよッ……!」
「あー、いちいちウルセーな、てめぇは」

 肩にまわした手に、力を入れ引き寄せた。

「痛いってば……」
「ああ、わりぃ」
「あ、あの……、ありがとう」
「あ?」
「だから、自転車……。あのままじゃ、やっぱぶつかってたから。ごめん、ホントは最初に、そう言わなきゃいけなかったんだよね」
「……ワザワザ、礼言われるよーなことじゃねぇよ、バカ。オラ、早く帰るぞ。コンタクト、ずれてんだろ」
「う、うん」



 こっちを伺うように見る、怯えた目が、大嫌いだった。
 イライラして、小突いて、赤くなった痣を見て、居たたまれなくなる。
 違う。
 俺は、こんなことをしてーんじゃねぇって。
 お前を傷つけたいわけじゃ、ねぇのに。

 

「……ありがと、ね。穂高」
「うるせぇよ、バカ」

 

 肩に回した手の力を緩めたら、ふにゃっと笑って、結城は、俺を見上げた。
 それは中学の頃の俺が、知らなかった、安心しきった表情だった。


Fin.
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