弄り遊戯SS(辰巳×陸)
  
  
  箱庭  
   
     女みたいに、優しい言葉も甘い嘘も、通じない。
     心まで欲しいなんて言わない。
     だから、身体だけでも、俺のものにしたかった。
     俺なしでは、いられない身体に。
     
    「ねぇ、これもう、取っていいだろ、辰巳…ッ」
    「どうして?」
    「だ、だって…、僕、も、もう…。ねぇ、お願い取って。取ってよ……ッ!」
    「ダメだ。あと一コマだろ。家に帰ったら、取ってやるよ」
     吐き出せない快楽を必死で堪えて、懇願する結城を見ていると、それだけでイキそうになる。
     手に入らないと諦めていたのに、思わぬ形で、この手の中に堕ちてきた。
     俺にチャンスをくれた、結城の中学の同級生たちには感謝してもしたりないくらいだ。
     結城が飼えたと思えば、あんな金額は、はした金だ。
     うつむいて講義を受ける結城を、訝しげに京子が見ていることには気付いていたが、どうでもよかった。
     どうしても欲しかったモノが、今、ここに、あるのだから。
    「脱げよ」
    「いちいち、言われなくたって、わかってるよ」
     俺の視線を避けるように、居心地悪そうに、結城が服を脱いでいく。
     ペットの代わり。
     安易で、それでいて奇妙な約束に縛られて、結城はここで、俺に飼われている。
     滴り落ちる、雫が、男にしては細すぎる、白い足を伝って、絨毯に、小さな水溜りをつくっている。
    「もういいだろ?お願い、コレ、取って………ッ!」
    「いいよ。でもその前に―――――、してよ」
    「……っ。う、うん。やるよ、やるからッ…!」
     切羽詰った目で俺を見上げる結城にゾクゾクするのに、心の裏側は、次第に冷めてゆく。
     ―――――足りない…全然、足りない。
     もっと、もっと、欲しくなる。
     首に、赤いリボンだけつけて。
     どんな猫よりも、可愛い声で鳴いているのに。
     満たされないのは、何故なんだろう。
     むしろ、友達の顔で傍にいた、あの頃よりも、ずっと渇いている。
     望むものを手に入れたハズなのに。
     
    「ねぇ、服、もう、着てもいいだろ」
    「ダメだ」
    「なんでだよ…っ。ふ、服くらい、着させてよ、ねぇ…!
    誰か来たら、困るのは辰巳だろ…!?」
    「困らないよ?俺は。誰に見られたって」
     うっすら笑って言うと、結城はあからさまに怯えた目で俺を見た。
     おかしい、と思ってるんだろう。
     狂ってるって。
     そうだろうな。
     自分でも、そう思うのだから。
     
    「で、でも…っ、んっ…」
     
     尚も何か言おうとした結城の口をふさぐ。
     どちらのものともしれない唾液が、蜘蛛の糸のように口の端から伝う。
     
    「―――逃げるだろ、お前」
    「え…?」
    「懐かないもんな、全然。初めて逢った時から、ずっと」
    「そんなこと…」
    「首輪、外したら。戻ってこないだろ、お前」
    「何……、言ってんの、辰巳?」
    「ここにいろよ、結城。俺に飼われてるんだろ。だったら、服なんか、いらないだろ…ッ!?」
     女みたいに、優しい言葉も甘い嘘も、通じない。
     心まで欲しいなんて言わない。
     だから、身体だけでも、俺のものにしたかった。
     俺なしでは、いられない身体に。
     そして、それは、今、この手の中に確かにあるのに。
     
    「逃げないよ、僕、逃げないから、ねぇッ!」
     
     心なんかいらない。
     心なんか、いらない、のに。
     
     どうしてなんだろうな、結城?
     渇いて、渇いて、堪らないんだよ―――。
Fin.