弄り遊戯SS(辰巳×陸)
雨花
向かい風にあおられて、結城は寒そうに、目をすがめて震えた。
透明な傘ごと、風に飛ばされてしまいそうなくらいに、華奢な身体。
「あ…」
立ち止まると、小さく呟いて、眼鏡についた水滴を、コートのポケットから出したハンカチで、疳性に拭っている。
不器用そうに、片手で傘を持ちながら。
横から、ひょいと傘を持ってやると、ふっと顔をあげた。
「あ、ごめん」
「どういたしまして。何なら、こっちに入ってやれば?」
「え…やだよ」
「遠慮するなよ」
「するよっ。だ、大体、おかしいだろ?そんなの」
「どうして?」
「だって……男同士、だろ。お、おかしいよ……」
「そんなこと、誰も気にしないって」
「辰巳は気にならないかもしれないけど、僕は気になるよ。やだよ」
うつむいた顔が、ほんのりと赤みをさしているのを見て、俺はそれ以上何も言わずに、ただ微笑った。
「なんだよ、何笑ってるんだよ?」
気配に気づいたのか、傘越しに、上目遣いで、不審そうに、俺を見上げる。
「ん?…べつに。ただ、可愛いなって」
「なっ…!ヘンな事、言うなよっ!」
「言ってないよ?ほんとのことだろ。可愛いって、お前」
まっすぐ顔を見て言ったら、結城は黒目がちの瞳を丸くして、ぼやいた。
「ズルイよね、辰巳って」
「ズルイって? 俺が?」
「そうだよ。その顔でさ、そういうこと言うのって。反則」
「その顔って言われても、俺、わかんないんだけど?」
「……だからさ、辰巳って、その……、カッコイイから。そんなこと言ったら、本気にしちゃうんじゃない? みんな」
「本気だよ」
「………」
「信用されてないんだ? 俺って」
「そんなことない、けど……」
「それに、皆、にも、言ってない」
「あ、えっと…その、ごめん。あの……、怒った?」
「いや、別に。っていうか、むしろ、ちょっと嬉しかった」
「え、なんで?」
きょとんとした結城を、傘ごとひきよせて、囁く。
「かっこいいんだ? 俺」
「は!? 何、自分で言ってんの、辰巳」
思いきり、呆れた顔で言われたのに、俺は苦笑する。
「言われた事、ないから」
「あるだろ、何度も」
「ないよ。好きなヤツからは。誰のことだかも、言った方がいい?」
絶句して傘を奪い返すと、綺麗になった眼鏡をかけなおして、結城は俺を小さく、睨みつけた。
うっすら桜色に染まった顔で。
Fin.