弄り遊戯SS(二宮×陸)

  片思い  

 「つまんねぇ…」

 透明なグラスに入った、やたら甘い酒を飲みながら、俺は小声で呟いた。
 いつもは気になんねぇのに、店ん中の、がちゃがちゃしたBGMがうるさくてたまらない。

 

「ハヤトー、どうしたん?まっずそーに飲んでる〜」
「ああ?ウルセー。ほっとけ」
「え〜っ。やだー。ほっとけなーいっ。最近、ハヤト付き合い悪いよぉ。
ハヤト、いなかったらつまんないもん」

 猫みたいに擦り寄ってくる、甘くて、柔らかい身体。
 ちょっと遊ぶには、ちょーどいい感じ?
 アカラサマに、誘ってます、っての、ミエミエ。
 そーゆーの、後腐れなくって、お持ち帰りにはちょうどいいんだよな。

「あのさ…お前、友達、っている?」
「え?何?ともだち?いるよーぅ。ハヤトだって、ともだちじゃん」
「ああ。ちがくて。なんつーの、ほんとの友達?」
「え〜、マジ、どうしたの、ハヤト?悪いもんでも食った?」
「お前な…。んだよ、悪かったな。どーせキャラ違うっていいてーんだろ?」
「そーそー。わかってんじゃん。って、ゴメン、ウソウソ。睨まないでよぅ〜っ! や、でもマジ、びっくりしたからさぁ。ほんとの友達? あー、うん。いなくもない、かな…?」
「何ソレ。いんの、いねぇの?」
「あー、だからさぁ〜。あたしはともだちって思ってるけどぉ。向こうはあたしのこと、どう思ってるのか、わかんないじゃん?ってか、フツー、訊く?『あたしら、ほんとの友達だよね!』とか」
「…あ〜、きかんえぇな、フツー」
「でしょぉ? いちいち確認とらないじゃん。だから、あたしは、マジで、ともだちって思ってるけど、向こうはわかんないからさー。もしかして、片思いかもしんないじゃん。うわっ、そしたら、けっこうーショックぅ〜!」

 きゃらきゃら笑いながら、ケータイを取った。
 ぱぱっと返信しながら、俺のグラスを勝手に取って、一口飲んでから、立ちあがった。

「ごめんねー、ハヤト。あたし帰る〜。ともだちがさ、明日の講義代返もーしてくんないって。そろそろ出欠ヤバイって〜。ノートももう見せてくんないって言うんだよぉ? ひどくない? せかっくハヤトと遊ぼうって思ってたのにさー。しょーがないから、帰って寝る。じゃ〜ね、ハヤト」

 ばいばーい、っとぴらぴら手ぇ振りながら、そいつはさっさと帰って行った。
 しょーがない、と言いながら、なんか嬉しそうにメール、打ってた。
 こいつは、片思いじゃねーんだろうな…。

 

「二宮」
「あ?何。大沢」
「めずらしーな。逃げられたのかよ」
「さっきのオンナ?ばーか。ちげーよ。誘ってもねぇよ」
「ふーん。そうなんだ?じゃあ、この後、いけるな」
「いかねーよ、俺、もー、帰るから」
「付き合い悪いな」
「悪ぃ。俺、今、そーゆー気分じゃねーんだ」
「ふぅん…?別に、無理して来いって言わないけど。気が向いたら、また来いよ?」
「ああ、わかった」

 

 コンビニ…よってかなきゃな。
 なんか食いもん。
 ビール…はのめねーからな、あいつ。俺のだけでいーや。
 ウーロン、でいっか…。

 

 いつもポケットにつっこんだままの鍵を取り出す。
 アパートの。
 鍵。
 どこにでもあるよーな、安っぽい、アパートの鍵。
 俺がぶんどったから。
 あいつはどこにも、いけない。
 どこにもいけねーから、しょーがねーから、俺がいく。
 ウチにも帰んねーし、大沢の誘いにものらねぇ。

 

 カチ、っという音に気付いたのか、毛布を羽織っただけの姿で、あいつが振り向く。

「に、のみ、や……」

 先に飯くわそーとか。
 風呂いれよーとか。
 そういうの、いっぺんに、ふっとぶ。
 ぼうっとした、潤んだ目、見たら。

「結城、結城―――――ッ!」


 噛みつくみたいにキスして、貪るように掻き抱いた。


 本当のトモダチなんて、どうだって、いい。
 んな、めんどくせー、こと。


 この鍵があるから。
 コイツはここにいるし。


 トモダチ―――?


 ともだち、なんかじゃねぇよ。

 

 こいつが、トモダチだったことなんて、一度だってねぇよ。

 

「結城……、」


 ぐったりして眠る結城の、柔らかい髪にキスをして、俺は昨夜買って来た、コンビニの袋の中身を、テーブルの上に置いて、立ちあがった。


「じゃあ、な」


 聞こえてねぇの、わかってっけど。
 鍵をかけて、俺は部屋を後にした。

 
Fin.
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