臨海合宿SS(霧原×真田)

羽根突きバトル

「羽根突きをしないか」

 そう言って、霧原が直登の家に遊びに来たのは、そろそろ冬休みも終わろうかと言う頃だった。
 実は結構テキトーなくせに、育ちがいいんだか何だかしらないが、挨拶だけは妙にそつのない霧原は、直登の母親にも愛想よく挨拶を済ませると、さっさと直登を外に連れ出した。
 そして行き着いた先は、近所の公園だった。
 子供は風の子、とはよく言ったものだが、今日日、こんな寒い日に外で遊ぶのは、子供だってご免らしく、住宅街の中にあるのにふさわしい、小さな児童公園には、直登と霧原の二人以外、他に人影はなかった。
 で、冒頭の台詞に戻るわけである。

「はあ……?何、言ってんだ、いきなり」
「いきなりでもないよ。だって、お正月だよ。羽根突きするのなんて、当たり前の季節行事でしょ」
「それ、いつの時代の当たり前だよ……」

 呆れる直登をそのままに、霧原は持参していた大き目のトートバッグから、羽子板を二つと、羽を取り出した。
 はい、と片方の羽子板を直登に手渡す。
 何となく受け取ってしまい、直登は、羽子板をものめずらしそうに眺めた。

「実家の押入れを整理してたら、出てきたんだよね。見たら、何だかすっごく、遊びたくなっちゃって。こうなったら、君を誘うしかない!と思ったんだ」
「思うなよ……」

 そんな思いつきで、この寒い中、外に引っ張り出されてはたまらない。
 こんな曇り空の寒い冬の日は、こたつでぬくぬくしながら、みかんでも食べていたい気分だ。

「いいじゃない。やってみれば、結構、楽しいかもよ?身体もあったまるし。そろそろ、寝正月にも飽きてきたころでしょ」
「勝手に人の正月を寝正月だと決め付けるな!ったく、相変わらず、とことんマイペースだよな……」
「うん、思いついたら、即実行!ボクは、後悔のない人生を歩みたいからね」
「どんな人生を歩もうとお前の勝手だが、オレの関係のないところで歩んでくれ」
「何言ってるんだよ。ボクの人生の道に、君の存在は必要不可欠だろう。冷たい恋人だなあ」
「ば、馬鹿っ。こんなとこで、何言ってんだよッ!」
「心配しなくても、誰も聞いてないって」
「お前は気にしなくてもいいだろうが、オレは近所の目があるんだッ!!」

 怒鳴る直登を、霧原は面白そうに見ている。
 そして、おもむろに、直登の口を手でふさいだ。

「はいはい、わかりました。もう言わない。だけど、君の声の方が、よっぽど大きくて、周りに聞こえちゃうよ?」
「うう゛っ………」

 その通りだたので、直登は不本意ながら口を閉ざす。
 なんでオレはこいつと付き合っているんだろう、ともう何度目かわからない、自問自答をする。

「それじゃ、始めようか、羽根突き」
「誰も、やるって言ってねぇだろ」
「でも、ここまで来たんだから、何もしないで帰るのも、ね?……ああ、そうだ。ただ羽根突きするのがつまらないなら、賭けをしようか」
「賭け?そんなもん、オレは……。つか、お前、仮にも教師になろうってヤツが、学生に賭けをもちかけんな!」
「お正月でしょ。固いこと言いっこなし。それに、心配しなくても金銭的な賭けはしないかいから」
「ああ、それなら……」
「じゃあ、決まりね。賭けつき羽根突き」
「ちょっと待て!だからオレはやるとは言ってねぇ!」
「まあまあ」

 ……というような、やり取りをした後、結局、直登は霧原と羽根突きをするはめになった。
 いつもいつも、上手い事言いくるめられて、結局、霧原の思うとおりにさせられている気がする。
 いや、気がする、のじゃなくて、そうなのだ。
 今年こそ、この状態を挽回しなくてはならない。
 この羽根突きは、その皮切りだ。
 もうこうなればとことんやってやる!という、半ばやけくそ状態で、直登は羽子板を握りしめた。


「スマッシュ!!」
「あっ!」

 羽根突きでなんでスマッシュなんだよ、と突っ込む暇もないくらい、やりだしてみれば、結構夢中で、羽根突きに熱中している。
 結局のところ、直登も、そう複雑な方ではないのだ。
 久しぶりに身体を動かすのも、悪くない。
 こたつでごろごろしながら過ごしていたので、このツケは、おそらく間違いなく、明日に筋肉痛となってやってきそうではあったが。

「おまっ、ヒキョーだぞ!羽根突きにフェイントなんてかけるなよな!」
「何言ってんの、真田君。これは勝負なんだよ?フェイントくらい、見抜かなくっちゃね」
「くっそー!!」

 墨も筆もないので、ミスっても、顔にバッテンは無しだ。
 その代わり、ミスした回数を、地面に小枝でひっかいて、カウントしている。
 そのトータル数で、最終的な勝敗を決めるのだ。
 とりあえず時間制にして、20分勝負になった。
 たかが20分、という感じだが、結構走り回って、意外にハードだ。
 ケータイのアラームが鳴って20分が経過した頃には、息が切れて、治まるまでしばらくかかった。

「勝負は、ボクの勝ちだね」
「くっそー。地味に悔しいなコレ」
「はは。勝負だからね、一応。ところで、賭けのことだけど」
「ああ、そういや、そんなのあったな。あれ?何を賭けるのか、決めてたっけ」
「まだだよ。……ってか、そういうことを、最初に聞かないのが、君らしいよね」

 うかつで、という霧原の心の声は、もちろん、直登には届かない。

「そうだなあ、どうしようかな?」

 にっこり、と笑った霧原の笑顔が、とてつもなく、胡散臭い。
 ものすご〜く、嫌な予感がする。

「そうだなあ。………とか、やってもらおうかな。それとも、君が……するところを見せてもらう、とか」
「なっ、何言ってんだよ!?却下だ、そんなもん!」
「え〜!でも、勝負は付いたんだよ。賭けつきなことも、承知しただろ。約束は、ちゃんと守ってくれなきゃ。ね?」
「ううううう゛………」

 賭けなんかするんじゃなかった、と心のそこから思ったが、もちろん、後の祭りだ。

「……じゃ、じゃあ、最初に言ったヤツ。それなら、いい。すげーやだけど、いい。でも、後のヤツは、死んでもヤダ」
「うん、わかった。それでいいよ。そっか、あっちはイヤなんだ。ふぅん、そっか、そっか」
「何、納得してるんだよ!?」
「いやほら、今後の参考にね」
「するなッ!!」
「えー、でも、マンネリ化しないためにも、色々模索しなくちゃ」
「しなくていいッ!この、セクハラ男!!」
「ははっ。褒め言葉として受け取っておくよ」
「褒めてねぇッ!!」


 今年の目標は、『霧原の口車には、絶対、乗らない!』にしよう、と胸に誓う直登だった。
 


Happy Nwe Year!!