神学校(ロバート×ジョッシュ)
心配事
「悪い。今日は、やめておくよ。皆で楽しんできてくれ」
「あ! おい、ちょっと待てよ、マイケル……!?」
その声は聞こえていただろうに、マイケルは足早にその場を立ち去ってしまった。
後には、呼びかけるように振り上げた手を、力なく落として、立ちつくすロブがいた。
「ロブ……」
僕の声に、ロブは振り向いて、彼らしくないどこか苛立たし気な顔を見せた。
「ああ、ジョッシュか」
「また、振られちゃった?」
「見ての通りだよ」
「そっか……」
ロブは、昼休みである今、マイケルをフットボールに誘って、断られてしまったようだ。
マイケルは、このところ、いつもそうだ。
前は、よく、ロブたちとボールを追いかけていたのに、このところはさっぱりだ。
「今は、ね。そんな気分になれないだけなんだと思うよ。あんなことがあったばっかりだから……」
「それは、俺もわかってる。だからこそ、ボールでも蹴ってたら、マイケルも少しは……、気が、晴れるんじゃないかって」
視線を落として、ロブは力なく呟く。
僕はそんな彼の様子を見て、微笑んだ。
「優しいんだね、ロブ」
「優しくなんか……ただ、ちょっと、心配なだけだ。このままだと、マイケルのやつ、一人で無茶な事しでかすんじゃないかって気がして……」
それは十分、優しい、ってことだと思う。
ルームメイトが、辛い出来事を経験して、いつもと様子が違うから、優しいロブは、何か力になってやりたい、と思うのだろう。
僕も、マイケルの事は心配だけど、彼みたいに、自分から動こう、とはしなかった。
今は、そっとしておいた方がいいんじゃないか、と思っていたから。
それに、僕は彼みたいに、優しくはない。
頼られれば、手を貸す事はあるけど、あまり自分から積極的には、手を差し伸べたりはしない。
もちろん、マイケルが何か言ってくれば、僕だって、力になってあげたい、とは思う。
だけど、マイケルは何も言わない。
マイケルが何かを、一人で、抱え込んでしまっているのかと思えば、僕も心配には思うけど……。
どちらかと言えば、僕は、冷たい方、なのかもしれない。
自分から、厄介事には関わらないタイプ、とでもいえばいいのかな……。
「そういうのを、優しい、って言うんだよ、ロブ。……何だかちょっと、妬けちゃうな」
からかうようにそう言うと、ロブは面白いくらいに慌てて、言った。
「な、何言ってんだよ、ジョッシュ! そういうんじゃない! そうじゃなくて、俺は、ルームメイトとして……! そ、それに、もし、お前に何かあっても、同じくらいに、いやそれ以上に、心配するし、力になってやるから!!」
ロブに勢い込んで言われ、そのあまりの剣幕に驚いて、僕は笑いだす事も出来ずに、ただ黙ってうなずいた。
胸の中が、ほんのりと温かくなった。
きっと、彼の言うように、もし僕に何かが起こったとしたら、ロブは自分の力の及ぶ限りを尽くして、僕のために動いてくれる。
そう、信じられたから。
「ありがとう、ロブ」
「礼を言われるような事じゃない。……それに、お前だって、同じだろ、ジョッシュ」
「え?」
「俺に何かあったら、ジョッシュだって、俺の力になってくれるだろ?」
「……うん」
僕は、ロブとは違うから。
無条件に、誰の力にも、はならないけど。
君のためになら、いつだって、どんな力だって、尽くそうと思う。
「ほらな」
ロブは、そう言って、嬉しそうに笑った。
さっきまで、少し落ち込んでいた様子は、もうどこにも見えない。
僕と話すことで、ロブの気が晴れたのなら……今この時も、ちょっぴりは、彼の力になれたって、思ってもいいのかな。
「それじゃあ、行くか、ジョッシュ」
「……って、どこへ?」
「なんだよ。マイケルに話してたの、聞いてたんじゃなかったのか?」
ロブは、その場でボールをける仕草をして見せた。
「あ、フットボール……」
「そう。お前も、俺のチームに入れよ」
「審判じゃ、ダメ?」
「ダメだ。ジョッシュが審判をやるのは、マイケルが復帰した、後だな」
「うわあ……。それは、早くマイケルには、元気になってもらわなくっちゃ、困るな」
「そうだろ?」
ロブに手を引っ張られて、僕らはグラウンドへと駆けだした。
グラウンドには、すでに集まっている、他のメンバーが、ロブと、僕の姿を見て、手を振っている。
早く来い、と言っているのだろう。
フットボールは、やるよりも、見てるだけの方がいいんだけどな……。
本当に、マイケルには、一刻も早く、皆とフットボールを始める気になってもらわないと。
僕が無事に、審判役に戻れる日は、まだ少し……、ほんの少し、先になりそうだった。
Fin.