修業旅行SS(瀬永×南部)

勉強会。

「………だから、フィーリングで訳すなと言っているだろう」

「んなこと、言ったってよっ……」

 

 休日。
 しかし、受験生にそんなモノは、なく。
 俺は、何故か瀬永のウチ、に来ており。
 エーゴの勉強、なんてもんをやっている。
 ってか、やらされている。

 

「いいだろ、意味は通じてんだから」

「馬鹿。日常会話ならそれでもいいかもしれんが。これは受験英語、ってヤツなんだ。きっちり訳せ。大体お前、単語を覚えているのか?」

「うっ……」

「南部。お前な……」

 呆れたように、溜息をつくなっ。
 俺の壊滅的な英語を見てやろう、という。
 瀬永の好意は…まあ、ありがたい、けれども。
 どーにもこーにも、こいつの、教え方、ってヤツは。
 ちょ〜っと、スパルタ、っぽくて。
 俺は、さっきから怒られてばかりだ。
 最も。
 瀬永に言わせれば、怒られる俺のが悪い、って事に、なるんだろうが……。
 それにしても、なぁ?

「いいか、ここはな……」

 瀬永が、俺の隣りに寄り添うように、参考書を覗きこむ。
 近付いた分だけ、瀬永、の匂い、が。
 鼻先をかすめる。
 たぶん、いつも使ってるであろう、シャンプーと。
 瀬永、本人の、匂い……。

 

「……おい、南部」

「な、なんだよ?」

「何故、遠ざかってるんだ」

「え?そ、そうか?」

 う、鋭い。
 さり気なく、離れたつもりだったのに。

「教えてやってるんだから、もう少し近くに寄れ」

「いいよ、ここで」

「遠慮するな」

「いや、別に遠慮とかじゃねぇから……」

 会計を遠慮しあうおばちゃんみてぇな、押し問答を。
 不毛にも続けてしまってから。
 埒があかない、とばかりに。
 瀬永は、ぐいっと俺を猫の子のように掴んで、引き寄せやがった。

「南部、お前……」

「な、なんだよッ!?」

 うっかり、声が、ひっくり返りそうになる。

「……顔が、赤い」

「赤くねぇッ!」

「………、何、考えているんだ、お前?」

「何も考えてねぇッ!」

 いや、これはおかしいか?
 英語の事、って答えるべきところか!?

「………」

 黙ったまま、瀬永は俺の顔を、見つめて。

「わかった」

 何がだよッ!?
 勝手に結論を出すなッ!
 ……という俺の心の叫びは、もちろん、伝わるはずも、なく。
 瀬永は、何故か…、おもむろに眼鏡を、外した。

「仕方がないな。俺は、一応、勉強が終わってから、と思っていたんだが」

「な、何の話だよ……!?」

「南部が集中出来ないとあらば、仕方ない。先に済ませよう」

「だから、何の話……んっ」

 おしゃべりは、ここまで、と言わんばかりに、口をふさがれた。
 ……瀬永の、口で。

「ちょっ……待て、待てよ、瀬永!?」

 唇が離れていった瞬間を逃さず、俺は瀬永を両腕で、思いきり、遠ざける。

「英語の勉強は!?」

「どうせ、集中できないんだろう?だったら、少し運動して、頭をカラッポにさせる。その方が、英単語のひとつだって、頭に入りやすくなるだろう?」

「どんな理屈だよ、それッ!?」

 いくらこいつが、元・生徒会長の、優等生だからって。
 今の理屈は、何か、おかしい。
 って、それくらいは、いくら俺だって、わかるぞ、おいっ!?

「……どのみち、英語が済んだらヤルつもりだったんだ。順番が変わっただけだ、気にするな」

「気にするに決まってんだろ!……って、大体、俺は、英語以外の事をするつもりは………っ、ん、んっ」

 

 問答無用。
 と、ばかりに、再び口をふさがれて。
 見た目より、ずっと力のある優等生に。
 マジで、頭、カラッポになるまで。
 運動、につきあわされる羽目になった、俺だった……。

 

 ちなみに、その後、しっかり、英語の続きもやらされた。
 ……お前は鬼かッ!?


Fin.