修業旅行SS(松浦×南部)

進路調査。

 後からプリントを集めて。
 って声に、手にしていた紙を、渡して。
 H・Rが、終わった。
 ざわざわと、騒ぎながらも、それぞれが教室を後にする。
 で、カバンを持って立ちあがった俺に。
 ねぇ、と聞きなれた声がかけられた。

 

「ねぇ、南部」

「ん?何だよ」

 振り返ると、松浦が、いつもの、ほわん、とした顔で立っていた。

「南部は、どこにしたの?さっきの」

「あー、あれ。まー、適当に。第1が国立で、第2、第3がその辺の私立」

「なぁに、それ?いいかげんー」

 くすくす笑う松浦に、ちょっと、顔を顰める。

「まだ春先だぜ?後で変わるかもしれないしよ……。そういう、松浦は?」

「僕?僕はね……」

 続いて出た学校名は、どれも名の知れた、とこで。
 さすが、松浦。
 と、声には出さずに、思う。
 んなトコ、冗談でだって、書けねぇよ。

「あれ?でもさ、お前ンちって……」

 以前聞いた、松浦の家業を、思い出す。

「神社、だろ?なのに、理系のガッコ、いくのか?」

 神社に必要な学校?
 っての、何なのか、はっきりいって、わかんねぇけど。
 どっちかっつーと、理系じゃなくて、文系じゃね?

「ん〜、そうだけど……、まだ、継ぐってはっきり決めたわけじゃないし。とりあえず、大学までは、好きなとこ行っていいって、言われてるから」

「ふ〜ん、そうなんだ」

 まあ、オヤが元気なら、急ぐ必要もねぇ話なんだろうし。
 と、思って、何気なく、松浦を眺める。

「でも、さ。お前……、羽織袴……じゃねぇ、何っつうの?アレ。神主さんの服。ああいうの、似合いそう」

 テレビでぐらいしか、見た事ねぇけど。
 ああいう白い着物とか、烏帽子?とか。
 似合いそう。
 何か、いかにも、霊験あらたか、って感じじゃねぇ?
 実際、霊感もあるワケだし。

「そうかな?」

「うん、ぜってー、似合うって。あ、でも、松浦だったら、巫女さんの服も似合いそうだな?」

 ついでに、巫女さんのカッコも、想像してみる。
 ………。
 うん、似合う。
 こっちの方が、かえって、いいんじゃねぇの?

「え〜、やだなー。それだったら、南部だって、似合うと思うよ?巫女さんの衣装」

「げっ。何言ってんだよ?んなワケ、ねーだろ?」

「いいや。松浦の方が、ぜーったい、似合うよ!だって、舞妓さんの格好だって、すっごく可愛かったもの」

「お前、それ、忘れろよッ!」

「忘れないよー?あーんなに、可愛かったのに」

「な……っ!嘘だ、おまえの方が可愛かった!」

「えー、南部の方が可愛かったよ〜!」

 

 そんなことない、お前だ。
 いいや、そっちだ。
 と、何の話をしていたのか、何時の間にか、すっかり忘れてしまって。
 お互い、言い合っていると。

「お前たち……二人して、何を誉めあっているんだ?」

「いや〜ん、ナ・ル・シ・ス・ト!」

 呆れたような瀬永と、ニヤニヤ笑う滝に。
 突っ込まれてしまって。
 ようやく、我に返る、俺たちだった……。


Fin.