オルメタ(瑠夏×JJ×霧生)
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「瑠夏、今、ちょっといいか……、」
ノックせずに部屋に入ったことは、俺の落ち度だ。
それは認めよう。
何せ、長い事、団体生活なんてものとは無縁だったんだ。
ゲリラに、部屋をノックする習慣なんてないしな。
「……悪い。出直す」
だから俺は、すみやかに、まわれ右しようとした。
俺には、他人様の情事を邪魔する趣味はないからな。
誰が、どこで、何をしようが、それは、そいつらの勝手だ。
好きにやればいい、と思う。
「やあ、JJ。そんなに慌てて逃げなくたって、いいだろう?」
「…………」
なのに、キング・シーザーのボスである瑠夏は、そう言って、俺の足を止めさせた。
ドアノブに手をかけたまま、内心、俺は、勘弁してくれよ、と思っていた。
繰り返すが、俺には、他人の情事を覗き見るような趣味は、断じてない。
「ボクに、何の用なんだい、JJ?」
「あー………」
用件は、ある。
仕事の件で、念のために瑠夏に確認を取っておきたい事が。
「取り込み中だろ? 俺の用は、後で構わない」
「別に気にしなくてもいいのに」
気にするというか、気になるだろう、普通!
心の中で即座に突っ込んだ後、いや、待てよ、と思う。
俺にはさっぱりわからないが、もしかしてここでは、それが普通なのだろうか?
たとえファミリーのボスのベッドで、同じファミリーの忠実な部下である霧生が、裸で組み敷かれていても、気にせずボスに用件を話してもいい、という……。
俺はあごに手を当てて、しばし逡巡した。
これが、ここの流儀と言うなら、やはり俺はそれに従わなければならない、のだろう。
昔の、ゲリラ時代を除けば、組織にくみすることはほぼ初めてと言って俺には、よくわからないが……。
「わかった」
俺は、握ったままだったドアノブから、手を離した。
向こうが気にするなと言っているのだから、気にしなくていいのだろう。
……霧生は、途中で止められて、なんだかずいぶん切羽詰まっているように見えるが、ボスがああ言っているのだから、構う事はない。
そして、用件を口にしようとしたのだが。
「……ぷっ。ふふ、あはは……っ!」
事もあろうか、瑠夏は吹き出した。
なんだ?
一体、何で瑠夏は笑っているんだ?
「はは、JJ、キミって、ホント、面白いね……! うん、ボク、キライじゃないよ、キミのそういうとこ」
瑠夏の言っている事が、さっぱりわからない。
黙ったまま顔をしかめている俺に、瑠夏はますます笑って、目じりに溜まった涙をぬぐうと、俺を手招いた。
「こっちにおいでよ、JJ。ボクへの用事なんて後回しでいいから。キミもいっしょに、しよ?」
そして、さらりと、とんでもないことを口にした。
一緒に、何を、するって?
「やだなあ。そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔しなくても」
「ボ、ボス……っ!?」
今まで黙っていた霧生も、慌てふためいて声をあげた。
そりゃそうだろう。
俺だって同じ気持ちだ。
「いいだろう、霧生。JJだって、ボクたちのファミリーなんだから、一緒に気持ち良くなったって」
ちょっと待て。
ファミリーになるって……ファミリーになるって、そういう事なのか!?
本当にこれがこのファミリーでは当たり前のことなのか……??
頭の中で、クエスチョンマークが渦を巻く。
「……っ、あ……、ボ、ボス……っ!」
そうやって俺が悩んでいる間も、繋がった部分を軽くゆすられた霧生が、抑えた喘ぎ声をあげている。
それは、普段のムスッとした顔つきからは想像できないほど、色っぽかった。
「…………」
ふと、ファミリーに入ったばかりの頃を思い出した。
霧生にリンチと呼べるような、手ひどい歓迎を受けたことは、まだ記憶に新しい。
ボスとこう言う関係を持っていたのなら、確かに、俺の事は目ざわりだっただろう。
だが……。
「ん? どうしたんだい、JJ」
瑠夏は、霧生への愛撫の手を止めずに、俺に尋ねた。
その目は、参加しないの? と言っている。
「わかった」
俺は答えると、二人が睦み合っている真っ最中のベッドへと、近づいた。
「そう、こなくっちゃ、ね……!」
「あ……っ、ん……、え、JJ、お前……っ!」
ひときわ大きく身体をグラインドさせて、霧生を喘がせてから、瑠夏はにやりと笑った。
たまらないように声をもらしながら、霧生は驚いて俺を見た。
まさか、俺が了承するとは思わなかったのだろう。
その顔を見ただけで、溜飲が下がる。
土下座され、殴って、水に流したとはいえ、まだ少しだけ、わだかまりがあったのかもしれない。
霧生が嫌がるのならむしろやってやろう、と言う、ほんのり黒い気持ちがわき上がった。
「俺は、どうすれば、いい……?」
ギシリ、と音を立てて、ベッドに片膝をつく。
シャツの前をはだけて、ズボンのベルトを抜く。
ちなみに、ベッドの上にいる二人は、すでに隠すところもなく全てを脱いでいた。
「ん〜、そう、だね……」
瑠夏は、霧生の上から身体をどけると、ベッドサイドの引き出しから、何かを取り出して、俺に投げた。
「とりあえず、ゴム、ね。霧生、たぶん、もうちょっとでイケそうだから、続き、キミがしてあげて?」
「わかった」
「ボ、ボス……っ!」
受け取ったゴムを、軽く自身を立たせてから、装着させる。
シャツは羽織ったまま、下は全部脱いで、俺は霧生にまたがった。
「ジェ、JJ、お前、まさか、本当に、ヤる、気か……!?」
赤く上気し、うるんだ目で見上げられて、思わず腰にキた。
相手は、霧生だって言うのに……。
「ああ。ボスの、命令だからな……。イヤだったら、俺を見なければいい……」
そう言って、俺は霧生の身体をうつぶせにひっくりかえした。
腰を持ち上げて、ベッドの上に四つんばいにさせる。
そして、獣のように、背後から貫いた。
さっきまで、瑠夏のモノが入っていた霧生のそこは、俺のモノを抵抗もなく受け入れていく。
「ん……っ、あ、は……、や……ぁっ」
なじませるように軽くゆすると、熱い襞が絡みつくようにまとわりつく。
俺をつかんで、離したくないかのように。
ベッドが、突き動かすリズムに合わせて、ギシギシと揺れる。
「ふうん……。色っぽいんだね、ふたりとも」
キングサイズのベッドは、大人の男3人が寝そべっても、まだ十分に余裕があった。
俺に霧生を譲った瑠夏は、そのすぐ隣で、怠惰なライオンのように長々と寝そべって、俺たちを眺めていた。
「見てるだけでも、興奮するね……?」
そう言って、瑠夏は霧生の口の中に指を入れた。
中を探るようにかきまぜながら、尋ねる。
「ね、霧生? ボクと、JJ。どっちが、気持ちいい……?」
「え……っ、あ……っ、ん、そ、んな、こと……っ!」
追い詰められたネズミをいたぶる気まぐれな猫のように、瑠夏が笑う。
無邪気で、残酷な、子供みたいに。
「答えられない……? じゃあ、もう答えは聞かないでおいてあげる。その代わり、ボクのを可愛がってよ。その口で、ね……?」
「ん、んん……っ!?」
そうして、瑠夏は霧生の口の中に、己自身を突っ込んだ。
霧生はしばらく、えずくように息を漏らしたが、すぐに、ぴちゃぴちゃと、舌を使う音が響いてきた。
「ん……っ、そう、歯は立てないで……、上手いよ、霧生」
瑠夏は、嬉しそうに霧生の短い髪をまさぐっている。
ふっと顔をあげて、俺を見ると、壮絶に色っぽい流し目をよこした。
「う……っ」
情けないが、それだけで背筋に震えが走って、霧生の中をことさら強くえぐった。
熱くて、狭い、中が、俺をいっそう締め付ける。
「あ……、ふ、ぅ……っ」
霧生が、くぐもった鼻声をあげる。
そろそろ、限界が近そうだ。
俺も……。
「ん、も、いいよ、霧生……」
「あ……っ」
ずるりと、霧生の口の中から、瑠夏は自身を取りだした。
まだ萎えてもないし、イッてもいないようだが……。
「せっかくだし、JJ。キミとも、ヤりたいしね。いいよね、JJ?」
にっこり笑って、何でもない事のように言われたので、俺は一瞬、反応が遅れた。
返事がないのを、了承と受け取ったのか、瑠夏は気がついたら後ろに回っていた。
「安心して……痛くないように、ちゃんと、ほぐした後に、するから、ね……?」
「……っ、あ……っ!」
ひんやりとした何かが、後ろにたらされたと思ったら、指、が中に入ってくる。
長くて細い、瑠夏の、指が。
「は、あ……、んっ」
1本、2本と増やされてゆく指が、中を広げ、ならしていく。
それは丁寧過ぎるくらいで、じれったさに、腰がゆれた。
「も、いいかな……? いくよ、JJ……」
そう、予告をしてから、指とは比較にならないくらい太いものが、俺の中に入ってきた。
「キミの、中……すごく、熱い、ね……?」
一度、ゆっくりと時間をかけて、すべてを中までおさめきると、瑠夏は激しく後ろから突いてきた。
「あ、や、瑠夏……っ、ん、あ、あ……っ!」
俺がわずかに反応を返した場所に気付くと、瑠夏はそこばかりを狙いすまして幾度も擦るように突いてくる。
それが、身体がドロドロに溶けそうなくらいに、気持ちいい。
俺は自発的に、と言うよりも、瑠夏に揺さぶられるままに、自身を収めていた、霧生の中をえぐった。
強弱も、緩急も、瑠夏まかせのそれは、思いもよらぬ快楽を生むようで、霧生は断続的に喘ぎ声を洩らしていた。
俺を包む霧生がイイのか、俺を貫く瑠夏がイイのか。
強すぎる快楽に、頭の中が霞がかったように滲んでゆく……。
「あ、あっ、ん、ああ……っ!!」
堪え切れない高い叫びは、一体誰のものだったのか。
深く、強く突かれると同時に、締め付けて、締め付けられて、俺は達した。
ほぼ同時に、霧生も白濁を吹き出す。
わずかに遅れて、俺の中にも、瑠夏の熱い飛沫を感じた。
瑠夏……。
人にはゴム渡しといて、自分では付けないって、ないだろ……。
倒れるようにぐったりと、ベッドに横たわりながら、俺が思ったのは、そんな益体もない事だった。
そして、翌朝。
「…………」
「…………」
「オハヨウ、霧生、JJ。いい朝だね」
そのまま寝入ってしまった俺たち3人は、ベッドの上で朝を迎えた。
朝、と言っても、もうほとんど昼に近かったが。
瑠夏は、昨夜のことなどあたかもなかったかのような、いつも通りのあいさつを告げる。
それに、霧生は律儀に、オハヨウゴザイマス、と返している。
……ベッドの上で、裸のまま。
俺は、その辺に散らばったままだった服を手早く集めて、素早く着替えると、ベッドから降りた。
「じゃ、また、後で」
挨拶もそこそこにそう言って、ドアへと向かった。
「JJ、もう帰るのかい? コーヒーくらいだったら、ここでも淹れられるよ?」
「……いや、いい」
ベッドの上で、けだるげな笑みを浮かべる瑠夏と、どこか居心地が悪そうな霧生を見比べて、首を振った。
何と言うか、もう……。
やはりあの時、変な気を起さずに、さっさと帰るべきだった。
俺は、今さらの後悔を胸にかみしめた。
まだ服を着ていない霧生と目が合って、思わず言葉が口からこぼれた。
「悪かったな、霧生。邪魔して……」
「い、いや……」
き、気まずい……。
言うんじゃなかった。
そんな俺たち2人の微妙な空気などにはおかまいなしで、瑠夏は再び俺に声をかけた。
極上の微笑みと、共に。
「また、しようね、JJ。すごく、よかったよ?」
「………遠慮する」
そうしてやっと、俺はボスの部屋を後にした。
用件なんて、もうどこかに吹き飛んでしまったが、これはこの際、仕方ないだろう。
ドアを閉めた途端、はじけるような笑い声が、背中から響いてきた。
これはたぶん、霧生の声ではないだろう……。
俺は、新たな教訓を胸に刻んだ。
次に瑠夏の部屋を訪れる時は、ノックを忘れない。
絶対に、だ。
Fin.