1.帰り道

 

「なんで、先に帰っちゃったんだよ?」

 不満げに言う悟史に、俺はフン、と鼻を鳴らして答えてやった。

「なんで、一緒に帰らなきゃいけないんだよ?」

 そう言われた悟史は、思いっきり、ガーン!……という、顔をした。
 ……オーバーなんだよ、お前は。

「だ、だって!部活ないときは、一緒に帰ろうって言ったよ、アキちゃん!」
「アキちゃん言うな。…言ったっけ、俺、そんなこと」
「言った!アキちゃ…彰宏が俺に言ったんじゃんか。俺、ずっと、待ってたんだよ?」
「ああ、わりぃ、わりぃ」

 全然、悪いって思ってないっての、丸わかりな口調で。
 おざなりに謝ったら、やっぱ、不満げなツラで、こっちを見てる。
 切れ長で、真っ黒な、目。
 そんな目で、まっすぐ見詰められたら、お前、ホントは、何もかもわかってんじゃねぇのって、言いたくなる。
 俺が、悟史を置いてって、一人で帰った、理由。

「…次は、忘れねぇように、するから、さ」

 なだめるように、そう言うと、悟史はようやく納得して、念を押すように、窓枠から身を乗り出した。
 こいつは、休み時間にワザワザ、別棟にある他クラスから、遠征してきやがったのだ。

「ゼッタイだよ?ただでさえ、クラスも違っちゃってるんだから」
「当たり前だろ。俺文系、お前理系」
「あ〜あ、なんで、アキちゃん、理系にしないんだよ?」
「お前、俺の数学の点知ってるだろうが」
「知ってるけど…。なんで、理系クラスとこんなに場所離れてるんだよー。全然会えないじゃんか」
「…会う必要、ねぇだろ」
「あるよ!なんでそんなこと、言うんだよッ!?アキちゃん、冷たいッ!」
「だから、アキちゃん言うな」

 ぺしっと頭をはたくと、何故かヤツは嬉しそうに笑い、じゃあまたね、と、ぴらぴらと、お気楽そうに、手を振って帰って行った。 

 

 

 なんで、先に帰ったか、だと?
 そんなの……

 

「二人っきりになるの。イヤだからに、決まってるだろ………」

 

Fin.

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