3.優柔不断
「いたいた、植野。お前、ホント、自分のクラスいないよなぁ」
悟史と同じ部活で…そう、確か、斉藤。
斉藤が、俺のクラスにいりびたってる悟史を見つけ、苦笑しながら近付いてきた。「何だよ、斉藤。何しにきたんだよ」
「何って、お前、忘れてんじゃねーだろうなぁ?コンパだよ、今日のコンパ!お前、数に入れてんだからな?絶対、来いよ!」
肩を、確認するように、ばしんと叩いた斉藤に、悟史はこっちを、ちらりと、伺うように、見た。
何が言いたいんだ、お前は。「え…っと、あのね、アキちゃん……」
もごもご、クチを動かす悟史に、俺は、思いっきり冷たいまなざしをむける。
「行けばいいだろ。コンパでもなんでも」
そんなの、俺にはどうでもいい。
悟史がどこぞの女子校のバカな女たちと、カラオケで騒ごうが何しようが。
そんなこと、俺が知ったことかって言うんだ。「ホラ、神近もいいって言ってんじゃん。行くだろ、植野」
たたみかける様に、斉藤が言うのに、悟史は、俺の顔と、斉藤の顔を交互に見て、心底、困った顔をしている。
「俺、ただの数合わせなんだろ?だったら、何も俺じゃなくても、他に誰か…」
「いや。ケータイの写真、見せたら、お前がいいとご指名がかかった」
「えぇ〜、何だよ、それ。勝手に見せんなよ!」
ほほぅ。ご指名、ね。
それは、結構な事じゃないか。「あの…、アキ、ちゃん?」
黙って、悟史と斉藤のやり取りを見ていた俺に、悟史が、恐る恐る、といった感じで、話しかけてくる。
……すげぇ、イラつく。「勝手にすればイイだろ。別に俺に了承取る必要なんて、ないんだから。そうだろ!?」
極めて何でもないように、言うつもりだったのが、最後は何故か怒ったように言ってしまった。
「あ、アキちゃーんっ……!」
だから、そんな情けない顔をして俺を見るなッ!
「俺、次移動教室だから。お前もさっさと帰れ」
それだけ言うと、教科書、ノート、筆記具を持って、俺はさっさと教室を後にした。
まだ何か情けない声をあげている、悟史を置き去りにして。
「冷たいよねぇ、神近は」
ずんずん廊下を歩いていたら、クラスメイトの藤原が、愉快そうな口ぶりで、話しかけてくる。
「…何がだよ」
「だから、さっきの。植野とのやり取り。」
「あんなの、フツーだろ」
「一言、行くな、って言えば、すむじゃん」
「はぁ?何で、そんなこと。俺には、関係ないだろ」
「関係ない……ねぇ」
藤原は、隣りで、ニヤリと笑うと、すたすたと俺を追い越して、先に教室に入って行った。
なんなんだ、アイツは。
ただでさえムカついてんのに、余計な事を。
行くな、って言えば、すむ?
ああ、そうさ。
そう言えば、あいつは、悟史は、コンパなんぞにふらふら出かけたりしないだろう。
でも、どうして、そんな事、俺がしなきゃいけない?
自分の行動くらい、自分で決めやがれってんだ―――バカ!!
――――そして、放課後。
「…お前、コンパ、どうした」
何事もなく、返りに迎えに来た悟史に、ムスッとして言うと、全く悪びれた様子もなく、
「断ったよ?」
と、言った。
当たり前だろ、って感じで。「っ、だったら…!」
最初っから、断りゃいいだろ、断りゃ!
イチイチ、俺にお伺いなんぞ、立てずに!「うん、そうだけど…」
言葉にしなかった俺の叫びが伝わったらしく、悟史は、頷いて、言葉を切った。
「行くな、って言って欲しかったんだ、アキちゃんに。イヤだ、って」
照れたように、笑って。
「……っ、誰がっ!言うか!バカ!」
不意打ちの微笑に、不覚にも、見惚れてしまって。
「ちぇっ。アキちゃんの、けち」
思わず叫んだら、悟史のヤツは、笑ったまま、拗ねたように、口をとがらせた。
Fin.