5.見つめる

 

 視線を感じて振り向くと、大概、にこにこ笑って俺を見つめるお前がいて。
 またかよって、うんざりするような、ほっとするような、そんな、何とも言えない気持ちになるの、どうしてだろうな…?

 

「お前さぁ、何か、楽しいの」

 俺んちで、カップ麺をすすりながら。
 テレビがやかましく騒ぐ中、向かい合って。

「麺がのびてマズくなるから、こっち見るの、やめてくれる?」

「えぇっ!そんなッ!?」

 オーバーなくらい、叫んで。
 テレビでもなく、カップ麺でもなく、俺の顔を見ていた幼馴染みは、不満気だ。

「大体お前、今更めずらしくもないだろ、俺の顔なんて。見るな。寄るな」

 麺にだけ、集中して早口で言う。
 悟史は、世にも情けない声でうなった。

「ヒドイよ〜、アキちゃんのいじわる〜ぅ」

「キモいんだよ、お前」

 きっぱり言ってやったら、テーブルに思いっきり突っ伏した。
 撃沈した悟史の、普段は見ることの出来ない、つむじをじっとみつめる。
 いつのころか、見られなくなった、つむじ。
 昔は、俺より下にあったから、容易に見られたのに。
 それなのに、今は……。

「……ムカつく」

「そ、そこまで言わなくても……」

 突っ伏した、腕の上から、ちょっとだけ顔を上げて、恨めしそうに、こっちを見て、ぼそぼそと、言う。
 フン。そんな顔、したって、ちっとも可愛くないんだよっ、お前は。
 いつもいつも。
 俺のことばっか、じろじろ見やがって。
 見せモンじゃねぇんだぞ、俺は。

「言われるような事する、テメェが悪い。」

「な、何だよ…、見てただけじゃないか…」

 そうだよな、お前は。
 見てるだけ。
 いつも。
 何も言わずに、見てる、だけ。

「見てるだけ、じゃなくて、偶には―――」

 思わず、呟いて、しまったと口を押さえるが、もう遅い。
 案の定、悟史は、がばっと顔を上げて、

「見てるだけじゃなくてもいいの?何かしてもいい!?」

 勢い込んで、近付いてくる。

「や、だから、ちがくて―――!」

 

 伸びてくる、手を。
 近付いてくる手を、それ以上、拒めなくて、俺はぎゅっと、目をつぶった。

 

 視線を感じて振り向くと、大概、にこにこ笑って俺を見つめるお前がいて。
 またかよって、うんざりするような、ほっとするような、そんな、何とも言えない気持ちになる。
 胸の中が、泡立つような。
 それだけじゃ、なくて。
 見られてる、だけじゃ、もう――、

 

 物足りない、なんて―――。

Fin.

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