6.宝物
お菓子のオマケに入ってて、集めてた、カード。
めずらしい色のビー玉。
空色のミニカー。
それと……。
「暑苦しいんだよ、お前は」
「へへっ」
こないだは、失敗した。
ちょっと、気を緩めると、コレだ。
ただでさえ、いつもべったりしてきて鬱陶しいヤツなのに。
いい年して、無駄に密着して歩けるかってんだ。「離れろ。俺の半径1メートル以内に近付くんじゃねぇ」
「えーっ、アキちゃん〜っ…」
言いながらも、律儀に、俺から、少しだけ離れる。
ああ、スッキリした。
馬鹿に陽気なクリスマスソングが流れる街中。
ヤロー二人で歩いてるってだけでもアレなのに。「………」
「どうしたの、アキちゃん」
急に立ち止まった俺に、悟史が怪訝そうに問い掛ける。
俺の視線の先を、後から眺めて、「ねぇ、それ、欲しいの?」
「べ、別に…」
って、言ったのに。
悟史は勝手に、店の中、入ってく。
そして。「すみませーん、これ、包んでもらえませんか?」
「プレゼントですか?」
「は〜い、そうですっ!」
アホみたいに陽気な声で、買っている。
俺が、見てたものを。「お、おいっ…、何、買ってんだよ?」
「ん〜?だって、アキちゃん、欲しいんでしょ。あげる。クリスマスプレゼント」
「ばか、誰がそんなんして欲しいって言ったよ!?」
「俺。」
「あぁ?」
「俺が、したいの。アキちゃんに、プレゼント。いいだろ、ね?」
何が、ね、だ。
カワイ子ぶるな、気色悪い、と言おうと思って……、やめた。
店員が包んだ、小さな箱を、代金を支払って受け取ると、悟史はさっさと、店を出た。
しばらく歩いて、立ち止まって振り返ると、何が嬉しいんだってくらいの―――、俺が、さっき、文句を言いそびれてしまった―――、にこにこ顔で、はいっ、と包みを手渡す。「……ありがとう」
対する、俺は。
一応、礼は言ったものの、誠意がこもってる、とかとは、程遠くて。
だけど、悟史は、それでも構わなかったらしく。「どういたしまして」
やっぱり、にこにこ顔のままで、言ったのだった。
「…言っとくけど、俺、お前にクリスマスプレゼントなんてもん、やらないからな?」
「うん、わかってるって」
「…ったく、こんなんよこしやがって。どうしろって言うんだ」
「ん〜、机の上に、飾っておけば。クリスマスって、感じじゃん」
悟史が、プレゼントしてくれたもの。
それは、小さな、ガラスのトナカイだった。「別に俺は、こんなん、欲しかったんじゃないからな?」
「うん、わかってる、ってば」
ただ、キレイだなって、思っただけだ。
小さい頃、集めてたビー玉みたいに。
透き通った、小さなガラスが、キラキラ、してて…。
それだけだったのに。
勝手に、先走りやがって……。
『…アキちゃん、これ、ほしいの?』
ちょっと、めずらしい色の、キレイなビー玉。
じっと、見てたら、悟史は、そう問いかけた。『はい、あげるよ、アキちゃん』
『えっ…、いいよ、いらないよ』
『ぼくも、いらないの。ね、だから、アキちゃん、もらってくれる?』
『う、うん…、ありがと』
ホントは、ちょっぴり、欲しかった。
でも、悟史から奪うつもりなんて、なかったのに。
「いっつも、そうなんだよな、お前は…」
「え?何、アキちゃん」
「何でもねーよッ!」
欲しい、と口にする前に、差し出してくれる、優しい、幼馴染み。
だから自分は、なおさら、欲しい、なんて、口にできなくなる。
俺が、本当は、何が欲しいのか、わかってるのか、悟史――――。
お菓子のオマケに入ってて、集めてた、カード。
めずらしい色のビー玉。
空色のミニカー。
それと……。
悟史が与えてくれるもの、すべて。
それが、俺の、たからもの。
Fin.