恋するふたりの10title
01.いつもの場所
PM.10:00。
いつものコンビニの前で、小さく手を振る悟史に、彰宏は苦笑しながら近寄った。
「お前……、わざわざ待ってなくてもいいって、言ってるのに」
「何言ってるんだよ、アキちゃん!こんな遅い時間、アキちゃん一人で出歩かせるわけにいかないだろ!」
「女の子じゃないんだから。って、まだ10時なんですけど」
「10時は立派に遅い時間だよ!」
これ以上言い合っていても、埒が明かないので、彰宏は、ハイハイ、といつものように、適当にあしらって歩き出す。
慌てて、悟史が追いかけてくるのもいつも通りだ。
秋も深まってきて、夜道は寒い。
彰宏が、小さく身をすくめると、ふわりと首にマフラーが巻きつけられた。
「アキちゃん、寒くない?」
「……寒くないよ」
それでも、心配そうに問いかけてくる悟史に、彰宏はそっぽを向いて、ぼそぼそと答える。
悟史は、心配性すぎる、とつくづく思う。
そんなに大事にしてくれなくても良いのに。
今だって、バイトの家庭教師の帰りを、わざわざ迎えに来てくれて、一緒に帰っているところだ。
最初は、家庭教師先の家まで迎えに来たので、流石にそれは困る、と言ったら、妥協案で、近くのコンビニで待ち合わせることになった。
どうしても、彰宏を夜道で一人にさせたくないらしい。
か弱い女の子でもない、フツーの男子大学生が、夜道、と言っても、まだ10時で終電も終わってない時刻に一人で歩いていたからと言って、何が起こるわけでもない、と言ったところで悟史は聞く耳を持たない。
俺が好きでやってるんだから、俺を安心させると思って、迎えに来させてよ、と哀願されては、一応付き合っている身としては、無碍にも出来ない。
……それに、本当は、こうやって心配されるのも、イヤじゃないのだ。
むしろ、結構、心地よい。
愛されてるんだなあ、とかしみじみ思えるし。
そんなこと言ったら、調子に乗ってどんどんエスカレートしていきそうなので、死んでも口にしないけど。
「あ……。アキちゃん、ホラ見て。お月様。まん丸だねぇ」
「ああ、ホントだ」
二人の足音が静かに響く夜道。
悟史が指差した先には、夜空にぽっかりと、丸い月が浮かんでいる。
オムレツのような、美味しそうな黄色。
「明日は、オムレツが食べたいね」
「……うん、そうだな」
「どうしたの?何笑ってるの」
「別に。何でもねぇよ」
同じものを見て、同じことを考えている。
それって、ちょっと、くすぐったい。
でも、初冬の寒さを忘れるくらい、心がほわんと、温かくなる。
その心地よさを、言葉じゃなく伝えたくて、隣を歩く恋人の手を、そっと握ってみる。
「アキちゃん……」
「な、なんだよ?」
「ううん、なんでもない」
悟史はちょっとびっくりして、でも嬉しそうに笑って、彰宏の手を、ぎゅっと握り返してきた。
いつもの場所で待ち合わせて、手を繋いで、同じ場所に帰る。
そっと隣を見ると、見つめ返してくる、優しい瞳。
暗い夜道も、冷たい風も、気にならない。
ふたり、いっしょだから。
Fin.
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