恋するふたりの10title
02.ring
さっきから、同じ場所を、ずーっと見ている悟史に、彰宏は当然気が付いていたが、あえて気付かないフリをしていた。
「…………」
でももう、かれこれ30分ちかく経つ。
そろそろ何か言わなければならないだろうか。
はあ、と彰宏はわざとらしくため息をついてから、悟史の袖を引いた。
「ほら、悟史。いい加減もう行くぞ」
「うん……アキちゃん、わかった……」
悟史は返事をしながらも、目はまだその場所を離れない。
それ―――、そう、銀色に光る、一対の指輪から。
(勘弁、してくれよ。ったく……)
彰宏は、心の中でもう一度、盛大なため息を付いた。
この状況は、流石の彰宏でも、わかる。
ショーウインドウ越しに見える、シンプルな銀色の指輪。
悟史は、あの指輪が、欲しいのだろう。
彰宏は、自分でアクセサリーをつけたりはしないが、別に男がアクセサリーをつけることに対して、偏見も反感もない。
なので、悟史が指輪を買って、自分でつける分には、好きにすれば、と思うだけだ。
だが。
(ペアリング、は、ねぇだろ……)
そう、さっきから悟史が釘付けで見ている指輪は、一つではない。
おそろいの、一対、二つなのだ。
値段的にもそう高価なものではないが、明らかに、恋人同士でどうぞ、な代物である。
そんなこっぱずかしいもの、彰宏につける趣味は、ない。
「ねぇ、アキちゃん……」
「断る」
「ちょ、待ってよ!アキちゃん!俺、まだなんにも言ってないんだけど!」
「言わなくてもわかる。お前、あの指輪が欲しいんだろう」
「う、うん……。だ、ダメ?もちろん、俺がどっちも買うから!」
「買うのはお前の勝手だからな、好きにすればいい」
「だったら……!」
「でも、俺はあんな指輪はつけないぞ」
「ええええ〜!!」
「当たり前だろ、あんなの。こっぱずかしい」
「そんなことないよ。アキちゃん、指、細くて綺麗だから、指輪、よく似合うと思うよ」
「そういう問題じゃないだろ。お前とペアリングってのが問題なんだ!」
「ペアのどこが問題なんだよ〜」
「それは……!もう、いいから、行くぞ!」
気が付いたら、ショッピングモールの中で、声を張り上げていた。
すれ違う買い物客が、ちらちらと視線をやっていることにようやく気付き、彰宏は怒ったように歩き出した。
その後を、情けない顔した悟史が、急いでついてくる。
「そんなに……イヤ?俺と、おそろい……」
「…………」
(くそっ!ったく、悟史のヤツ……!!)
彰宏は、内心で大いに毒づいた。
図体ばっかりでかいくせして、こんな時だけ、雨に打ちひしがれた子犬みたいな声を出すなんて、反則にもほどがある。
もういいから、わかったよ、と言ってやりたくなってしまう。
結局、認めたくないけど、彰宏は悟史に甘いのだ。
「……チェーンも一緒に買うなら、もらってやってもいい」
「え……?」
「チェーンだよ、チェーン。身に着けてれば、それでお前が満足するんなら、妥協案として、リングをチェーンに通して、首にかけとくくらいは………、してやっても、いい」
「ホント!?アキちゃん……!!」
「ああ」
「わかった!じゃ、俺、買ってくる!」
「あ、おい、何もそんな急がなくても……」
彰宏の気が変わっては大変、とでも思ったのだろうか。
悟史は彰宏の返事を聞くや否や、先ほどのアクセサリーショップに取って返した。
「ったく、ホント、どうしようもねぇな、あいつは……」
一人、取り残された彰宏は、苦笑して近くのベンチにとすんと座った。
思考がいちいち、乙女っていうか、夢見がち、というか。
でも、結局のところ。
自分には逆立ちしたって出てこない思考回路の持ち主な、そんな夢見る乙女な悟史が、彰宏は、キライじゃないのだった。
Fin.
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