バッテリーSS( 海音寺&瑞垣)
きみが想うよりも
面と向かって、大嫌いだと言えたら、どんなにかスカっとするだろう。
それをうっかり口にしたら、元キャプテンで、おまけに元生徒会長だったりもする、海音寺クンは、言うてみればいいじゃろ、などとぬかしやがった。
「まぁ、そんくらいでこたえたりせんと思うけど」
と、余計な一言まで付け加えて。
マジムカツク。
なまじ、当たってる思うだけに。
「大体、イチイチそんなこと言うのも、なんや、告ってるみたいやな?」
とか、寝ぼけた事まで聞かされ、煙草の煙を思いきり吹き付けてやったら、げほげほと盛大にむせた。
けっ。
ザマーミロ。
「何するんじゃ、瑞垣。他人の煙、吸いこむ方が、身体に悪いんじゃぞ」
「知るか」
「…ったく、ホントのこと言われたからって、キレんなよ」
「あ゛ぁっ!?」
睨みつけたら、海音寺はワザとらしく肩をすくめてみせた。
「でも、俺はちょっと、うらやましいけどな、門脇」
「そりゃ、アイツがうらやましくない、野球少年なんぞ、おらんじゃろ」
「そーいう意味じゃなくて。お前に、そーいう風に言われる、門脇が、ってことじゃ」
「一希くーん?何が言・い・た・い・の・か・な?」
青筋立てる心境で、でも顔はあくまで笑顔で。
言ってやったら、海音寺は、缶コーヒーを持った手をゆっくり下ろして。
ちなみにそれは、生意気にも無糖だったりして。
「何がって、そのまんまじゃ。ここに居ない時も、瑞垣に、影響を与えられる門脇って男が。うらやましいなぁ、と」
「影響、ねぇ…」
それはどんな影響なのかと、聞きたい気もしたけど、やめた。
なんか、ますますムカついてきそうだったので。
「…お前が、どう、言おうとさ。『特別』じゃろ、門脇って、瑞垣にとって。そりゃ、幼馴染みだし、天才バッターだし。『特別』なのも、しょうがないけど」
コーヒーを、一口含んで、しみじみ言う様子は、まるで。
「なんだか、まるで焼いてるみたいじゃな、海音寺」
「そうだよ?」
あっさり肯定されれば、今度は俺の方が煙にむせる番だった。
ここは、キモチ悪いことぬかすな、とかそういう切り返しをするとこじゃろ、一希クン?
「……何、びっくりしてるんだ?」
くすり、と笑って言いやがった海音寺の、実に楽しそうな顔を見て、コノヤロウ、と思う。
「気色悪い冗談、ぬかすな」
「冗談…でも、ないけど」
ずささ、と思わず後ずさりした俺を見て、海音寺はますます、愉快そうに笑った。
何なんだ、コイツは。
「一人の人間から。『面と向かって大嫌いって言いたい』ってくらいに。執着されんのって、スゲェなって」
「…ワケ、わからん」
「しかも、一方通行じゃないし」
「おいっ…!」
適当な事を、さも感心してるって風に、呟かれ、もはや俺は、どこから突っ込めばいいのかわからない。
「だって、そうじゃろ?」
何が、だって、で、そう、なんだよ?
「言うてみればいいんじゃ。何でも。アイツは、お前が言う事なら、どんなことだって、ちゃんと耳を傾ける。それをせんで、ここで、俺にグチっとるお前は、カッコ悪いじゃろ?」
「…言いたい放題、ぬかしやがって」
「そりゃそうじゃ。俺、お前に遠慮する必要、ねぇもん」
「うわっ、言いやがった」
ホントは、誰よりも性格悪いじゃろ、一希クン?
いかにも〜な、優等生ヅラしてるクセに。
「ワザと、殴られるようなこと言って。マジで殴られても。それでも、伝わったじゃろ。お前の、言いたい事」
「さぁな…わかんねぇよ、そんなん」
あいつの、野球バカの頭の中身なんて。
俺が、知るかってんだ。
知りたくもない。
「まぁ、どっちにしろ。カタは、つくじゃろ。今度の試合で」
「…そうじゃな」
最後の試合。
アイツとする。
アイツの、背中を見る、最後の試合。
「原田は大丈夫なんじゃろうな。前みたいに崩れたら、終わるもんも終わりゃしねぇ」
「あれ…姫さん、って呼ぶのやめたんか」
「はっ。あんなヤツは、原田で充分じゃ」
吐き捨てるように言ったら、海音寺はきょとんとした顔をして、それから、ムカツクくらい、盛大に、笑った。
Fin.