バッテリーSS( 瑞垣&豪)
夏空
「よぉ、野球少年。このクソ暑い中、相変わらず、部活やってんのか?」
久しぶりに訪れた、新田。
懐かしいような、懐かしくないような、そんな顔をみかけて。
ニッと、笑って挨拶してやったら、あちらさんは、ちょっとびっくりしたような顔をして、それでも、ぺこり、と律儀に小さく、帽子を取って挨拶した。
「お久しぶりです、瑞垣さん」
「おお、久々やな、永倉」
数ヶ月前。
公式なものではなく、あくまで『俺たちの』試合をやった、相手。
それは、俺の、野球納めにもなった。
「今から部活か?」
「はい。…瑞垣さんは?」
「お前なー、ユニフォームで出歩くなよ。恥ずかしいやっちゃな」
「そうですか…?」
何がおかしいのかわかわらない顔で、永倉は自分の格好をちらりと眺めた。
これだから、野球バカは……。
「俺はなー、お前んトコの、元キャプと、デートじゃ」
「……は?」
思いっきり怪訝そうな顔で言われたが、相手にせずに、勝手に続ける。
「我ながら意外なことに、仲いいんだよねぇ。…ホント、何でだ」
海音寺とは、高校も別だというのに、何故だか相変わらず親交があったりする。
メル友みたいな感じで、時間と暇があれば、こうして会ったりもして。
野球に関係ないことを、しゃべったりする。
まったくもって、不可解なことではあるが。
「まー、俺のことなんて、どうでもええじゃろ。そっちは、どうなんだ?」
「…どう、とは」
「やーねー、すっとぼけちゃって。どうって言ったら、原田のことに決まっとるじゃろ?」
「……別に。どうもしませんよ」
そっけない口調は、別にヤケクソで言ってるようでもなく。
うわー、なんか、久々に会ったら、すっかり可愛げなくなってるでやんの。
ヤダヤダ。
「…まあ、あの原田だしな。急に、どうこうなるわけ、ねぇよな」
「……そうですね」
俺の返答に、永倉はただ頷いて苦笑する。
あの原田が、一年が二年になったくらいで、急に先輩としての自我が芽生えて生まれ変わったりしたら、それこそ、キモチワルイっちゅーヤツじゃ。
「そういえば、ベスト8進出だそうですね。おめでとうございます」
「…は?何、言ってんの、お前」
帰宅部の俺にオメデトウって。
「だから、門脇さんの、学校。ベスト8」
「あのなあ…」
お前もかよ?と言う気力は、すでにない。
何故なら、親兄弟友人後輩その他もろもろ、から同じ台詞を聞きまくったからだ。
「言っとくけど、俺は、門脇のガッコが勝とうが負けようが、どうでもいいの」
「そうなんですか?」
ちょっと、目をみはられて。オイ、そんな驚くようなことか?
「…だったら、お前は。原田巧が天下のプロ野球選手になって。めでたく永倉医院継いだお前に、『昨日の試合、原田が勝利投手でしたね、おめでとうございます!』とか言われたとして。どうだよ?嬉しいか」
「……そうですね。嬉しいんじゃ、ないですか?」
「……おい」
「はは。わかりませんよ、そんな先のこと」
ホンマ、こいつも言うようになったもんじゃ。可愛げのない。
「仕方ないでしょう、そんな、先のこと考えたって。俺は、今、目の前のことだけで、精一杯ですから」
そう言って、永倉は、気持ちよさそうに、笑う。夏の、風みたいに。
「お前も……、苦労してんなぁ」
思わずもれたつぶやきに、永倉は、もう慣れましたよ、と何だか切なくなるようなを言って、ニヤリと笑った。
「でもまあ、そうですね。門脇さんは門脇さん。瑞垣さんは瑞垣さん、ですね。さっき言ったことは、謝ります」
「…別に、謝らんでもええけどな。それより、時間、いいんか?」
「あ…っ、そうですね、俺、いきます。それじゃ」
「ああ、じゃあな。倒れん程度にがんばれや」
駆け出した永倉に、ぴらぴらと手を振る。
その後姿をすっかり見送ってから、デートの相手への、待ち合わせ場所へと、歩き出す。
ちょっと遅れたけど、構わんじゃろ。
なんせ、このオレサマを待っとるんじゃから。
待つ時間も楽しみ、ゆーヤツじゃ。
なあ?海音寺。
見上げた空は、どこまでも青くて。
まだ、夏は、当分終わりそうにもない。
Fin,
※ラストイニング発売前に書いたものです……。