きいろいパンケーキ


アルファベットが、頭の中でぐるぐるする。
ぽんぽん、と叩いたら、左耳から、ぽろぽろこぼれおちるね、ぜったい。
見たいテレビも見ずに、うっかりDSの電源入れちゃったりもせずに、アルファベットと格闘し続けて、2時間近く。
もうそろそろ、限界だ。
いくら自分が、ジュケンセイってヤツでも。

「俺は、ずーっと、日本でくらすんだ。英語なんて、俺には必要ないんだー!」

思わず叫んでみるけど、だからって、受験科目から英語が消えることは、ない。
ああ、わかってるさ!
参考書を持ったまま、俺は机に撃沈する。

『ぶるるる……』

静か過ぎる部屋では、小さな音も、びっくりするくらい、響いて、俺はどきっとした。
ベッドの上に、放りっぱなしだった携帯が、メールの着信を告げていた。

『ぴっ』

ずるずると起き上がって、ベッドに寝転んで、メールをチェックする。
同じくかなしいジュケンセイである、わが親友からだ。


窓の外、みてみ?
きいろくて、でっかい、パンケーキみてぇ。
ほら、あれ。
ねずみの兄弟が、でっかいフライパンでパンケーキ焼く話があるじゃん。
あれあれ。あんな感じ。
うまそう。
あー、腹減った。
なあ、世の中、かけざんとわりざんができてたら、それでよくね?
もう俺、数字見たくないんですけど。
数字、いらねぇ!



立ち上がって、カーテンを開ける。
窓の外には、きいろいパンケーキみたいな、大きな月。
うん、たしかにうまそうだ。
俺は、すぐさま返信する。


俺はどっちかっつーと、パンケーキよりお好み焼きが食いたい。
んで、数字よりアルファベットがいらねぇ。



送信完了。
窓の外のパンケーキ(でも俺が食いたいのはお好み焼きだ)を、もう一回見て、カーテンを閉める。
ケータイを、ぽんっとベッドに放り投げ、うーんと、伸びをひとつ。

「Let's study English!」

せっかく覚えた英単語が、こぼれおちないように両手で頭を押さえて、再び机につく。
パンケーキの空の下で、あいつもガンバッてるんだし。
とりあえず、俺も、もうちょっと、ガンバロウ、うん。


おわり。


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