レンジでコッペパン


布団の中でうとうとしてんのも、いい加減、たいくつになってきた頃。

「よお! 生きてっか?」

ノーテンキきわまりない声とともに、ひょこっと、頭がのぞいた。

「……生きてるよ。縁起でもないこと言うなよ」

布団から、顔だけ出して、ジロリ。
でも、まったく悪びれたとこのない、ヤツの顔を見てたら、それ以上怒ろうって言う気も、なくなってくるってもので。
第一、怒ってたら、せっかく下がってきた熱が、また上がっちゃうし。

「早く、ガッコ、来いよー! お前いなかったら、ツマンねーよ……」

ベッドの端に、ちょこんと腰かけて、そんなしおらしい事、言ったりなんかしやがるから、さっきの発言は、帳消しにしてやろう、ウン。

「んなこと、言われたって、やっと熱、下がったばっかなんだぜ。インフルじゃなかったからよかったけど、けっこう、高熱だったんだぞ。38度ちょい」
「そんなの、気合で下げろよ!」
「下がるかっ!」

叫び返したら、ちょっとむせて、ケホケホ咳き込んだ。
シマッタ、って顔で見られて、そんなんじゃないから、って、慌てて手を振った。
それで、ちょっと安心したヤツは、そうだ、と呟いて、傍らに置いていたサブバッグから、ごそごそと、何かを取りだした。

「はい、コレ!」
「……なんだ、これ」
「コッペパン。給食の」
「見れば、わかるけど。なんで……」
「お前の分、持って来た!」
「………」

何故、わざわざコッペパンを……。
プリンとか、デザート系ならまだしも、パンって。
しかも、黒砂糖パンとか、美味くて人気のあるパンじゃなくて、一番ポピュラー、かつシンプルなパンを……。

「牛乳は、飲んじゃったから。コッペパンは持って来た」
「別に、パンも食ってくれてよかったんだけど」
「なんだよ。コッペパン、馬鹿にすんなよ!」

いやいやいや。
別に、馬鹿にしてなんかないから。

「それに、コッペパンって、レンジでチンして食うと、美味いんだぞ」
「ホントに?」
「マジマジ。あ、おばさんに頼んで、これ、レンジであっためてこようか?」

腹は、別に空いてないけど、パンくらいならまあ、食えない事もない。
そこまで言うなら……。

「じゃあ、頼む」
「よし、頼まれた!」

そう言うと、ヤツは本当に、コッペパンをあっために出ていった。
そして戻ってきた時には、レンジであっためたコッペパン、プラス、レンジであっためた牛乳の入ったマグカップが、二人分。
小さくちぎって、一つのコッペパンを、二人で分け合って食う。
うーん、なんだかなあ……

「あ、ホントだ。結構、美味いな」
「だろっ! ほら、もっと食えよ」
「うん」

そうして、元々大した大きさじゃなかったコッペパンは、あっという間に俺たちの腹の中に、消えていった。
少しぬるくなった牛乳も、これはこれで美味いな、と思いながら飲んだ。

「うん。これで、元気になったな!」

何がこれでなんだ、と思わなくもなったけど、うん、まあ、たしかに、元気は出た、かもしれない。

「じゃあ、俺、帰るわ。明日は、ガッコ、来るよな」
「ああ、うん。たぶん」
「たぶんじゃなくて、絶対、来いよ!」

ぶんぶん手を振りながら、来た時と同じくらい、騒々しく、ヤツは帰って行った。
ヤツめ、見舞いに来たっていう自覚はあるのか?
だが、まあ、うん。
レンジでコッペパンがいける。
って、わかっただけでも、今日のところは、まあ、よしとしてやろう。


おわり。


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