きのこたけのこ
「せーのっ!」
「じゃんっ!」
声を合わせて、それぞれ後ろ手に持っていたモノを、机の上に置いた。
「2個!」
「3個! やった、俺の勝ち〜ィ!」
ガッツポーズを取ったヤツに、俺はすかさず反論を試みた。
「ちがうっ! 俺より多い1個って、お前のねーちゃんからのじゃん! にーちゃんしかいない俺が1個少ないのは当たり前だろ!?」
机の上にあるのは、チョコレートの箱だ。
そう、今日は2月14日。
嬉し恥ずかしバレンタインデーだ!
昼休み、弁当を食べ終わった俺らは、もらったチョコレートの数を競っていた。
うん、わかってる。
競えるような数じゃないけどね?
ちなみに俺の内訳。
お母さん、ウチのクラスの調理クラブの片倉さんがお情けでクラスの男子全員に配ってくれた、クラブで作った手作りチョコレート。
それで2個。
ヤツはそれに、お姉ちゃんからもらった1個がプラスされたわけだ。
「それはお前んちの事情じゃん。なんなら、兄ちゃんからチョコもらえばいいだろ?」
「キショイこと言うな! あのにーちゃんが俺に何かくれるなんて後が怖いだろ!」
兄ちゃんにチョコなんかもらった日には、ホワイトデーに30倍返しを要求されるに決まってる!
そうじゃなくても何かと便利にパシられやすい哀れな弟なのに、俺!
「お前んちの兄ちゃん、俺にはけっこー優しいのになあ」
「外面がいいんだ。俺には優しくない」
「いや、そんなこともなくね?」
「お前が、ウチの兄ちゃんの何を知っているって言うんだ……!」
「まあ、それもそうだな」
ヤツはあっさりと意見をひっこめると、まだ背中に回していた右手を出した。
その手に握られていたのは……。
「そんなカワイソウなお前に、俺がこれをやろう」
「おお……!」
こ、これは……っ!
「奇遇だな。実は俺からも、お前に渡すものがある」
そう言って、俺もまだ背中に回していた左手を差し出した。
もし万一、ヤツが1個ももらえなかったら不憫だなと思って、用意しておいたのだ。
いやー、俺ってほんと、友達思いだよな。
「ほあ……っ!!」
ヤツの目が輝く。
「ありがとな! やっぱりチョコレートって言ったら、たけのこの里だよな!」
「俺もありがとな。チョコレートと言えば、何と言っても、きのこの山だよな!」
にっこり笑ったヤツに、俺も負けじとにっこり笑い返して答えた。
「…………」
「…………」
お互い、もらったチョコレートの箱(当然、ラッピングなどは施されていない)を手にして、しばし無言で睨みあう。
「何言ってんだよ! チョコっつったら、たけのこの里だろ!?」
「お前こそ、何言ってんだよ、チョコってったら、きのこの山に決まってる!!」
チョコとビスケットの絶妙な味わい。
そして愛らしくもメルヘンなきのこの形。
何をとっても、きのこの山が一番だろ。
こいつ、ほんっとに、わかってねえ……!!
「いいや、たけのこの里だっ! このチョコレートとクッキー部分のハーモニーがだな!」
「それ言うなら、チョコレートとビスケットのハーモニーの方が上だ! ほどよい歯ごたえといい!」
「お前、わかってねえな! たけのこの里の、さくさく感がいいんだよ!」
俺達はそれぞれ、きのこの山とたけのこの里を握りしめたまま、一歩も譲らない。
いかん。
このままでは、この間の、ポテトチップはうす塩がいいか、コンソメがいいかの時の二の舞だ。
「……よそう。この話題は危険だ」
「……そうだな。結論が出ない」
握りしめた箱を、そっと机の上に置いて、俺達は和解した。
「みんなちがって、みんないい。って、どっかのエライ人が言ってたしな」
ヤツがしみじみと言うのに、俺もうなずく。
「そうだな……。とりあえず、食うか」
「うん」
ぺりぺり、と箱を開ける。
いつもながらに可愛いきのこ形を束の間愛でてから、一口で食う。
うん、やっぱり、きのこの山は、美味い。
机を挟んだ向こうで、ヤツも美味そうに、たけのこの里を食べていた。
おわり。
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