Strain2


 カーテンのわずかな隙間から差し込んだ、街灯の明かりが逆光になって、彼の表情を隠した。
 それでもわかる強い視線から逃れようと、僕は目を腕で隠して息をこぼすように小さく呟いた。

「もう、やめよう。こんなこと………」

 彼の指がそっと僕の腕をつかんで、どかす。
 ぎゅっと、目をつぶった。

「こんなことって? ねえ、どんなこと? 教えてよ」

 目のふちを指ですうっと撫でられて、つられるように目を開いた。
 正面から彼と目があって、慌てて視線を反らす。

「どんなって……」

 顔に、熱が集中してくるのが分かる。部屋が暗くてよかった。
 くすっと笑う気配がして、覆いかぶさるように腕をまわされた。
 閉じ込めるみたいに、体重をかけられる。
 ベッドがぎしりと、悲鳴を立てた。

「言わないと、わかんないよ? 何を、やめて、ほしいの?」

 確認するように、言葉を切って尋ねられる。
 答えるかわりに、僕は彼の胸に腕を伸ばしてた。
 押しのけようとして……結局、触れただけで離してしまった。

「それで、終わり? だったら俺、続けちゃうよ」

 もう、やめなくては。終わりにしなくては。幾度もそう思った。
 こんな関係は、決して彼のためにはならない。
 それなのに僕は彼を決して、拒めない。
 彼もそれを知っている。

「そんなにおびえないで。あんたはただ、いつもみたいに気持ちよくなってればいいんだから」

 おびえてる? 僕は嗤いそうになった。
 僕の歪んだ唇に、彼の口付けが堕ちてくる。
 罪悪感なんて、欠片もない。
 心地いいから。
 うっとりするほど気持ちいいから、セックスする。
 羊水に還っていくように安心する、たったひとつの行為。
 もう僕はそれを手放せない。自分からは、けっして。
 同じものでつくられて、同じ血が流れている。
 たったひとつ、それだけのことが、僕をひどく安心させる。
 
「ひざ、抱えて」

 彼がベッドに乗り上げて、僕の足の間に立て膝をつく。
 柔らかな太ももを、うながすように優しく撫でられる。
 おずおずと、でも彼の言うとおりに、僕は膝を抱える。
 指先がふるえるのは、これから待っている快楽を期待しているからだろうか。
 暗くても、湿った熱い視線が僕に注がれているのがわかる。
 ぞくぞくする。 
 彼は手早く自分の着ているものを脱ぐと、膝を抱えた僕のズボンを下着ごとずらした。
 僕の手に手を重ねて、両足をぐっと身体の方に押された。
 顔が近づいてきて、耳の下を舐められる。
 くすぐったくて、思わず身体が跳ねた。

「足、もっと広げて………」

 触れてくる指の先から、溶けて、ひとつになってゆく。
 耳に息を吹きかけながら、彼は僕を呼んだ。 

(こんなの、セックスじゃない)

 最近はあまり口にしなくなった、幼いころの呼び方で。


「おにいちゃん」 


 ただの、身喰いだ。


Fin.


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