シルバークロス〜なれそめ〜
「呑みに付き合ってもらって嬉しいけど、こんなにしょっちゅうで大丈夫ですか? 怒ってませんか、彼女」
「大丈夫です。僕、彼女いませんから」
「へえ……意外だな。もてそうなのに」
「そんな事ないですよ。それを言うなら、君の方が女性にもてるでしょう?」
「まあ、それなりには」
「否定しないんですね」
「そっちのが、イヤミでしょ」
「……ったく、これだから色男は!」
「ははっ。褒め言葉と受け取っておきますよ」
「それじゃ、あなたの彼女は、大変ですね」
「俺も、彼女はいませんよ」
「そうなんですか? それこそ、意外ですね。よっぽど高望みなのか……それとも、物色してる最中とか?」
「希望はありますし、探してもいますけど、彼女を作ろうと思ったことはないですよ」
「……? どうして?」
「興味ないんです、女性に。俺は、男が好きなんで」
「………」
「あ、びっくりしました? ちなみに、好みのタイプはあなたのようなひとです」
「………あの、知ってたんですか?」
「何を?」
「その……僕が、同類だって………」
「そうなんだ? それはラッキーだな」
「知らないのに、カムアウトしたんですか!?」
「俺別に、隠してませんから。家族にも、友人にも、職場にも。それに同類は見ればわかるとか言うけど、俺にはそんな勘、働きませんしね」
「……信じられない」
「何が?」
「全部ですよ。家族や友人はともかく、職場にまで話してるなんて……」
「その方が楽ですよ? ヘタに見合いなんか持って来られたりしたら、断るのが面倒じゃないですか」
「でも、その……色々、言われたりしませんか?」
「それはまあ、それなりに。だけどほとんどジョークみたいなものですよ。めずらしがられるのも最初だけですし」
「そんなもの……ですか」
「そんなものです。ところで、どうですか?」
「どうって……」
「だから、俺、あなたが好みなんですよ。取引先として最初に会った時から、いいなって思ってたんです。あなたが今、フリーなら、俺と付き合いませんか」
「え……あ、その……っ!」
「誰か決まった相手がいるとか、お前なんか全然好みじゃないとか、そういうのだったら、容赦なく断ってくれていいんですよ。どうですか?」
「ええと、その……そういうんじゃなくて。僕は、誰ともお付き合いしたことがなくて……」
「誰とも?」
「……はい」
「お仲間が集まるようなバーとか、行ったことないんですか?」
「行こうと思ったことはあるんですけど……どうにも踏ん切りがつかなかったって言うか、ひとりじゃ気後れして。今まで、その、同性が好きだと言う人にも……会ったことがなくて」
「それじゃ、同じゲイに会うのも、男に告白されるのも、俺が初めて?」
「……はい」
「だったら、なおのこと、俺と付き合ってみませんか。ダメだと思ったら、その場で振って構いませんから。男女の付き合いだって、そんなものですよ」
「そうなんですか……?」
「そうですよ。俺と、付き合いましょう?」
「ええと……わかりました。よろしく、お願いします」
「律儀だなあ。頭なんか下げなくていいんですよ。仕事じゃないんだから」
「あっ、そうですね……! すみません」
「だから、そこで謝らなくてもいいんですよ。……じゃ、今から俺達、付き合うってことで」
「は、はい!」
Fin.
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