夏の終わりは風の色さえも褪せて見えるのは何故だろう。
いつまでも続くかに思えた、いっそ暴力的なほどの太陽光線が、弱まっているのを感じるから?
わからない。
わからないけど、夏は終わる。
それは、誰にも止められない。
「…じゃあ、俺、行くから」
そう言って、ディパックを肩に抱えた俺に、あいつは何も言わずに、ただ黙って頷いた。
蝉がやかましいくらいに自己主張をしていて、立っているだけで、汗がじんわりと湧き出てくる。
だが、足元を吹き抜ける風は、確かに次の季節の訪れを感じさせるもので。
そのまま俺たちは、しばらく黙っていた。
何か言わなければならない。
そう思っているのに、いうべき言葉が見つからない。
蝉時雨だけが沈黙を埋めていく。
「あのっ……」
いつの間にか、俯いていた顔を上げて、あいつは言葉を捜すように、唇を湿らせた。
だが、言葉は結局、空中に溶ける。
アスファルトの熱気に溶けて、風に流れていってしまう。
「……元気で」
そして、口から出たのは、そんなありきたりな言葉で。
だから俺も、同じように言葉を返す。
「お前も、な」
必死で頬に貼り付けている笑顔から、目をそらして。
もう、それ以上、互いの間に交わす言葉がないと知って、俺はあいつに背を向けて、歩き出した。
「………っ!!」
微かに、名前を呼ばれて、俺は立ち止まって振り返った。
「ありがとう」
すでに遠くなった距離からでも、辛うじてわかる、あいつの笑顔。
「……馬鹿野郎」
口の中だけで小さく呟いて、俺は前を見て、歩き出した。
ありがとう、なんて言うな。
笑って礼なんか、言うなよ……。
風の色さえも褪せて見える、夏の終わり。
季節が移りゆくのは、誰にも、止められない――。
Fin.
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