015: メモリーカード



「ああっ!これもう、容量一杯じゃん!」

コントローラーを握り締めて、叫ぶ道彦に、俺は手にした本から顔を上げないまま答えた。

「じゃあ、なんか適当なの、消せば」
「エェッ!ヤだよ!新しいの、買えよ」
「何で俺が」
「だってこれ、お前のプレステじゃん!」

…まあ、確かにそうなんだけど。
だが、メモリーカードに詰まったデータの大半は、俺のものではなかった。

「…どうせ、一回クリアしたのなんか、もうやらないだろ」
「そんなことねぇよ!またやるかもしれないだろ。それに、最近はデータ引き継いでやるヤツとかもあるんだぞ!」

そんな、威張って言われても。
しょうがないので、読みかけの本にしおりを挟んで、俺は道彦の方を向いた。

「買い食いを減らせ」
「お前、俺に死ねって言うのかっ!?」
「……」

こいつの所持金の、大半は、このちっこい体(って言うと怒るから言わないが)のどこに入ってるのかというような食いもの代に費やされている。

「メモリーカード買う金があったら、桃々亭の特盛ラーメンがいくつ食えると思ってんだよ!」

だから、そういうことを威張って言われても。

「…全部のデータは、いらないだろ?どーしてもまたやりたいゲームとか、続編の出そうなのだけ取っといて、他は消せ」
「いーやーだーっ!」

…てか、それは俺のプレステで、俺のメモカなんですが。

「だって…」

俺の冷たい視線を感じたのか、道彦はコントローラーに目を伏せて、ぼそぼそと答えた。

「これって、俺がお前んとこくるようになって、溜まっていったデーターじゃん。それって、何かさ…、今までの、記録、みたいな気がして。消すの、ヤだなって…」

うつむいた、耳が赤い。
俺は、小さくひとつ、ため息をついてから、出来るだけなんでもないような顔をして、道彦に近づいた。

「…わかった。新しいメモリーカード、買ってくる」
「ホントか!?」

ぱっと顔を上げた道彦は、満面の笑顔だった。
何かしてやられてしまった気がしなくもないが、まあ、いい。

「と、いうことで」

俺も、満面の笑みで、道彦を引き寄せる。
そして、耳元で囁いた。


「今日は、メモリーカードじゃなくて、お前に記録を刻むってことで」


Fin.


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