「ちゃーっス!」
「おっじゃましまーすっ!」
「よお、こんばんは〜っ!?」
勝手なことを口にして、どやどやとあがりこんできたのは、ゼミが一緒の悪友どもだ。
「………」
無言の俺なぞ、当然無視で、勝手知ったる我が家とばかりに、台所からカセットコントを運び出し、土鍋をセットし、ポットのお湯をどばどば入れて、持ってきた食材をぶちこみはじめた。
「ん〜?何、んなとこでボケーッと突っ立ってるんだよ、孝一!ビールビール!」
何か言い返すのも馬鹿らしく、俺は冷蔵庫から、買い置きのビールを適当に取り出した。
正しくは『その他の雑酒』ってヤツな。
「あー、やっぱ、冬は鍋だよなあ、鍋!」
「ああ、だよな!あったまるし」
「栄養も満点!」
そして、当然とばかりにビールをあおり、鍋を勝手につつきだす。
「ほらほら、孝一も、食え?」
「もう煮えてるぞー」
「早く食わないと、肉、なくなっちゃうぞ!鶏肉だけどな!」
箸や皿も、すでに勝手に並べられている。
俺は、ため息をついて、鍋を囲んだ。
「お前ら…なあ。鍋パーティーすんのはいいけど、会場側の確認も取れよ」
「まあまあ」
「そんな硬い事」
「言いっこなしよ」
…なんだなんだ、この揃いっぷりは。
三つ子か、お前らは、と突っ込みたくなるけど、三人の容姿は、てんでばらばらだ。
どいつも陽気で気さくで憎めないヤツだってのは、共通してるけど。
「あったかくてなー、上手いもん食ってる時が、一番幸せじゃないか、なあ」
「そうそう。しかも鍋。鍋はいい」
「皆で囲めば新密度もUPだ!」
……わけ、わかんねぇ。
わけ、わかんねぇけど……。
「ありがとな」
とりあえず、礼だけ言っておく。
「なんだなんだ〜、礼を言うのはまだ早いぞー」
「そうそう、礼はこの鍋を完食してからだ」
「そうそう、このNゼミ特製鍋をな!」
なんか色々、突っ込んだだけにしか見えないんだけど。
だいち、出汁とか入れてたか、コレ?
「…だな。食ったら、礼はいらなくなるかもしれないし」
「なんだと〜!この素晴らしき鍋に向かって…。まあいい、とにかく食べろ、な?」
ぽんと、木下が頭をはたくのに、隣りで水上と日川が同じように頷いた。
「わかったわかった……、食うよ、食う……」
俺は、ふいに零れそうになった涙を、俯くことでなんとか誤魔化して、箸を取った。
普段はうるさいばっかりの騒がしい連中だって思ってるのに、ホントはそれが、どんなにありがたいのかってことを、俺は今、噛みしめていた。
今は、一人で居たくない、そう思ったの、なんでわかったんだろ、こいつら。
この世で俺はただ一人っきりなんだ、そんな埒もない考えに取り付かれて、地の底まで沈んで凹んでるって。
だけど誰かに会いにどこかへ繰り出す気力は、もう、どこにも残ってないって。
……別に、そんなの、こいつらの知ったこっちゃないのかもしれない。
図々しくて、強引で、うるさくって……でも。
「ありがと……な」
もう一度礼を言う俺に、彼らは何も言わず、皿に鶏肉としいたけをよそってくれた。
Fin.
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