028: 言えないよ



「彼女出来たんだ」

 嬉しそうに、屈託なく笑う親友に、俺は何でもない顔で笑い返す。

「へぇ、よかったな。…ま、今度はいつまでもつか、知らないけど?」
「何だよ、それ。ヒデーな。…確かに、その通りだけどさあ」

 でも、付き合ってみなくちゃわからないだろーと、親友は、唇を尖らせて言う。
 そこそこに顔が良くて、結構気が利いて、明るい彼は、彼女が絶えたためしがない。
 だが、生来の飽きっぽい性格と、フレンドリー『過ぎる』性格のため、長続きしたためしがない。

 ―――彼氏って感じじゃないのよね。

 そういう、言葉で、あっさり付き合い始めた彼女たちは、あっさりと別れを切り出してしまう。
 で、またそれを引き止めるまでもなく、あっさりと受け止める。

 ……なんだよ、それ。ふざけんな。

 って。
 いつも、思う。
 そんなんで付き合うヤツも、そんなんで別れる女も。
 どっちもズルイよなって思う。
 そんなんでいいんだったら、そんなんでいいんだったら、俺は…。

「そーゆーお前は?どうなんだよ、彼女」
「俺?いねーよ、んなの」
「ふーん、へんなのー」
「何が変なんだよ」
「だってお前、モテなくもないじゃん?こないだも後輩に告られたんだろ?」
「…何で知ってんだ?」
「あー、誰だっけ。クラスの誰かから聞いた。見たんだってよ、現場」
「げー。見るなよ…」
「なあ、なんで?何で付き合わねーの?」
「ああ?ウルセーな…」

 なあなあ、と言ってくるヤツを、俺は邪険に交わす。
 何故、なんて。
 お前が、それを俺に聞くのか?

「俺は、お前と違って、誰とでもホイホイ付き合って、ホイホイ別れたり、しねーの」
「んだよー。それじゃ、俺がちょー軽いみたいじゃん」
「その通りだろ」
「ちぇー」

 子供っぽく顔をしかめるヤツを、くすりと笑う。
 そういうのが、不思議とこいつは、憎めない。
 ああしょうがないなあ、って思う。

「大体、いいのか?俺に彼女出来て。彼女出来たら、お前の相手してる暇なんて、ないんだからな」
「えー!そんな寂しいこと言うなよ…悲しいじゃん」

 しゅん、と落ち込んだ顔を、見せられたら。
 もう、それだけで、いいか、という気になる。

「お前の彼女になるコは、幸せだろうな」
「…そうか?」
「うん、だって、すごく大事にされるだろうから」

 そう言って、どこまでも無邪気に笑って、言われたら。

「でも、彼女出来ても、俺の相手もしてくれよー」
「さあ…どうしようかな?」
「えええ〜っ!?」

 
 このままずっと、言えなくても。

 言えない、ままでも――――。


Fin.


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