039: もう少し おまけ
もう少しの、もう少しあと。
やっと脱げる……!
ようやく康平の家の、康平の部屋にたどり着いたオレは、頭から付け毛をむしり取った。
あー、さっぱりした!
続いてハイソックスを脱ごうとベッドに腰かけた時、いつの間にか近くに立っていた康平の存在に気付いた。
「おい……何でいるんだよ」
「何でって。ここ、俺の部屋だよ?」
しゃあしゃあと言われて、オレは枕をぶん投げた。
「んなの、わかってるよ! 着替えるんだから、出てけよっ!」
枕を胸元でしっかりキャッチしながら、康平は微笑んで、言った。
「手伝おうかと思って」
「いらねえよっ!!」
即座に怒鳴り返すと、康平は首をかしげた。
「でもそのブラウス。前開きじゃなくて、後ろにボタンがあるから、着る時だってひとりじゃ着れなかっただろう?」
「それは……そうだけど」
そう。
Pコートの下に着ていた女もののブラウスは、忌々しいことに前にボタンが付いてない。
背中の途中までしか自分じゃボタンが止められなくて、上の方を止める時は康平に手伝ってもらったのだ。
「がばっと脱ぐから大丈夫! 後ろのボタン、2、3個外せれば……」
オレは背中に手をまわして、ボタンを外そうとした……が。
あ、あれ?
なんかこのボタン、まるっこくて外しにくい……。
「全然、脱げてないよ?」
後ろボタンに悪戦苦闘するオレをくすくす笑いながら、康平はオレの隣に腰かけた。
オレの背中に手をやって、上から順番に、ボタンをひとつずつ外していく。
「はい、手ぇあげて」
「ん……」
気がつけば言われるままにバンザイしてしまっていた。
康平に、ブラウスをするりと脱がされる。
くそう……女ものって、なんでこんなに脱ぎ着しにくいんだよ!
いや、この服がそうってだけで、男ものと大して変わんないシャツだって多いよな?
前ボタンのブラウスの方が圧倒的に多いはず……。
「って、ちょっと待て! なんでお前、スカートにまで手をかけてんだよ!? スカートは自分で脱げる!!」
女ものの服について思いをはせていたら、康平の手はしれっと下のほうにまで伸びていた。
ゆ、油断も隙もねえな……!
「ねえ、ゆみ。知ってる?」
「な、なにを……?」
康平は、オレの言うことなんかまるで耳に入ってない素振りで―――つまりスカートから手を離さないままで―――、言った。
「男が服をプレゼントする時はね、脱がせる時のことも考えてるんだよ」
さらりと、ろくでもないことを。
「なっ……! 何言ってんだよ! 知るか、そんなこと! つうか、プレゼントじゃないだろ、借り物だろ!?」
「うん、そのつもりだったんだけどね。従姉に用途を正直に言ったら、『そんな後で何に使われるのかわからない服を返されてもしょうがないから、買い取りじゃなきゃ駄目』って、言われたんだ。そう言われると、反論できなくて……」
「いや、そこは反論しろよ!」
何をどう正直に言ったら、そんな反応が返ってくるんだよ!?
「第一、オレ脱がしたって、全然楽しくないだろ! 男なんだし!!」
スカートを脱いだところで現れるのはトランクスだ。
そんなの、萎えるだけだろ!?
激しくそう思うのに、康平はスカートのホックを器用に片手で外しながら、
「楽しいよ。すごく、楽しい。今も、すごく楽しくて、すごく興奮してる」
と、微笑みながら言った。
いや、ここ微笑むとこじゃないから!
ていうか、興奮って、何!?
「ゆみ、鳥肌立ってる。寒い? ブラウス脱いじゃって、タンクトップ1枚だもんね」
「そう思うんなら、早く向こうに行けよ! 後はひとりで大丈夫だから……」
むき出しの肩から腕を、するりと撫でられる。
たったそれだけの行為に、何故か背中がぞくりとざわめく。
何だ、これ……。
ぼーっとしてきたオレは、頭を強く振った。
そして、大事な事を思い出した。
「あ! オレの服は!? 着替えようにも、オレの服がないじゃん!」
遅まきながら、脱いだ後に着る服が、どこにも見当たらないことにようやく気付いた。
出かける前に、この部屋で脱いだはずのオレの服……。
「ゆみの服? うん、今、洗ってる」
「は!?」
「たぶん今頃、脱水して、乾燥に入ってる頃かな……。だから、もうちょっと待ってね」
「聞いてない……! ってか、なんで洗うんだよ!?」
「裾のとこ、ちょっと泥はねしてたから。ついでにシャツも一緒に」
「そんなちょっとの汚れ、いいんだよ別に……!!」
突っ込みながら、これは絶対わざとだ! と思った。
むしろわざと以外の何ものでもないって言うか。
「だったら、お前の服! 康平の服、貸せよ」
「俺の服? いいけど、ゆみが着たら、だぶだぶになるよ? ………うん、まあ、それも可愛いからいいけど」
「やっぱいらない!」
オレが康平の服借りたら、シャツ着ただけで、下はかなくていいくらいのミニワンピ状態になってしまう……。
そんな屈辱を味わうくらいなら、ちょっとくらい寒いのなんて我慢する!
「そう? じゃあ、ゆみの服が乾くまで……」
康平は、オレの肩をとんと軽くつくと、ベッドにあおむけに倒した。
タンクトップを胸までまくりあげ、スカートの中に手を忍ばせて足を撫でる。
また背中がぞわりと変な風に泡立って、オレは涙目で康平を睨んだ。
ちくしょう……、まただまされたっ!
オレに女装させた時から、絶対、ここまでするつもりだったんだな、康平……!
何が、男が服をプレゼントする時は、脱がせる時のことも考えてる、だ!
むしろ最初から脱がせるつもりで着せたんだろ!?
……って、思ってるのに。
「俺が温めてあげる。ゆみが、寒くないように」
とろけるような顔でそう言って、頬に触れてくる康平の手を拒むことも、オレにはやっぱり出来なかった。
Fin.
※さらにこの後のおまけ(R18)をピクシブにUPしてます。
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