045: ゲーム



 簡単に始められて、簡単に終われると、思ってた。
 スタートして、飽きたらセーブして、また始めたくなったらロードする。
 で、すっかり止めたくなったら、データを完璧初期化すればいい。
 そんな風に、思ってた。
 それ、なのに……。

「失敗、した……」

 どこから間違えたんだろう。
 ソファに寝転がって、コントローラー片手に、ポテトチップつまみながら、だらだら進めてく。
 ただの暇つぶし。
 それ以上でも、以下でもなくて。

「人生が、そんな、ゲームみたいに行くかっつの」

 にやり、と人を食ったような顔で笑う、目の前の男が、したり顔で言うのに、反論したいのに、出来ない。
 突き放したいのに、抱きしめてくる腕を、反対にぎゅっとしがみついている。
 気がそがれたら、いつでも手放せるって、思ってたのに。
 どうしてだろう、いつまでたっても、手放せずにいる。

「簡単に、リセットされて、たまるか」

 こんなんじゃ、つけあがらせてしまう。
 耳元で囁かれた声に、僕は焦った。
 だって、これじゃまるで、僕がこいつ無しではいられないみたいじゃないか。
 そんなはず、ないのに。
 だって、これはゲームだったんだ。
 退屈な日常を紛らわすための。
 気に入ったオモチャで、ひと時を楽しく過ごして、飽きたら見向きもしない、そんなコドモのゲーム。
 ルールを決めるのも、ルールを変えるのも、僕。
 単純で、簡単な、ただのゲーム。

「いい加減、認めたら?」

 くすくす笑う、息が耳にかかって、くすぐったい。
 思わず、首をすくめながら、囚われた腕の中から顔を上げて、何を、と尋ねた。
 僕よりもずいぶんと背の高い男は、僕を見下ろして答えた。
 その目は、びっくりするくらい、真摯で。

「決まってるだろ……。本気だって、ことをさ」

 悔しいけど、どうやら認めないわけには、いかないらしい。
 もうとっくに、この関係が、ゲームじゃなくなっている、ってことに。


Fin.


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