077: 客観的事実



 なあ、今、帰り?
 じゃあ、俺も一緒していい?
 え? 部活は、って?
 イヤイヤ、サボリじゃないって。
 今日は、休み。
 コーチが来ないからさ。
 知ってる?
 コーチの奥さん、もうすぐ赤ちゃん生まれそうなんだよー。
 しかも初産。
 もー、コーチってば、ここんとこずっと、そわそわしっぱなしでさー。
 出産日そろそろだからってことで、奥さんについてたいんだって。
 愛だよねー。
 まあね、今の時期、試合とかもないし。
 ホントは、自主練しとけって言われたんだけど。
 キャプテンがさ、休みでいいだろって。
 で、満場一致で、今日の部活は、お休み。
 何かいわれたら、無事のご出産を、部員一同祈ってました!って言っとけってことで。
 いい加減だって?
 ハハハ。いいじゃん、たまにはさー。
 息抜き、息抜き。
 そういや、帰るの、いつもこの時間?
 ああ、図書室、よって来たんだ?
 だよなー、ホームルーム終わってすぐ帰ったら、もうちょい早いよな。
 うん、ちょうどよかった……や、なんでもない。
 こっちの話、こっちの話。
 あ、そうだ、腹、減ってねえ?
 そこのコンビニで、肉まん買ってこうぜー。
 たまに、ムショーに、コンビニの肉まん食いたくなるんだよなあ。
 ちなみに、ピザまんも、カレーまんも好き。
 あんまんはフツーかな。
 で、で、俺、肉まんには酢醤油かけて食うのが好きなの。
 お前は?
 からしとか?
 あー、そっか、なんもつけねえんだ。
 じゃあさ、今度、酢醤油つけて食ってみなって!
 絶対美味いから!
 マジで!!
 何? 腹減ってないのかー。
 んじゃ、肉まんは今度でいーや。
 あ、そうだ。
 あのさ……。
 俺、ちょっと、相談があるんだけど……イヤイヤ、金貸してとかじゃないから!
 いっつもスカンピンだけど、友達に金借りたりとか、それだけはしないから!
 兄ちゃんに言われてるし。
 友達と金銭トラブル起こしたら、友達と金の両方失くすって!
 じゃあ何だよって?
 えーと、あの、うー……。
 モジモジすんなキモイって、ちょっ、そこまで言う? ヒドくねぇ?
 あー、じゃあ、聞くけどさ。
 ほら、なんかさ、ある日、ふっと、気付く時ってあるじゃん?
 何をって?
 ホラ、何て言うか。
 こいつ、俺のこと、好きなんだ……とか?
 や、だから、違うっ!
 モテ自慢とかじゃないから!
 最後まで聞いて!
 お願いっ!
 ……で、さ、そういう時、どういう態度取るのがいいのかなあって……。
 え、フツーでいいだろ、って?
 うん、いや、わかってるけどさ。
 フツーってどうだったかとか、フツーは考えないから、なんかわかんなくなってきちゃってさー。
 なんか、気付いてて、気付かないフリしつづけてんのも、なんかどうなんだろっていうか。
 自意識過剰過ぎかなって思わなくもないんだけど。
 って、自意識過剰以外の何物でもないって?
 うわ、もー、相変わらず、キッツイなー。
 うん、わかってたけど、知ってたけど。
 え?
 そいつのこと、どう思ってんのかって?
 あ、そうか、そうだよな。
 それ、一番、大事だよな。
 あ……うん、好き、だと思う。
 少なくとも、嫌いじゃないのは確実。
 実は、あんましそういうの、考えたことなかったんだけど。
 そいつが好きかどうかとか。
 けど、あ、こいつ俺のこと好きなんだ、って気付い時、すごい嬉しかったし。
 そういうのって、やっぱ、そいつが好きだからなんだって、思うじゃん。
 なんか、後だしじゃんけんみたいだって?
 ハハ、だよなー。
 でも、そうなんだから、しょうがないっていうか。
 え?
 そこまでわかってんなら、俺の方からさっさと告れって?
 ああ、うん。
 だよね。
 やっぱ、そう思うよね。
 うん、わかった。
 そうする。
 えー、っと。
 コホン。
 
「俺と、付き合ってください」
 
 ………あの、聞いてる?
 ノーリアクションだと、俺、ツライんですけど。
 えっ!
 タチの悪い冗談言うなって!?
 いや、ちがうって!
 冗談なんかじゃアリマセン!!
 本気も本気、っていうか、ずっと俺、お前とのこと話してたつもりだったんだけど。
 気付かなかった?
 ん?
 フツー、本人相手に相談なんかしないって?
 うん、いや、まあ、そうかもしれないけど。
 どっちみち、お前に言うかもしれない事なら、本人に聞いた方が早いかなって。
 だったら何も聞かずに告れって?
 アハハハハ。
 いや、ほら、俺もイロイロ、不安だしー。
 現状維持の方がいいのかなとか、考えちゃうじゃん、やっぱ。
 んん?
 何、勝手に、俺がお前を好きだって決めつけてんだって?
 もう、ヤだなあ。
 そんなの、わかるに決まってるって言うか、気付くに決まってるデショ。
 なんでだって?
 そりゃもう、客観的事実だから。
 俺が、お前を好きなのと、同じくらい。
 ……違う?
 ほら、違わないでしょ。
 った! 痛い! 痛いって!
 恥ずかしいからって、本気で叩くのはやめてー!
 それに、返事。
 まだ、聞いてないよ?
 うん?
 聞こえなーい。
 ………うん。
 うん。
 ありがと。
 俺も、好き。
 大好きだよ。


Fin.


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