008: 自覚と無自覚



 好きだ
 と。
 自覚したら。
 今まで普通に出来てたことが、
 急に出来なくなった。


 オハヨウ。
 昨日のテレビ見た?8時の。あのバラエティ番組に出てた5人組アイドルの誰が好き?
 うわあ宿題やんの忘れたよお前やった?やったんなら見して!俺当たりそうなんだよ今日!
 腹減ったなあ。今日弁当?学食?
 ハラセンの授業今日自習だってよラッキィ!
 なあなあ帰りにラーメン食ってかねぇ?駅前の。

 …とか。
 とかとか。
 そういうの。

 頭小突いたり、
 肩叩いたり、
 脇くすぐったり、
 ほっぺたひっぱたっり、
 とか。
 とかとか。
 そういうのも。

 今までの、何気ないの、全部。
 好きだって思っちゃったりしたら、
 もう全部、ダメ。
 出来ない。
 無理。
 絶対、無理!


「……って、お前、なあ……」


 三日前まで、クラスメイト・席隣り・気の置けない友人、だった男は、呆れたような声を出した。
 そして、ぽん、と肩に手を置かれる。
 それだけでもう、頭煮えて、卒倒しそうなんですけど俺は!


「そこまで意識してもらえるのは嬉しいちゃあ嬉しいが、それじゃ何にも出来ん」
「いや何もしなくていい!しなくていいからっ!」


 速攻首を振る俺に、さらにため息ひとつ。
 んな、わざとらしくため息なんぞつかれたって、もう俺はダメなんだ一杯一杯なんだ頼むからしばらくそっとして置いてくれよ!


「……慣れろ。慣れるまでずっと、耳元で囁いてやろうか?授業中も」


 だがそんな俺の心の叫びなど知ったこっちゃないと言わんばかりに。
 にっこり、と馴染みある見知った笑顔で、さらりと告げる。
 俺にとっての、爆弾発言を。


「好きだって」


Fin.


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