「アイテム、ゲットだよっ☆」
リームが、楽しそうに、その場でぴょんぴょん、とジャンプした。
(もちろん、ジャンプしているのは、フィールド上のアバターだけど)
戦闘が終わって、モンスターがアイテムを落としていったのだ。
「えーと、これは……?」
「ピンクの花のブローチ、だって、ジェイク。防御効果があるみたいだね」
共有のアイテム欄には、可愛いピンク色の花が表示されている。
説明によると、1ターンに1回だけ、クリティカルヒットを防いでくれる、とある。
「誰が、使う?」
僕が2人に聞くと、
「「それは、当然……」」
異口同音の言葉の後に、
「リームだよぅっ!!」
「フユだろう」
と、それぞれ違う言葉が、返ってきた。
それから凄い勢いで、メッセージ ウィンドウに文字が流れる。
「何言ってるのぉ、★ったら! こぉんな可愛いアイテム、リームじゃなくて、誰がつけるっていうのっ!?」
「防御アイテムなら、フユがつけたっていいだろ? 第一、お前、そんなにでっかいリボンがついた服着てんだから、花なんかつけたって、わかんねーだろ。色も同じピンクだし」
「むにゅう! だったら、ピンクじゃなくて、パープルの方のお洋服につけるもん! 可愛いアイテムは、何個あったって、いいのっ!」
「そっちにだって、ゴテゴテした飾りがついてるから一緒だろ。こういうのはな、シンプルな服に付けた方がいいんだよ。見てろ」
そう言って、ジェイクはアイテムを僕に渡した。
「つけてみて、フユ」
「うん」
言われたままに、僕は、『ピンクの花のブローチ』をつけてみた。
僕は法術師で、今は黒いローブをまとっている。
胸につけるタイプのブローチは、フィールド上のアバターでは、小さすぎて表示されないけど、ステータス画面では、ちゃんとつけていることが、確認できた。
「ほら! な!?」
「むにゅう………」
得意げなジェイクに、不満げなリーム。
表情アイコンもそれに合わせて、変化させていた。
「シンプルなローブにこそ、こういうアイテムは映えるんだよ! 色も、フユの髪の色とおそろいで、バランスもいいし!」
「むぅ……。くやしいけど、今回は、★の言い分を認めちゃう! フユ、可愛いよぅっ!!」
さっきまで口争いしてたのに、一転して、2人して盛り上がっている。
その間、僕は一言も口を挟めない。
やっぱり、仲いいなあ、この2人……。
「じゃあ、このアイテムは、フユが持つってことで……」
「あ、ちょっと待って」
ジェイクがそう言って締めようとするのに、僕は待ったをかけた。
「みょっ? どうしたの、フユ? お花、キライ?」
「いや、そういうことじゃなくて。クリティカルヒットを1回だけでも防いでくれるようなアイテムなら、僕じゃなくて、ジェイクが持ってた方がいいと思うんだ」
「え、俺!?」
「えー! ★ー!? やだー。そんなの、可愛くなぁいっ!!」
びっくりしてるジェイクに、思いっきり嫌そうなリーム。
でも、前衛で戦って、一番クリティカルをくらいやすいジェイクが、一番、こういうアイテムをつけた方がいいと思うんだけどな……。
「案外、つけてみたら似合うかもよ? はい、ジェイク」
とにかく僕は、『ピンクの花のブローチ』をジェイクに渡した。
ジェイクは、素直に受け取って、それを装備した。
「うん。結構いいよ、ジェイク」
「ホントか?」
「ええーっ! フユ、趣味わるぅいっ!!」
「でも、ジェイクの衣裳って、紺色っていうか黒系統の色だから、ピンク色がよく映えてるし、それに……」
「「それに??」」
2人、同時に聞かれて、僕は次の文字を打ちこむのに、ちょっとだけためらった。
「僕の髪の色がピンクで。今、リームの着てる衣装がピンク系で。それで、ジェイクがそのアイテムをつけたら、皆で、おそろいだな、って思って……」
メッセージウィンドウに流れる、自分の打ちこんだ文字を見て、やっぱ言うんじゃなかった、って思った。
だってこれじゃ、いくらなんでも、少女趣味過ぎって言うか。
だけど……。
「なるほど。それはいいな!」
「皆で、おそろっ! みゅ、いいかも! 全部ペアだと、ちょぉっとアレだけど〜、色だけちょこっとずつおそろなのって、仲良し☆って感じだよねっ!!」
テンション高く、受け入れられてしまって、僕は拍子抜けした。
「よーし、じゃあこのアイテムは、俺がつけるぜ!」
「仕方ないから、今回だけは譲ってあげるっ☆」
どうやら、『ピンクの花のブローチ』の所有者は、ジェイクで決まったみたいだ。
ステータス画面に映るアバターには、武骨な戦士の鎧の上に、ちょこんと可愛い花飾りがついている。
そのミスマッチな感じが、なんだか可愛い。
「ありがとう、ジェイク、リーム」
僕は、思わず2人に、お礼を言った。
「にょにょっ? なんで、フユフユがお礼言うのっ?」
「そうだよ。むしろ、礼を言うのはこっちだって、フユ」
2人は、表情アイコンを、首をかしげた疑問顔に変えて、聞いてきた。
僕は詳しくは答えずに、ただ、こう言った。
「うん、なんとなく、お礼を言いたい気分だったんだ」
すぐに、返事がメッセージウィンドウに流れた。
「変なフユフユ!」
「まあ、お前ほどではないけどな」
「ちょっとお、どーゆう意味、★!!」
相変わらずのやりとりをしている、リームとジェイクを見ながら、僕は笑っていた。
心が弾むように、楽しくて。
「どうする? 今日はもう、この辺にしておく?」
「いや、もうちょっと続けよう」
「リーム、まだまだ、大丈夫だよっ!」
マップ上のフィールドを、3人のアバターが、ちょこちょこ動く。
それを眺めてるだけでも、僕は心が浮き立っていた。
そんな感情は、今までリアブレをプレイしていて、感じたことのないものだった。
アイテムを見つけて、それを誰が付けるかで、騒いだりして。
そんな、たわいもないやりとりが、こんなに楽しいだなんて。
「おっ、敵襲来か!?」
「来たね。準備はいい?」
「みゅっ! いっくよぉっ!!」
戦闘が始まる。
僕の高揚した気分は、さっきまでと変わらずに、続いていた。
余談だけど。
クリティカルヒットを1回だけ防いでくれる『ピンクの花のブローチ』は、その効力を発揮する時に、ピンクの花びらを辺りにまき散らすと言う派手なエフェクト付きだった。
その華やかさに、リームはくやしがってたけど、僕は自分がそのアイテムをつけることにならなくてよかった、と心から思った。
おわり。
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