Close encounter―real blade―


chapter3-4b-1.Club Rooms


「開けない方が、いいかもしれない」

 本当に、このまま開けていいんだろうか?
 そう思った僕は、ロッカーを開けようとしていたハクを、止めた。

「どうして」

 当然のように、ハクが理由を尋ねてくる。

「もしかしたら、罠かもしれない。数字がロッカーの番号だと言う確証はないんだし……」
「だが、違うと言う確証もない。だったら、開けてみてもいいんじゃないか?」

 ハクの言うとおりだ。
 あるかないか分からない、罠におびえて、確認してみないのは愚かな事だろう。
 でも……。

「お前の、ロッカーだからか?」

 さっきと、同じことをハクは聞いた。
 僕は反射的に、文字を打った。

「違う。言っただろう。クラスに、バレー部のヤツがいて」
「それを、俺が信じるとでも?」

 遮るように、ハクのメッセージが流れた。
 僕は、何も言い返せなかった。
 そうだろうな、と思ったからだ。
 こんな言い訳、僕がハクだったとしても、あっさり信じたりはしないだろう。

「ハクが、信じても、信じなくても。それが、事実なんだから……」

 それでも僕は、言い続けなければならなかった。
 認めてしまったら、すべてが終わりなのだから。

「お前、自分が嘘がヘタだって、わかってる?」

 馬鹿にしたように、ハクが言う。
 そんなの、わざわざ指摘されなくたって、わかってるよ……!

「どっちにしろ、ここまで来て開けてみないのも馬鹿らしいだろう」

 ハクは黙り込んだ俺に構わずに、剣を構えた。
 用心のためだろう。

「フユ。お前は下がってろ」

 そして、ロッカーのドアを、開いた。
 
 ゴウッ。
 
 ロッカーの中から、風が吹きだしてきた。
 引っ張られそうになったけど、防御の姿勢を取っていたため何とか堪えられた。
 ハクが、剣を大上段に構えて、振りおろした。
 ロッカーが、ひしゃげてつぶれる。
 風が、おさまった。

「これで終わりか……?」

 ハクが剣をしまう。
 何も、起こらない。

「もしかして……、ロッカーの中に、入らないといけなかったのかも」

 僕がそう言うと、ハクが、モニターの向こうから舌打ちが聞こえてきそうな雰囲気の、メッセージを打ちこんだ。

「用心しすぎたな。ロッカーを壊したのは、失敗だったか」

 そのメッセージが流れきったところで、モニターに効果音と共にメッセージが表示された。

『GAME OVER』

 イベントは、失敗してしまったようだ。
 やっぱり、ロッカーを壊したのはまずかったようだ。

「こんなイベントもクリアできないなんてな。まったく……」
「ごめん」

 苦々しげなメッセージに、思わず謝ってしまった。
 あの時、ためらったりしないで、すぐにロッカーを開けていればよかった。

「別に、お前が謝る事はないだろう。まあ、お前に惑わされたって事を言うんなら、責任があるけどな」
「惑わせるって……。何だよ、それ」
「そのままの意味だよ」

 ますます、意味が分からない。
 惑わせられたのは、むしろハクじゃなくて、僕の方だと思うんだけど……。

「なんだ。分からないのか? フユ」
「分かるわけないだろ」
「本当に、お前はタチが悪いな」

 だから、それはこっちの台詞だっての!
 本当に意味不明だよ。
 すっかり戸惑ってしまった僕にはお構いなしで、ハクはサバサバと続けた。

「イベントは失敗したが、お前とパーティーを組めて良かったよ」
「何それ、嫌味? 僕、何もしてないだろ……」
「フユ。お前は、何もしなくったって、いいんだよ」

 ハクの言葉は、僕を馬鹿にしているとしか思えなかった。
 以前パーティーを組んでいたときだって、散々、役立たずだって、言われたし。
 だけど僕だって、いつまでも言われっぱなしではいたくない。
 それに、あの頃より少しは、レベルも上がって戦えるようになったんだ。
 とっさに、何か言い返そうとした。
 でも、それより早く、ハクの言葉がメッセージウィンドウに一気に流れた。


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