*特殊過ぎる感性*



今日の白鳳パーティーの晩餐は、大衆食堂の定食だ。基本的には、白鳳手ずから調理するのだが、捕獲の都合上、時間が取れない時もあるし、宿が快く厨房を貸してくれるとは限らない。そんな非常事態に重宝するのは、安くてボリュームのある、町の食堂だった。庶民的な定食屋は、男の子モンスター連れでも、まず入店を断られないし、ご飯、汁物おかわり自由なのもありがたい。店の選択はハチに一任しており、食いしん坊の野性の嗅覚は、必ず市井の名人を探し当ててくれた。
「皆、遅くまでご苦労さま」
客たちの賑やかな話し声が響き渡る中、白鳳は男の子モンスターへ労いの言葉をかけた。市街地のはずれにある定食屋は、経営者の中年夫婦と3人の従業員がいた。もう20年近く続いた店で、地元では老若男女問わず親しまれているらしい。建物こそ老朽化したが、店内は活気に溢れており、出来上がった調理を運ぶ店員が、早足で行き来している。
「いつも通り、務めを果たしただけです」
「・・・・今回は運にも恵まれ、予定より早く目標を達成出来ました・・・・」
「また、スイの解呪に一歩近づいて良かったねっ」
「手応えがなくてつまらん」
「白鳳さまも我々も腕をあげたということだ」
「きゅるり〜」
白鳳の一声に応じ、捕獲を振り返る仲間へ目もくれず、ハチだけはひたすら眼前の食べ物と格闘している。煮物、焼き物、サラダ、漬け物とまんべんなく箸を付けるうち、いつの間にか、大きなどんぶりが空になった。
「おばちゃん、メシおかわりっ」
「またかい、ちっこいのに良く食べること」
「おうっ、オレ、まだまだ食うかんな」
おかみへ元気良くどんぶりを差し出すハチに、白鳳は思わず目を細めた。ご飯と汁物に限れば、ハチがいくら食べようと料金は変わらない。ゆえに、懐の心配をせず、豪快な食べっぷりを和やかに見ていられる。
「大食らいを抱えているから、おかわり自由のシステムはホント助かるねえ」
とは言うものの、大多数の良識人は10杯以上おかわりしておいて、タダで済ます神経は持ち合わせていない。泰然と構える白鳳に対し、右隣に座すオーディンが声を潜めて意見した。
「たとえ、おかわり自由だとしても、ある程度の自制は必要ではないか」
「いいの、いいの、我々は客なんだよ。細かいことは気にしない」
せっかくの忠告にもかかわらず、白鳳は胸を張ってあっさり却下した。己に都合の良い解釈をしまくり、店に負担をかける気満々である。果てしなく図々しい兄にウンザリし、スイはチャイナ服の肩先から降りて、ご飯をかっこむハチの傍らへ移動した。
「きゅるり〜。。」
しょんぼりとしっぽを垂らすスイへ、フローズンがおっとり声をかけた。
「・・・・がっかりすることはございません・・・・」
「フローズンがハチの分をちゃんと支払ってあります」
いくら、顧客サービスとはいえ、甘えるにも程がある。もちろん、当店のみならず、おかわり自由の食堂を利用する場合、フローズンは常にハチ分を別勘定として、前もって店主へ渡していた。
「きゅ、きゅるり〜」
神風の報告を聞き、スイの瞳にぱあっと明るい灯がともった。兄の腐った性根はもう直らないが、気さくな定食屋の夫婦に迷惑を及ぼさないだけで十分だ。想い人の行き届いた処置に、オーディンも安堵して口元を緩めた。



××暴走以外にも、たびたび尻拭いされている事実を、良家育ちの暢気さゆえ、白鳳はまるっきり分かっていない。当地での目的を果たし、すっかりいい気分になった白鳳は、店内を見渡しつつ、誇らしげに言い放った。
「ほら、見てご覧。いつものように、周りの連中が極上のオトコを侍らせる私を、羨やんでるよ♪」
「えっ」
「はあ?」
「お前などに侍った覚えはない」
「そっか、オレも極上なんだな」
「うんうん、僕もだねっ」
「・・・・白鳳さま・・・・」
「きゅるり〜。。」
確かに、入店した時から一行は注目を集めていた。上級モンスターばかりのメンバーに加え、見慣れぬ小動物もいるとなれば、どこへ行っても、人々の好奇の視線を浴びることは避けられない。しかし、ムダに前向きな白鳳は、世間の目を羨望の眼差しと、信じて疑っていなかった。いくら何でも冗談だろうと、お目付役は白鳳の様子を窺ったけれど、悲しいかな、400%本気で確信しているようだ。人畜無害な思い込みなら放っておくが、この勘違いは正さざるを得まい。神風は仲間とスイへアイコンタクトを取り、皆を代表して切り出した。
「白鳳さま、我々に向けられているのは、羨望の眼差しではありません」
「えええっ、嘘ぉ!!」
神風に事実を指摘され、白鳳は激しいショックを受けた。誰もがハーレム状態の自分を羨んでる。誤った優越感が根底から覆され、金魚のごとく口をぱくぱくさせる主人を横目に、フローズンとオーディンは淡々と詳細を語った。
「・・・・恐らく、物珍しさから来る視線ではないかと・・・・」
「うむ、街中だとキャラ屋以外、男の子モンスターを目撃出来る機会はほとんどない。にもかかわらず、集団で移動すれば人目を引くのも当然だ」
「バカな、このレベルの美形と一緒で、憧れの的にならないのはおかしいでしょっ」
優れ者の冷静な分析に納得行かず、声を荒げる白鳳の虹彩へ、ふと、テーブルの上で煮物をかっ込む小太りの虫が映った。
「はくほーのメシよりは落ちるけど、結構美味いぞー」
「・・・・・・・・・・」
「ん、どした?」
「これだねっ、これのせいなんだねっ」
白鳳はハチの首根っこをむんずと掴み、空中に摘み上げた。パーティーがイロモノ扱いされる理由はただひとつ。きっと、へっぽこな珍生物が目立ち過ぎ、他のコのイケメンオーラを打ち消してしまうためだ。
「何すんだよう」
不満げに足をばたつかせるハチへ、白鳳は最高の笑顔で冷ややかに告げた。
「ハチ、今すぐ外へ出な」
「げげーん!!オレ、まだ食ってんのによう」
生き甲斐たる食事の邪魔をされ、頬を脹らませたハチへ、白鳳はなおも畳み掛けた。
「お前1匹がパーティーの顔面偏差値を落とすから、正当な評価を得られないんだよ。本来なら、私は麗しい僕に囲まれた勝ち組なのに、単なる見世物扱いされてるなんて」
ハチさえいないことにすれば、誰もが羨んでくれるに違いない。白鳳は浅はかにもそう考えたのだが、主人の無法な振る舞いを、正義感の強い仲間が許すわけがない。オーディンが宙ぶらりんのハチを奪還するやいなや、神風とフローズンは左右から白鳳へ言葉の礫を投げた。
「白鳳さま、ハチを邪険にしていいんですか」
「・・・・もし、機嫌を損ねたら、ハチの美容液が貰えなくなります・・・・」
「し、しまったぁぁ!!!!!」
フローズンの殺し文句に、白鳳は両の拳を握り締め、絶叫した。ハチ謹製ローヤルゼリー美容液は、薔薇色の××ライフに欠かせない。半べそをかいたハチに気付き、白鳳は真っ青になった。



実のところ、大らかなハチは白鳳にどう扱われようと、これっぽちも意に介すまい。仲間とて承知しているが、理不尽な容姿差別を黙って許すのは本意ではない。主人に痛手を与えるには、ローヤルゼリー絡みで攻めるのが一番だ。案の定、美容液欲しさに、白鳳の態度はがらっと変わった。すでに卓上へ戻ったハチと向き合い、触角が揺れる頭をふんわり撫でた。
「もお、ハチったら、泣くんじゃないよ。ほんの冗談だって」
「うえーっ」
「ハチがあんまり幸せそうに食べるから、つい悪戯したくなったんだ。悪かったね」
「んじゃ、オレ、外へ出なくてもいいんだな」
「もちろんさ。もし、一品物で食べたいメニューがあったら、遠慮なくお言い」
「おおお、やた〜♪」
終わり良ければ全て良し。目先の定食が確保されたばかりか、追加注文まで許可され、ハチは箸を握り締めたまま、幸せのコサックダンスを踊り始めた。
「うふふ、ハチはホントに可愛いねえv」
「でへへー」
「良かったねっ、ハチ」
まじしゃんのみはハチの僥倖を喜んだが、他のメンバーはいずれも苦い顔をした。白鳳の見苦しいまでの豹変ぶりに、お目付役&スイはすっかり嫌気がさしているようだ。
「・・・・あまりにも予想通りの展開で悲しくなります・・・・」
「現世利益に目が眩みまくってますから」
「白鳳さまに振り回されるハチが不憫で堪らん」
「きゅるり〜」
下心バレバレとはいえ、表向き前言撤回した以上、もう白鳳を叱責する理由はない。一同は割り切れない気持ちで、紅いチャイナ服を見遣った。けれども、白鳳もまた全面的に納得してはいなかった。美容液のため、××道の美学を犠牲にしてしまったが、胸の漣を止められない。”かあちゃん”に太鼓判を押され、安心してどんぶりを空にするハチの傍らで、白鳳はぽつりと呟いた。
「あ〜あ、これがいるうちは、美形パーティーも見果てぬ夢かあ。。」
独り言に近いぼやきでも、紺袴の従者は聞き逃さない。神風はふうっと息を吐くと、諭すごとく白鳳へ言いかけた。
「あいにくですが、ハチの存在で周囲の評価は変わりませんよ」
「え〜っ、そうは思えないけど」
不満たっぷりに声を張り上げた白鳳へ、オーディンとフローズンが現実を包み隠さず告げた。
「容姿に関わらず、世間の人々からすれば、我々は人間と男の子モンスターの集団に過ぎん」
「・・・・人間の殿方ならともかく、同伴者がモンスターの時点で、人様の評価対象にはならないでしょう・・・・」
仮に同伴者が人間だろうと、××趣味はあくまでイレギュラーなのだから、白鳳が望む結果は得られまい。でも、敢えて最終結論をぼかすあたりが、お供たちの優しさだった。
「どうして、同じ美形なのに人間と男の子モンスターで評価が違うわけぇ?皆、おかしいよ」
せっかくの気遣いも虚しく、白鳳の価値観は土台から一般人とかけ離れていた。肩をそびやかして自説を主張する白鳳へ、神風は言葉を選びつつ切り返した。
「むしろ、美形でさえあれば、何でもありな白鳳さまの方が・・・・」
さすがの神風も、最後まで形にするのは憚られたらしい。が、こういう場面に限って、困った主人は要らぬ鋭さを発揮する。濁した語尾を察した白鳳は、拳でどんとテーブルを叩いた。
「まさか、私がおかしいって言うんじゃないだろうね」
「・・・・誰もそんなことは申しておりません・・・・」
「白鳳さまは個性的ゆえ、世間とずれるケースはあり得る」
「価値基準は人それぞれです」
話をこじらせまいと、神風たちは当たり障りないコメントをしたが、白鳳の機嫌が直る気配はない。と、その時、今まで一連のやり取りに見向きもしなかったDEATH夫が、鬱陶しげに一言吐き捨てた。
「お前は明らかにおかしい」
「が〜〜〜〜ん。。」
「きゅるり〜っ」
DEATH夫には言われたくないと反発する一方で、悪魔の使徒の忌憚ない印象だけに、衝撃も大きい。変人認定された白鳳は芝居がかった仕草で、へなへなとテーブルへくずおれた。



ただし、脳内お花畑の白鳳は、己が変だとこれっぽちも認めていない。大袈裟な反応は、心優しい連中の同情を買うべく、傷心を装っただけだ。ところが、お目付役&スイは、DEATH夫に反論しないばかりか、我が意を得たりとうなずいているではないか。完全に思惑が外れ、白鳳のこめかみにピキピキと青筋が立った。
「DEATH夫の戯言に、あっさり納得するなんて、酷いじゃないっ」
いつもなら、必ず味方してくれるハチとまじしゃんが、食事とご老公漫遊記の話に夢中で、場に参加していないのも痛い。しかし、止せばいいのに、白鳳は自らの価値観に、絶大な誇りを持っていた。
「私のセンスがずれてるはずない。おかしいのは世間の方!!」
ここまで堂々と根拠のない自信を主張出来るとは、ある意味あっばれだ。3人と1匹はあっけに取られ、白皙の美貌をまじまじと見つめた。が、白鳳の危険思想を野放しにしておくつもりはない。まず、神風が口火を切って意見した。
「そもそも、××嗜好がすでに一般常識を逸脱しています」
「種の保存を考えても、本流とは言えん」
「・・・・善悪や正邪は関係なく、白鳳さまとて少数派の自覚はおありでしょう・・・・」
出来る限り、白鳳の神経を逆なでしないよう諭したが、彼らの気配りも虚しく、誤った自負は小揺るぎもしなかった。
「今、少数派なのは、めくるめく倒錯の世界が知られてないだけさ。私の感性はまともそのものだし、諸国を巡る過程で、もっともっと世の男性に××ワールドの素晴らしさを伝えなきゃねv」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「きゅっ、きゅるり〜。。」
よく、真の変わり者は自覚なしと言われるが、生きた見本がここにいた。主人に異端を認識させるべく、果たして、いかにアプローチしたら良いのだろう。万策尽きた一同は、やるせない表情で目を伏せている。辺りに漂う薄ら寒い空気を一掃したのは、子供の無邪気な言の葉だった。
「少数派云々は分からないけど、白鳳さまは男の子モンスターを差別せず、愛情たっぷりに温かく接してくれるよっ」
「んだんだ、オレのかあちゃんになってくれたかんな」
まじしゃんとハチに指摘され、白鳳を見切りかけた年長組は、はっとして顔を見合わせた。確かに、白鳳がいわゆる”普通”の感覚の持ち主なら、お供たちを掛け替えのない同士として、位置付けなかったに相違ない。
「常識を歯牙にもかけない白鳳さまだからこそ、対等に付き合って下さるんです」
「思えば、我々とてはぐれ系で、仲間内では特殊な存在だ」
「・・・・白鳳さまとはちょうど良い組み合わせでしょうね・・・・」
「きゅるり〜」
常軌を逸した暴走のせいで、要らぬ苦労をさせられるが、白鳳が示す真心は本物だ。ぶれない信念に救われたことも少なくない。モンスターへの心ない偏見とは、常に身体を張って戦い、断固、従者を守り抜いてくれた。家族や親友のごとく、愛され信頼され、誰もが充実した日々を送っている。今や白鳳パーティーは彼らにとって、生まれ育ったダンジョン以上の大切な場所だった。
「白鳳さまとの出会いがきっかけで、こうして新たな道が開けたんだ」
「・・・・多数派がいつも正しいとは限りませんし・・・・」
「うむ、××趣味さえなければ、個性の強さは魅力となるかもしれん」
白鳳の特殊過ぎる感性も、捨てたものではない。数年間の道中を振り返り、忠臣たちは改めて実感していた。
「僕たち、白鳳さまにお仕え出来て幸せ者だねっ」
「オレ、いつまでもはくほーと一緒だぜー」
「ふん、くだらん茶番だ」
全否定されかねない雰囲気だったのに、まじしゃんとハチの意図せぬ援護射撃で、がらりと潮目が変わった。DEATH夫を除き、全員から好意的に受け容れられ、お調子体質の白鳳はますます増長した。
「ようやく、私の正しさが分かったんだね。繊細で優れた感性は、凡庸な輩からなかなか理解されなくて困っちゃう」
「きゅるり〜。。」
満面の笑みで両手を広げ、肩を竦める白鳳を、苦笑混じりで見遣るスイだったが、独特な思考回路が主従関係にプラスとなっているのは間違いない。我ら兄弟のため、私心を捨てて、尽くしてくれるメンバーの誠意に、兄は十分応えている。そう思うと、スイの気持ちは少しだけ軽くなった。


FIN


 

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