*従者総愛人化計画〜後編*
生息ダンジョンが全世界だった居残り組が、旅の土産話に好奇心を抱くのは当然で、誰もが身を乗り出して聞き入っている。しかし、実のところ、主人が一喜一憂して語る内容のほとんどが捏造だった。捕獲時に華麗な技で大活躍するのは自分ひとりだし、フローズンが気を配る道中の段取りや路銀のやりくりも、いつの間にか白鳳の手柄になっている。更に切なる願望を反映して、必ず素敵な紳士とのアバンチュールが盛り込まれるのだ。無論、始まりは相手が類い希なる美貌を見初めたシーンからである。
「ご主人様ぁ、それからどうなったんですか」
「ふたりはらぶらぶになったの?」
「・・・・・彼は奥さんと別れて、私との愛に生きると言ってくれたけど、その言葉を想い出にさよならも言わずに街を離れたよ。お互い愛し合っていても、どうにもならないことってあるんだね。。」
やるせない仕草でソファに肢体を預け、声を詰まらせた真紅の瞳に、うっすらと涙が滲む。熱く話しているうち、自分でもでっち上げだと忘れ、偽りの悲恋に酔いしれてしまうのだろうか。悲しげな主人を見て、心優しい男の子モンスターたちも一様に目を潤ませている。だが、肩先のハチから発せられた素朴な疑問が、白鳳を現実に引き戻した。
「あり?おっちゃんははくほーを見ただけで、あたふたと逃げ回ってなかったかー」
「余計なこと言うな」
「あてっ」
嘘も方便という教訓を知らない虫は、またもやたおやかな手に吹っ飛ばされ、無様に転落した。ソファの脇に佇んでいたオーディンが、中腰になってちっこい身体を拾うと、遠慮がちに言いかけた。
「この件に関しては、ハチの言う通りだと思うが」
先程からの嘘八百を腹に据えかねていたのか、神風とフローズンもすぐ後に続いた。
「傍迷惑にも程があります。妻子がある人に強引に迫って、職場ばかりか家にまで押し掛けて」
「・・・・あげくの果てに、出入り禁止にされてました・・・・」
「きゅるり〜っ」
一部始終を目撃した従者たちの厳しい攻撃は、紅唇に反撃の余地を与えなかった。
「うううっ」
標的を定めたら暴れうしの突進。TPOをこれっぽちも心得ない者の恋路など、相手に退かれて終わるのが関の山だ。架空のロマンスを暴かれ、すっかり立つ瀬がなくなった白鳳は、やむなくギャラリーの興味を他に移す作戦に出た。
「そ、そろそろ日も暮れてきたし、夕食をこしらえないとね」
「おおおっ、メシだな〜♪」
「昨日、あんなに材料を買い込んだんだから、きっと凄いご馳走だよっ」
宿屋の厨房を借り、あり合わせで作る料理でさえ、舌がとろける美味しさなのだ。ハチやまじしゃんがはしゃぐのも無理はない。他のモンスターたちも主人自ら腕を振るう晩餐が楽しみで、ここかしこから歓声や笑い声が響き渡る。姑息なごまかしがまんまと成功し、白鳳は安堵の息をついた。
「じゃあ、私が戻るまで皆を頼むよ」
「はい」
「きゅるり〜」
神風にスイを手渡し、後の管理を任せると、紅いチャイナ服は逃げるように台所へ引っ込んだ。落ち着きのない態度は、悲恋の真相を暴露されたせいばかりではない。先程こそ事なきを得たが、従者生活数年の勘が、真性××者の胡散臭い企てを告げている。主人の暗躍に気付きながら、野放しにしておくなんて出来ない。
「フローズン、悪いけど一緒に来てくれないかな」
「・・・・どうしたんです、神風・・・・」
「白鳳さまが良からぬことを考えている気がして」
DEATH夫の体質を改善すべく、薬膳料理に挑戦すると張り切っていたけれど、なぜ闇市で山菜類を購入する必要があるのだろう。力仕事を毛嫌いしてるくせに、道中、荷物を誰にも持たせなかったのも腑に落ちない。取りあえず、フローズンに全ての食材をチェックしてもらおう。
「・・・・承知しました、まいりましょう・・・・」
どうやら、フローズンも同様に感じていたらしく、小さな顎を深く落とした。かまびすしいくらい賑やかな居間を出ると、ふたりは気配を消して台所へ向かった。
いきなり踏み込んだのが裏目に出て、証拠品を処分されては元も子もないので、神風たちは扉の小窓から中の様子を窺った。鼻歌混じりで野菜類を洗うスレンダーな後ろ姿が見える。
「媚薬や毒物の効果を持つものが混じってないかな」
「・・・・ここからでは分かりかねます・・・・」
いくら目を凝らしても、磨りガラス越しでは食材を識別することすら困難だ。
「仕方ない、中へ入ろう」
密売組織の抜き打ち調査のごとく、紺袴と雪ん子が厨房に乱入するやいなや、繊細な指先が震え、山芋がぽとりと床に落ちた。この狼狽えよう、ますます怪しい。
「て、手伝いなんか頼んだ覚えはないよ」
平静を装ってはいるが、視点が定まらない真紅の瞳を見据えつつ、従者が真っ向から切り出した。
「白鳳さま、薬膳料理と偽って、変な薬を混ぜようとしていませんか」
「出し抜けに何だい。いくら神風だって、そんな言い掛かりは許せないなあ」
口を尖らせる主人にフォローもせず、神風は珍しく強引に先を続けた。
「念のため、材料を点検させてもらいます」
「・・・・それでは失礼して・・・・」
仲間に促され、フローズンのちんまりした手が、食材をおもむろに手に取った。視覚、触覚、嗅覚をフルに使い、ひとつひとつ丁寧に調べている。
(もおっ、フローズンまで連れて来なくてもいいのに。。)
ハッタリもあって、強気な姿勢を崩さなかったものの、内心はハラハラドキドキで生きた心地もしない。つてを頼りまくって入手した遅効性の媚薬がばれたらどうしよう。見た目は普通の山菜とまるっきり変わらないけれど、幅広い知識を持つフローズンだったら、レアな薬草も摘発されてしまうかもしれない。事実、その深い教養と聡明さで練りに練った計画が幾度、露と消えたことか。
(ひっ)
ついにフローズンが件の材料を吟味し始めた。気分はまさにギロチンの前の囚人だ。他の野菜に比べて、入念に確かめているのでは。流された眼差しがこちらを咎めているのでは。己に後ろ暗い部分があるだけに、フローズンの一挙手一投足が全部、最悪の結果の暗示に思え、いっそう心が乱れた。
(早く終わりにしようよ〜)
最終宣告を待つ緊張に耐えかね、白鳳はひたすら祈った。針のむしろに座らされた状態から一刻も早く解放されたかった。が、果てしなく続くと思われた取り調べも終焉を迎え、可憐な唇がゆっくり結論を紡ぎだした。
「・・・・特に問題はないようです・・・・」
嬉しい誤算の一言に、白鳳は安堵を通り越し、快哉を叫びたい気分だった。苦労して探し求めた甲斐があった。博識な彼でもさすがに未知の薬草だったらしい。
「本当に?」
「・・・・ええ・・・・」
「そ、そう」
フローズンに言いきられても、神風はまだ納得いかない様子だったが、DEATH夫の身を案じる彼が白鳳を庇う理由など皆無だ。結局、主人の潔白を認めざるを得なかった。詮議さえくぐり抜けてしまえば、こっちのもの。真性××の辞書に反省と後悔の2文字はない。直前の神頼みをすっかり忘れ、白鳳は従者たちを睨み付けながら切り返した。
「とんだ言い掛かりのせいで、下ごしらえが遅れちゃったじゃないか」
「すみませんでした」
「・・・・申し訳ありません・・・・」
素直に頭を下げるふたりを見届けると、邪魔者は消えろとばかり、しなやかな腕がドアを大きく開いた。
「さ、関係ない人は出ていって」
「はい」
「・・・・分かりました・・・・」
神風とフローズンは一礼すると、連れ立って厨房を去って行った。
(ふふふふふ、神はまだ我を見放さずv)
見事、お目付役を欺き、白鳳はしてやったりとほくそえんだが、廊下を歩くフローズンの口元に、薄く笑みが浮かんでいたことは知る由もなかった。
主人の丹誠込めた作品が、大きなテーブルにずらりと並ぶ。薬膳料理と銘打っても、献立自体は普通の中華料理と何ら変わりない。海の幸、山の幸が色とりどりに盛り付けられた皿の前で、一同は夕餉の挨拶を今か今かと心待ちにしていた。
「うわ〜っ、美味しそうだなあ」
「どれから手を付けようか迷っちゃう」
「よ〜し、倒れるまで食いまくるぜー」
「きゅるり〜♪」
それぞれの小皿を手に、早くも好みの料理に目星をつけている。人数分の膳を用意すると、後片づけなどに膨大な手間がかかるので、任意のものを自ら取り分けるバイキング形式だ。
「いただきま〜す」
声を揃えた挨拶と共に、賑やかな晩餐が開始された。館じゅうの男の子モンスターが集合した室内は、個々にかわされる会話の渦で騒音状態だ。でも、そのやかましさこそ、自分たちがこれまで頑張った証だと思えば、苛つくどころか満足感さえ漂う。故郷から強引に連れ去った暴挙を恨むこともなく、一心に慕ってくれる可愛い子たち。
「どう?美味しい?」
皆、食事とおしゃべりに夢中で、白鳳の問いかけも気付かないが、生き生きした表情や加速度的に減っていく皿の彩りを見れば、答えは聞かずとも分かる。出来たての料理をキレイに平らげてもらうのが、提供者にとって最大の喜びだ。ところが、ひとりだけ周囲に馴染まず、ぼんやり頬杖を付く黒いシルエットが目に止まった。食べることに興味が薄いのか、色と香りで自己主張するご馳走にもまるっきり無関心だ。
(やれやれ、世話が焼けるコだねえ)
せっかく滋養強壮に効果がある食材を買い込んでも、肝心のDEATH夫が手を付けなくては甲斐がない。もっとも、彼の行動は予測済みで、すでに対策は練ってある。白鳳は一膳分の料理を乗せたお盆を用意すると、DEATH夫の眼前にすっと差し出した。
「はい、これDEATH夫の分」
「余計なことをするな」
「きちんと食事を取らなくちゃ、一緒に連れて行けないよ」
「俺はもう快復した」
「表向き落ち着いたように見えても、身体を維持するのに必要な成分を補充しなければ、長丁場の間に必ず弊害が出るんだから」
この言葉は決して出任せではなく、白鳳の嘘偽りない本音だった。が、むろん親切心のみでお膳を作ったわけではない。和え物の中には例の媚薬効果を持つ山菜が含まれている。間違いなくDEATH夫専用の膳が必要になると踏んで、こっそり別にこしらえておいたのだ。
「お前らに二度と迷惑はかけない」
「封印をかけられたままでよく言うよ。時が経てば、また先日みたいな状況になるのは必至じゃないか」
「その前に自力で始末を付ける」
「どう始末を付けるのさ」
食事をさせるべく説得するつもりだったが、相手の頑なな態度にムカついて、つい挑発的な口調でやり返していた。可愛いげがないにも程がある。彼は絶対認めてないだろうが、窮したときのための友であり、仲間ではないか。
「あいつをとっ捕まえて封印を解かせる」
「わざわざ助けに来てくれたのに、あいつ呼ばわりなんて随分だね」
「別に頼んだわけじゃない。馬鹿にしやがって」
眉を顰めながら、いかにも忌々しそうに吐き捨てた。一筋縄でいかない性格なのは重々承知しているが、どうも理解に苦しむ。自分を切り捨てたはずのマスターに救われたなら、多少なりとも喜ぶのが普通ではないか。唯一無二のマスターと思い極めているなら尚更だ。それとも、たとえ主人と言えども、他者の情けを受けるのは、あくまで潔しとしないのだろうか。
「・・・・・とっ捕まえるにしても、しっかり食べて体力つけないとね」
まだ主人絡みのことを問い詰めたかったが、それは彼と懇ろになってからでも遅くない。取りあえず、今は特製和え物を口にしてもらうのが最優先だ。
「分かった、貸せ」
DEATH夫は乱暴にお盆をひったくると、黙々と料理に箸を付け始めた。美味いの一言もないどころか、表情すら変えないのは悔しいが、和え物の小鉢に箸を伸ばしたのを見て、白鳳は心の中でくるくると踊り回った。
(やったっ)
後は夜が更けるのを待つばかり。協調性の欠片もない乱暴者で、旅に同行するようになってから、随分苦労させられたが、そのツケを今夜利子を付けて返して貰おう。
パーティー、留守番組を問わず、男の子モンスターが全員寝静まったのを見届けてから、白鳳はいそいそと自室へ向かった。もう薬が効き出す頃で、DEATH夫は熱くなった身を持て余しているに相違ない。これから繰り広げられる悦楽の宴を思うと、我知らず顔が緩んで、含み笑いが漏れた。初めてのオトコになれなかったのは無念だが、経験があれば熟練の技にも敏感に応えてくれるだろう。
「たっぷり趣向を凝らして、可愛がってあげなきゃねv」
意に添わない悪い子にはお仕置きが必要だ。道中、小憎らしい言動で逆鱗に触れた輩もいたが、ことごとく、磨き抜かれたテクニックで骨抜きにしてやった。相手が傲慢で尊大なほど、屈服させた時の爽快感も大きい。DEATH夫にはなんて詫びを入れてもらおうかな。白鳳は素軽いステップに乗ってドアを開いた。
「!?」
案の定、DEATH夫はまだ眠っていなかった。床の中で上体を起こし、ヘッドボードに気怠げに寄りかかっている。左手に絡まるペンダントの鎖。
(きっと身体が疼いて眠れないんだ♪)
作戦の成功を確信しつつ、紅いチャイナ服はベッドの傍らまで歩み寄った。いつものポーカーフェイスを保っているものの、本当はじっとしていることさえ辛いはずだ。まずは軽い刺激を与え、反応を楽しもうと、冷たい指先をゆっくり頬に這わせた。
「何の真似だ」
金の瞳が放つ禍々しい光も、快感を隠すための強がりだと思えば、全然怖くない。
「うふふ、無理しちゃって可愛いなあ」
「ふざけるな」
”可愛い”という表現が気に障ったらしく、白鳳を睨み付ける眼光は一層鋭くなった。でも、今日は威嚇にも臆したりしない。ほんの数十分後に、この視線が哀願に変わると想像するだけでゾクゾクする。
「気丈なのもいいけど、どこまで我慢出来るかな」
耳元で妖しく囁くと、白鳳はDEATH夫の肩を抱き、胸元をそっと撫でたが、容赦なく突き飛ばされ、床にまともに尻餅を付いた。
「痛〜い」
「出て行け」
転倒した主人を一瞥もせず、抑揚のない声音が冷ややかに流れた。しかし、白鳳はおぼつかない足取りながら、性懲りもなくDEATH夫の隣りに接近した。
「私がいなくなったら困るんじゃないの」
「なぜだ」
「それともひとりでするつもり?」
最初はあられもない姿を視姦するのも悪くない。一回達した後で真の悦楽をじっくり教えてやればいい。いかがわしい妄想に耽りながら、今度は手指を首筋から耳元にねっとり流したが、ピクリとも動かないばかりか、全身から闘気が吹きだして来た。おかしい。性感が昂ぶった状態で、気を集中出来るわけがない。
「あ、あのぉ、身体が熱を帯びたりしてないかな」
いきなり弱気になった白鳳は、媚びモードの上目遣いで恐る恐る尋ねた。
「失せろ」
再び力任せに突き放され、彼の身体機能がいささかも損なわれてないことを察した。明らかに薬が効いていない。ショックと困惑で、顔から血の気が引くのが分かった。
「た、確かに山菜を食べたのにどうしてっ」
「・・・・それは私から説明いたします・・・・」
取り乱したあまり、微妙にネタばらしまでやらかした愚か者の背後から、和装の従者ふたりがすたすたとやって来た。
「フローズン、神風も」
穏やかな彼らがいつになく厳しい表情を隠さない。白鳳は万事休すと肩を落とした。
「・・・・魔界で過ごしてきたDEATH夫は、薬物や毒物の類に強い耐性がありますので・・・・」
「がが〜〜〜〜ん!!!!!」
あの時、媚薬の正体を見抜いたものの、どうせDEATH夫には効果がないと分かっていたから、敢えて咎人を泳がせ、現場を押さえる方法を採ったのだろう。白鳳団の影の最高権力者だけあって、フローズンの方が一枚も二枚も上手だった。
再三の不埒な行いに怒りを通り越し、すでに諦めの境地に達したのか、神風は虚空に目をやり、深い溜息をついた。
「こんなことだと思いました。全く懲りないんですから」
「私を騙すなんてあんまりじゃないかっ」
「騙そうとしたのは白鳳さまの方でしょう」
己の行いを棚に上げ、ぷんすか怒っている主人をちょっと睨むと、諭すごとく言いかけた。これではどちらがマスターか、年上か分からない。
「だって、フローズンが私にDEATH夫のマスターになってもらいたいって」
苦し紛れの屁理屈を振られたフローズンも、もちろん手綱は緩めなかった。氷の眼差しが心にぐさりと突き刺さる。
「・・・・マスターになって欲しいとは申しましたが、愛人にしろとは言ってません・・・・」
「姑息な策略ばかり練るから、恋愛も実らないんですよ」
「ううう」
とどめとばかり射られた神風の叱責に、白鳳はすっかりぺしゃんこになった。当のDEATH夫を差し置いて、神風やフローズンの方が怒っている。黒ずくめの死神は××者の悪事の後始末には関心がないらしく、のろのろとベッドへ身を沈めた。
「さあ、白鳳さま、部屋へ戻りますよ」
「ちょっと待ってよ。ここが私の部屋なのに」
「本当にDEATH夫の身を案じているなら、最高級のベッドを提供するのが当たり前です」
「嫌だ、私もここで寝るもんっ」
「聞き分けのないことを言わないで下さい」
神風がどう促しても、半ばヤケになった主人はてこでも動かない。困り果てる仲間を見かね、フロ−ズンが彼らを遮る形で歩み出た。
「・・・・白鳳さま・・・・」
「何と言われたって、私は出ていかないからね」
すっかり意固地になった白鳳は、膨れっ面で切り返したが、雪ん子はとろける笑みを浮かべると、自らの腕を躊躇いがちに回し、ちょこんと寄り添ってきた。潤んだ瞳が瞬きもせず、主人を熱く見つめ続ける。嬉しい予感に、白鳳の胸と股間がずきゅんとときめいた。
(これは、つまりDEATH夫の代わりに、伽をしてくれるってことかな♪)
元はと言えば、フローズンといい仲になりたくて、DEATH夫の同行も快諾したのだ。企みは見破られたけれど、まさかこんな美味しい展開が待っているなんて、世の中捨てたものではない。己の僥倖に感激したのも束の間、不意に強烈な冷気を送られ、四肢が思うように動かなくなってしまった。
「あれ?ね、ねえっ・・・ちょっとっ」
「・・・・神風、今のうちです・・・・」
「うん」
主人が慌てふためいている隙に、神風とフローズンが両脇から身体をがっちり押さえ込み、そのまま出口までズルズルと引きずり始めた。
「わ〜っ、待ってよっ!放してよ〜っっ!!」
抵抗しようにも、手も足もかじかんで、まるっきり力が入らない。白鳳は敢えなく扉まで運ばれ、自室から去らざるを得なくなった。
「DEATH夫、邪魔して済まなかった」
「・・・・お休みなさい・・・・」
「ああ」
DEATH夫の投げやりな応答を聞くと、神風たちはハチがすり抜けられるくらいの隙間を残し、ドアを閉めた。声高に喚き散らす主人は、一同の安眠のため、屋根裏部屋に隔離することになった。無論、私邸を出立するまでの数日は、神風とオーディンの厳重な監視付きで、二度といかがわしい悪巧みはさせてもらえなかった。
FIN
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