*馬鹿な男も使いよう〜後編*
誰もが寝静まる夜更けを待って、ナタブーム盗賊団と白鳳たちは行動を開始した。宝玉を保護する警備隊を除けば、こんな時間に起きているのは冴えた光を放つ月と煌めく星ぐらいのものだ。街はずれの教会の中庭に作られたマンホールの蓋を開け、螺旋階段を下りると、そこには大がかりな地下水路が広がっていた。大陸でもっとも拓けた街だけあり、下水道網も隅々まで整備されている。激しい水流の音が暗闇の中、ごうごうと不気味に響き渡った。
「お宝目指して行くぜ、野郎ども」
「あいあいさー!!」
アックスと数人の子分たちが持つ松明の光だけを頼りに、周囲に気を配りながら水路を辿る一同。中のひとつが王立図書館の厨房まで繋がっているという。
「おやぶーん、真っ暗で怖いっす」
「目が慣れるまでは灯りを見るんだ」
「足元に気を付けろー」
流れの音から察するに水深は相当ありそうだ。万が一、転落でもしたら辺りが見えないだけに泳ぎの達人でもひとたまりもなかろう。さすがに誰もが声も立てず、慎重に歩を進めていた。が。
「他に適当な道筋はなかったんですか」
白鳳が不満げな様子で声をかけてきた。炎の揺らめく輝きが顔の陰影をくっきり照らし、その美貌を際立たせている。
「俺の見つけたルートに文句があるっていうのか」
「こんな臭くて汚ないところ・・・・・服に嫌な匂いがついてしまいますよ」
「きゅるり〜」
スイの啼き声は果たして兄に同意したのか呆れたのか。
「ワガママ言ってんじゃねえっ!!」
アックスの怒鳴り声がエコーすらかかって水路中に反響した。本当にどこまで自分勝手なヤツなんだ。何があっても関わり合いにはなりたくないタイプ。にもかかわらず、寄りによってこの男に決定的な弱みを握られている己を思うと悲しい。
「だいたい本当に侵入できるんですかね」
アックスの鬱な気持ちもお構いなしで、白鳳はなおも訝しげに問いかけてきた。
「事前に完璧に調べたんだ、間違いねえ」
「ふん、貴方の完璧なんて当てになるものですか」
「て、てめぇっ、いい加減にしやがれ!!」
あからさまに馬鹿にした態度に、すっかり頭に血が上ったアックスだったが、その言葉を聞く耳持たないとばかりに、白鳳はぷいとそっぽを向くと、先に行きかけた。と、その時だ。
「あっ」
「きゅるり〜」
「危ねえ!!」
脚を滑らせて水路に落ちかけた白鳳をアックスが素早く抱き留めた。締まったウエストのあたりにがっちり回された腕が、そのまま力強く地上まで引き上げてくれた。
「ボケッとしてんじゃねえっ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
なおも自分を抱擁し続ける男の顔をまじまじと見た。直前まであれほど怒っていたくせに、どうしてとっさに身体が動くのだろう。もうお人好しとかそういうレベルじゃない。ただの馬鹿だ。けれども、ひょっとしたら自分などの理解の範疇を超えた大物なのかもしれない。
「な、何でぇ」
「ふふ、親分さんってば、そんなにきつく抱き締めたら痛いじゃありませんか」
殊更に茶化すような言い方をしたのは、これ以上至近距離でまともに向き合うのが息苦しかったから。
「えっ・・・・・な、何言ってやがるっ・・・・・こ、これはだなっ」
相手に弁解困難な指摘をされ、慌てふためくアックスをさらに戦慄させる出来事が襲った。
その首筋にピタリと突き付けられた冷たく鋭い鎌の切っ先。闇に紛れた黒ずくめの服装の中、金色の瞳だけが猫の目のように不気味に輝く。
「げっ」
「触るな。これは俺のだ」
「なっ!?」
驚く間もなく、腕の中の細い肢体を強引に持ち去られてしまった。DEATH夫が白鳳を奪還したのを確認すると、他の男の子モンスターも駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、白鳳さま」
「うん、どうやら」
「危なかったな〜」
「ご無事で良かったですっ」
心配して声をかけた神風たちには優しく笑いかけたくせに、こっちには礼のひとつも言わない。やっぱりこいつと組んだのは間違いだったと、今更ながらアックスは悔やんだ。にしても、あの表現が妙に引っ掛かる。
「DEATH夫、今のフレーズは語弊があると思うけどなあ」
「違うのか」
「契約が成立したわけじゃないし」
それに白鳳からすれば、相手にモノにされるよりは、相手をモノにしたかった。
「お前が決断しないからだ」
「だって、DEATH夫の交換条件、厳しいんだも〜ん。他のオトコと全部手を切った上、魂と引き替えだなんて」
「当たり前だ」
「おい、契約っていってえ何のこった」
馬鹿げた行動と自覚しつつも、心のモヤモヤを解消したい欲求に勝てず、アックスは思わず問いかけていた。白鳳は悪戯っぽい笑みを浮かべると、人差し指を唇の前でピンと立てて囁いた。
「うふふ・・・愛・人・契・約v」
「な、何だと〜〜〜っっ!?」
潜入の最中にもかかわらず、つい素っ頓狂な声をあげてしまった。水音にも負けない野太い叫びが水道内に響き渡る。こんなことで動揺するなんてどうかしている。××野郎が誰と付き合おうが、自分には露ほども関係ないではないか。
「この真性××野郎、てめぇのモンスターとまで出来てやがるのかっ」
憎まれ口を叩きながらも、アックスはなぜか胸の奥で漣が立つのを感じた。
「親分さん、人の話を全然聞いてないんですね。まだ、契約済みじゃないから、このコとはキスひとつしてません。そもそも、彼らとの関係は貴方が想像しているようなものと違います」
「そうかよ」
白鳳の返答を耳にして、ほんのちょっぴりだけ安堵している己を、思いっ切りぶん殴りたくなった。最凶の性悪悪魔とは未来永劫関わり合いたくないはずなのに。
「本当は皆とねんごろになるのが理想なんですけど、ちっとも素直になってくれなくて」
「きゅるり〜。。」
「・・・・・・・・・・」
しつこく口説く主人に過酷な条件を提示しているのは、DEATH夫だけではなかった。フローズンにはマイナス50度の体温に耐え抜けるなら、一夜を共にしても良いと告げられた。実のところ、体よくあしらわれているだけなのだろう。それなら、目当てのオトコに逃げられるたび、万が一、理想の恋人が現れなかった時はずっとお側にいますと、優しく励ましてくれる神風の方がよっぽど可能性がある。
「実力行使に出ようにも、可愛い顔して腕は立つし、賢いし、なかなか難攻不落でねえ。あっさり押し倒されるお間抜けは貴方くらいですよ」
「ふ、ふ、ふざけんなっ!誰が好きこのんでてめえなんかとっっ!!」
自分に対する苛立ちとない交ぜになって、アックスの怒りの温度は沸点をあっさり超えた。悲しいことに腕ずくでどうこう出来る相手ではないけれど、今日こそはせめて一矢たりとも報いたい。ところが、アックスが行動に出る前に、清しい紺袴がふたりの間を割るごとく立ちはだかった。
「白鳳さま、いい加減にして下さい」
「・・・・・神風」
相変わらず時と場所をわきまえない主人の言動を見かねたのだろう。一方、頭から蒸気を吹き出す勢いでいきり立つアックスに、緑バンダナの子分が恐る恐る声をかけた。後ろに他の連中が控えているところを見ると、皆の代表で意見しに来たようだ。
「お、おやぶーん、早く行かないと夜が明けるっすー」
「あ、ああ、そうだったな」
可愛い子分の忠言でようやく目が覚めた。そうだ、俺たちにとって宝玉を入手することが唯一最大の目的ではないか。白鳳の”愛人契約”が全く気にならないと言えば嘘になるが、取りあえず心をクリアにすると、アックスは再び一行を率いて、水路を進み始めた。小一時間歩き続けると、やがて分かれ道が目に入った。ここを左に行けば、目的地の厨房に繋がっているはずだ。
「こっちだ」
彼の指示通り、徐々に狭くなる路を進むと行き止まりに出た。上部にほんのり灯りが見える。側壁には梯子のような金具が植えてあり、これで外に出れるのだろう。先にアックスが上って、周りに誰もいないことを確かめてから全員部屋に入った。情報に違わず、ここは王立図書館の大きな厨房の中。ここまで来れば、宝玉の収められた特別室は目と鼻の先だ。
「よし、もう一息だ。野郎ども、気を抜くんじゃねえぜ!!」
「あいあいさー!!」
アックスの案内に従い、一同は無事特別室まで辿り着いた。こんな時間でも一応警備はいたもののさほどの数ではなかったので、白鳳は懐から香を出すとそれを手早く焚いた。
「下手に戦闘に持ち込めば騒ぎになるだけですよ」
アックスには不快な記憶しかもたらさない薬だが、この局面では効果満点だった。警備員は瞬く間に眠りに落ちてしまい、彼らは難なく部屋に足を踏み入れることが出来た。中心にある透き通ったガラスケースに駆け寄る一同。
「よし!やったぜっ!!」
アックスは興奮状態で戦利品をその手に取った。七色の美しい煌めきを湛えた珠。腕っ扱きの盗賊連中誰もが挫折した悪魔の宝玉をついに我が物にしたのだ。大嫌いな××野郎の力を借りたのは不本意だが、それでも綿密にルートを調べあげた上で、中心になって計画を遂行したのは自分だ。
宝玉を手に意気揚々と引き上げようとした一行だったが、最初の角を曲がったところで、いきなり巡回中の警備員とはち合わせしてしまった。夜中にもかかわらず、気を抜くことなくきっちり警備体制を敷いているのはさすがである。
「お、お前ら、何者だっ!?」
「うっ」
むろん彼らはアックスが持っている宝玉に気付いた。
「曲者っ、曲者だっ!!」
柱を揺るがす絶叫に呼応して、どやどやと加勢の一団がやって来た。子分たちは皆、たじろいでいるが、それに引き換え、白鳳のお供たちは余裕すら見せ、自らを取り囲んで来た連中の前にゆっくり歩み出た。
「ようやく出番か」
「・・・・正直、退屈してました・・・・」
「ここは我々がくい止める」
「おう、オレたちにまかせとけっ」
「白鳳さまは彼らと先に行って下さい」
「片が付き次第、すぐ追い掛けますからっ」
特殊な技能を持たない人間相手なら、いかに手練れとは言え、難なく片付けることが出来るだろう。
「ありがとう。頼んだよ」
白鳳は男の子モンスターたちに軽く指示を与えてからその場を離れ、アックスたちと一緒に厨房まで急いだ。地下水路自体が巨大な迷路みたいなものなので、そこまで逃げおおせれば、追っ手を撒くのも容易に違いない。ところが、道中で赤バンダナの子分が警備員に捕まってしまった。
「おやぶ〜ん、助けてー」
「あっ!!」
「大変だっ、仲間が捕まった!」
「早く助けなきゃ」
「どうするっすか、親分」
「よし、おめえたちはここにいろ」
慌てて戻ろうとしたアックスを白鳳が押しとどめた。
「貴方はそれを持って、他のボクちゃん達と先に行って下さい」
「ざけんじゃねえっ!可愛い子分を置いていけるわけねえだろがっ!!」
動きが封じられたところで、別の廊下からまた新手が現れた。このままでは男の子モンスターたちを残していった甲斐がなくなってしまう。相手の人数とレベルを一通り確認してから、白鳳は低い声で切り出した。
「あのボクちゃんは私が助けます」
「な、何だとぉ!?」
まるっきり予想外の発言にアックスは素っ頓狂な声をあげた。
「だから親分さんは早く」
「冗談じゃねえっ!てめえなんて信用できっか!!」
非常事態とはいえ、いや、だからこそ自分を脅すような男の口車にうっかり乗るわけにはいかないし、子分の命運を他人任せにするのも本意ではない。やはりここは玉砕覚悟で飛び込むべきだろう。せっかくそこまで決意したのに、傍らの紅いチャイナ服に先を越されてしまった。
「全く融通が利かない人ですね」
あからさまに冷ややかな視線を送ると、白鳳は子分のひとりにスイを預けて、警備員が居並ぶゾーンに正面から飛び込んでいった。
「あっ、無茶はよせっ!!」
アックスからすれば、その特攻は明らかに無謀に思えた。だが、白鳳は鞭を一閃させて、最前の警備員の武器を叩き落とすと、次の瞬間には彼らの間に割って入り、右の二人を肘打ちと蹴りで倒した。力自体はさほどでもなさそうだが、動きが洗練されていてムダがないし、攻撃も的確に急所にヒットさせている。
(こいつ・・・・・)
てっきり薬を使わなければ、何も出来ないヤツだと思っていたがとんでもない。相当戦い慣れている。あれではそこいらの屈強なだけの男では勝負になるまい。しかし、最後尾にいた大柄な警備員が槍を巧みに使って鞭を絡め取り、力比べになった。
「武器さえ奪えば、こっちのものだ」
「くっ」
先端と末端で鞭を引っ張り合ったが、さすがにこの体格差では白鳳の方が分が悪い。最初こそ拮抗していたものの、徐々に細い肢体が引きずられてきた。立ち去ることも乱入することも出来ず、拳を握り締めて闘いの成り行きを目で追うアックス。が、唐突に白鳳が鞭を手放したので、相手は力余って後方に大きくよろめいた。
「うわっ!!」
その隙を逃がさず懐に入り込むと、顎と腹に鮮やかな蹴りを入れ、仰向けに転倒させた。強かに後頭部を打ちつけた相手はあっさり昏倒した。床に落ちた鞭を素早く拾って、子分を抱えている警備員に迫る。白鳳の実力の程が分かっただけに、他の連中も安直には動けず、ただ双方の対峙を眺めているだけだ。
「ち、近づくな。こいつがどうなってもいいのか」
「うわーん、おやぶ〜ん!助けてー!!怖いっすー、怖いっすー」
「いいですよ。別に私には関係ありませんし」
「な、何〜っ!?」
突き放した返答に、固唾を飲んで見守っていたアックスが愕然としたのは当然だが、人質を取った当の相手も意外な答えに一瞬度を失った。白鳳はその隙を逃がさなかった。相手の目のあたりを狙って、手元の触手をしゅるんと伸ばすと、そのまま前方に駆け込んだ。
「あうっ!!」
白鳳の攻撃から己の顔を庇って、思わず子分から手が離れた。すかさず、白鳳は子分の手を取ると、自らの胸元に引き寄せ、その不安を取り除くべく優しい笑みを浮かべながら声をかけた。
「ほら、ボクちゃん、行くよ」
「お、おいっす。。」
白鳳は知らない。このコこそ以前、温泉ダンジョンで自分がさんざん脅した子分だということを。かつてしなやかな腕に抱えられたとき、恐怖におののいた彼だったが、穏やかな笑顔を間近で見て、ほんの一瞬だけ”今ならお婿に行けなくなってもいい”とまで思ってしまった。
「待てっ!!」
「うるさいっ!!」
追いすがる警備員を豪快な回し蹴りで蹴倒した。もはや、他の警備員は完全に気圧されて、すっかり戦意を喪失している。白鳳は子分を抱えたまま、アックスのところまで走ると、投げるようにして引き渡した。
「うわーん、おやぶ〜ん!!」
ようやくアックスと合流できて、嬉しさと安堵でしがみついて泣きじゃくる赤バンダナ。
「ほらほら、もう泣くんじゃねえ」
「何モタモタしてるんですか。さっさと脱出しますよ」
「あ、ああ・・・・・」
どこか返事に歯切れがないのは、不覚にも白鳳の戦いぶりに見惚れてしまったから。ただ強いだけではない美しさすら感じさせる優雅な身のこなしに、加勢に入ることも忘れ、完全に目を奪われていた。そして、見惚れていたのはアックスだけではなかった。
(か、かっこいいv)
遠巻きに眺めていた子分たちも皆一様にうっとりしていた。それほどその戦いぶりは水際立ったものだったのだ。
無事辿り着いた地下水路で男の子モンスターたちと合流した後、白鳳たちは盗賊団と共にダンジョンの最奥まで戻って来た。封印されていた伝説のモンスターを眠りから覚ますのだ。万が一の場合を考え、もっとも戦いやすいこの地点を選んだ。相手の正体も実力も一切分からない以上、細心の注意を払うに越したことはない。こんな小箱に眠っていても実際は山のごとき巨体の持ち主かもしれないし、完全に捕獲するまでは全く気が抜けなかった。
「じゃあ、親分さん、お預かりしますよ」
「おらよ」
アックスから虹色に輝く宝玉を手渡され、白鳳はそれを箱の窪みにはめた。ぽわっと全体が淡く光を放った。ごくりと息を飲む一同。すでにDEATH夫とフローズンは白鳳の傍らで戦闘態勢に入っている。神風たちも低く構えを取って、この先の事態を見守った。
「!?」
手を添えるまでもなく、箱はひとりでに開いた。果たして鬼が出るか蛇が出るか。掌にじんわり汗が滲むのが分かる。だが、その緊張はほんの一瞬で終わりを告げた。
「こ、これが・・・・・伝説のモンスターだってぇ!?」
二頭身くらいのその人型の生き物は大きなあくびをした後、鈎状の尻尾の出ているお尻をぼりぽりとかき始めた。金髪のツンツン頭にくるくる回る琥珀色の瞳。どう贔屓目に見ても、鼻よりほっぺの方が出っ張っている。ちょっとハチに似ているかもしれない。白鳳の視線に気付くと眉を八の字に寄せて、情けない顔で照れ笑いをした。全く害意はなさそうだ。
「やれやれ。まさかこんなのだったとはね」
気が抜けたみたいにふうと息を吐くと、そのちっこいモンスターを掌に乗せてやった。同じくらいの大きさのせいか、スイがずっと興味深そうに見ていたから。モンスターの方もスイが気になっていた様子で、白鳳のしなやかな腕をとてとてと肩先まで駆け上っていった。
「きゅるりー」
対面するやいなやふたりして仲良く戯れはじめた。言葉は交わさなくても互いに意思の疎通はあるようだ。
「おーい、オレも入れちくりー」
同サイズの生き物に親しみを覚えたのは、スイのみではなかった。元々、懐っこいこともあり、ハチも浮き浮きと彼らの交流に参加した。きゃあきゃあと無邪気にじゃれ合う虫とモンスターと小動物。
「ま、いいか」
観賞用の可憐な子を想像していただけに、少々期待はずれな気はしたが、スイにいい遊び相手が増えただけでも良かった。口元を柔らかく綻ばせたまま、白鳳は斜め後ろのアックスに声をかけた。
「これで私の用は終わりました。早いところトロッコでダンジョンを出ましょう」
「おう。てめえら、さっさと乗っちまえ」
「あいあいさー」
かつてこの場所が鉱山だったときの名残のトロッコが、山頂からの帰還には実に役立つ。子分たちは数珠繋ぎになったトロッコに数人毎に別れて乗った。その様子を見遣りつつ、アックスも後方のそれに脚を踏み入れかけたが、ふと気になって白鳳の方を振り返った。案の定、神風を始めとする彼の一行はまだ誰もトロッコに乗っていない。不意にアックスは嫌な予感に襲われた。
「おめえらもとっとと乗りやがれ。だいたい、用が済んだのなら、とっとと宝玉を返さねえか」
「ふふふ、すみません」
「?」
「持ってるうちにやっぱり欲しくなっちゃったv」
七色の神秘的な光彩に心を奪われ、いつしか手元に置きたくなっていた。わざわざ子分も救助してやったことだし、元より”貴方のモノは私のモノ”だから、何ら良心が咎めることもない。
「お、おいっ、てめっ!!」
白鳳の開き直った宣言にアックスは顔面蒼白になった。
「やっぱりな」
「・・・甘い顔をすると、とことんつけ上がりますから・・・」
DEATH夫とフローズンが醒めた口調でコメントしたが、むろん彼らは静観の構えを崩さない。アックスには何の義理もないし、この程度のことで単純な主人がご機嫌になるのなら、それもまた良かろう。
「さ、オーディン。親分さんたちを下まで送ってさしあげなさい」
白鳳に詰め寄るべく方向転換をしかけたアックスを無理やりトロッコに放りこむと、オーディンが力任せに押し出した。凄まじい勢いで加速するトロッコ。
「うわっ!!」
「きゃー、おやぶ〜ん!!」
「怖いよー、怖いよー」
「助けてー」
「こ、この野郎っ!覚えてやがれ〜〜〜〜〜っ!!」
アックスの朗々とよく通る声だけはこちらまで届いたが、そのドレッドヘアはとっくの昔に坑道の奥に吸い込まれて消え失せていた。
「ご苦労様、ふふふふふvv」
ナタブーム盗賊団の阿鼻叫喚の叫びも静まり、すっかり静寂を取り戻したダンジョン内に白鳳の満足げな含み笑いだけが妖しく響き渡った。
COMING SOOM NEXT BATTLE?
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