*お楽しみはこれからだ〜後編*



鍛え抜かれた逃げ足を遺憾なく発揮して、その場から去りかけた盗賊団だったが、ひとりだけ遅れ気味の鈍くさい赤バンダナを見逃す白鳳ではない。
「まじしゃん」
「はいっ」
「後ろにいるボクちゃんを連れて来てくれるかい」
連中へのお仕置きを行き過ぎだと感じているせいか、神風たちの目はどうも冷たい。ここで素直に言うことを聞きそうなのは彼だけだ。
「分かりましたっ」
全幅の信頼を寄せている白鳳の指示に間違いなどあり得ない。元気一杯に返事をすると、まじしゃんは素軽い動きで最後方の子分を捕らえた。
「うわっ!な、何するんだようっ」
短い四肢をじたじた動かして抵抗したものの、巻き付いた腕は振り解けない。哀れな子羊は敢えなく白鳳の眼前まで引きずられて来た。
「これでいいですか」
「うん、上出来、上出来♪」
「うわ〜ん、おやぶ〜んっっ!!」
逃げる術を失い、途方に暮れた赤バンダナの悲しげな叫びが、アックスと同胞の耳に突き刺さった。
「大変だっ、親分。仲間が捕まったっ」
「な、何だとぉ〜っ!?」
振り向けば、掛け替えのない子分が××野郎の魔の手に落ちているではないか。最悪の展開に頭を抱えたくなったが、ショックを受けている場合ではない。どうにかして子分を救い出さなくては。誰もが同じ思いだったらしく、一同は逃げ出した時を超える猛スピードで、元の場所まで戻ってきた。
「相変わらず子分思いですねえ、ふふふ」
これっぽちも悪びれないで、不敵に含み笑いすら漏らす白鳳に、アックスの怒りは募り、そのこめかみに大きな青筋が浮かぶ。
「てめえ、どこまで汚い手を使やあ、気が済むんだっ!!」
「おや、先程は全くの実力勝負だったはずですよ」
「くっ」
無論、子分連中だって同胞の窮地に黙ってはいない。白鳳の周囲をぐるりと取り囲むと、激情に任せて口々に喚き散らした。
「何しやがる、こいつうっ」
「おいらたちの仲間を放しやがれー」
「このひきょうものー」
けたたましい叫び声に一瞬眉を顰めると、白鳳は威嚇するごとく、鞭をびしぃっと叩き付けた。
「お黙り」
「ひいい」
「うううう」
たおやかな外見からは想像もつかない、ドスの利いた低い声がバンダナ軍団の背筋を凍らせた。先程の激痛を体が覚えているのか、知らず知らずのうちに身が縮こまって行く。でも、敵の手に落ちた仲間はもっと怖い思いをしているのだ。必死になって恐怖と戦いつつ、子分たちは再びアックスと共に白鳳に立ち向かった。
「ま、負けるもんかーっ」
「そうだっ、あいつを助けるんだっ!!」
戦闘能力こそからっきしだが、それを補って余りある一同の勇気が嬉しくて、アックスは満足げに言い放った。
「偉えぞ、てめえら。それでこそナタブーム盗賊団の一員だっ」
盗賊団の心はひとつ。最凶の悪魔から大切な仲間を奪還すべく、アックスは腹に力を込め、改めて白鳳と対峙した。



「××野郎、なめたマネしやがってっ。こうなったら今すぐぶっ殺してやらあっ!!」
「どうぞ。このボクちゃんがどうなってもいいのなら、ね」
「な、何っ」
白鳳の先細りの指が真ん丸いおとがいにかけられた。ねっとり絡みつく紅い視線は、いかがわしい営みを知らない子分にさえ、本能的な恐怖を抱かせるに十分だった。
「お、お、おやぶ〜ん、助けて〜っ」
「ちょっと、いやかなり守備範囲外だけど、行きがかり上、やむを得ませんね」
行きがかりで真性××の毒牙にかけられては堪らない。日頃は血色の良い顔を蒼白にして、逃れようともがいたのも虚しく、白鳳の悩ましい唇が赤バンダナの顔にどんどん近づいていく。
「ま、待ちやがれっ!子分に手出ししたら、この俺が許さねえっ!!」
「私に一矢も報いられないくせして、大きな口叩くんじゃありませんよ」
「うるせえっっ!!!!!」
「・・・・・・・・・・」
不覚にもその怒声に込められた気概に、ほんの少しだけ圧倒されてしまった。レベルに見合わぬ、強い意思を感じさせる瞳に、我知らず魅入られていた。己を賭けても大事な存在を守り抜くという強靱な意思。1ヶ月ほど前にもこんな輝きを見たことがあったっけ。そう、ルーキウス王国で出会った緑の瞳の・・・・・。
(!!)
そこまで思いが至って、白鳳ははっとした。どうして、ドレッドのむさ苦しい巨体に、寄りによって青い騎士の面影を重ねたりするのだろう。
(彼とこのオトコじゃ月とスッポン、ダイヤモンドと石炭なのに)
愚かしい発想を抱いた自分を吹っ切ろうと、アックスを見据えて意地悪く囁いた。
「じゃあ、貴方が代わりにお相手してくれるんですか」
「な、な、何言ってやがるっ!!」
××野郎に嬲られた悪夢が蘇り、アックスの声が気の毒なくらい裏返った。子分を犠牲には出来ない。さりとて、自ら××の餌食になるのも真っ平だ。まさに究極の選択を突き付けられ、彼の単純な頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。
(く、くそおっ)
ただでも人質を取られているし、盗賊団は完全に進退窮まったかに見えたが、そこに思わぬ救世主が現れた。
「白鳳さま、もういい加減にしましょう」
「きゅるり〜」
度を越した暴挙を見かねたのか、神風が双方の前に歩み出た。その場の娯楽に溺れ、肝心のへびさんの捕獲はすっかり忘れ切っている。相変わらず困った主人だ。
「うるさいなあ、これからが楽しいんだから」
「弱い者虐めは良くないです」
「こ、このおっ、またまた俺たちをコケにしやがってっ」
神風は純粋な好意で申し出ているのだが、拘束された子分にちょっかいを出され、頭に血が上ったアックスからすれば、従者までとんでもない性悪に思える。
「う〜ん、どうしようかなあ」
すでに雌雄は決しているだけに、これ以上いたぶったところで進展はなかろうが、最初の期待をことごとく裏切っておいて、あっさり解放してやるのも面白くない。連中の処遇に迷う白鳳だったが、ふと、ある可能性を思い付いた。
「さっき、親分さんたちが逃げたのは、アジトがある方向ですよね」
「ううっ」
こういう方面には実に勘が鋭い性悪悪魔が心底憎らしい。だが、相手の指摘を素知らぬ顔でやり過ごす小狡さをアックスは持たなかった。己の想像の正しさを確信し、真紅の双眸が鈍く煌めく。
「運動して小腹も空いたことだし、何かご馳走してもらいましょうか」
「ふざけんなっ!てめえなんぞに食わせるものは一欠片だってねえっ!!」
「おやぶん、カッコいい〜v」
アックスの毅然とした態度にうっとりしながら、4色バンダナも後に続いた。
「そうだっ、お前には何もやらないぞー」
「親分がこしらえたおやつは、おいらたちだけのものだー」
「美味しいプリンなんか一個もやらないからなー」
「あっ、このバカ」
口調だけはいつになく凛々しかったけれど、その実、内情を全て暴露している発言に、アックスは軽い目眩を覚えたがもう遅い。案の定、悪魔の切れ長の瞳が興味深げに細められた。
「ほう・・・プリンですか」
「冗談じゃねえ、誰がやるものかっ!!」
それでもはっきりきっぱり拒絶したが、アックスの強気の抵抗もここまでだった。
「分かりました。なら、ボクちゃんにオトナの階段を・・・」
しなやかな腕が赤バンダナの子分をまじしゃんから奪うように抱き寄せた。邪パワー漂う空気に悪寒さえ感じ、子分はぶるぶると身を震わせている。
「うわわ〜ん、お、お、おやぶ〜んっっ、助けて〜〜〜〜〜っ!!」
「くくうっ」
「ふふふ、答えはふたつにひとつですよ」
アックスに子分をないがしろにする選択肢はありえない。内心どんなに無念であろうと、もはや彼に白鳳の提案を突っぱねる術は皆無だった。
「し、しょうがねえ」
唇をきつく噛んで、逞しい肩をがっくり落とし、アックスは泣く泣く敵の軍門に下った。相手の屈服した様子を満足げに見遣ると、白鳳はその傍らに馴れ馴れしく寄り添って声をかけた。
「じゃあ、さっそくアジトまで案内して下さいね」
「きゅるり〜。。」



出来たてのプリンが皿の上で生き生きと弾んでいる。微かに鼻腔をくすぐる甘い香りを堪能しつつ、白鳳はおっとりと口元をほころばせた。子分連中の怨嗟の声などこれっぽちも気にならない。
「さ〜て、味見させていただきましょうか」
「ちっ、勝手にしやがれっ」
半ばヤケになったアックスの投げやりな返答が終わらぬうち、優雅な仕草で一匙口に運んだ。
「おや」
正直、驚いた。誇張ではなく、今までこんなに美味しいプリンを食べたことはなかった。素材の天然の甘さを生かした味は舌に心地よく、カラメルシロップと相俟って絶妙なハーモニーを醸し出す。甘いのにしつこさもないし、口腔内でほわんととろける感触がまた堪らない。意外な場所で眼鏡に適うものに巡り会った嬉しさで、自然と表情も和らいで行く。
「ほら、スイもお食べ」
「きゅるり〜♪」
膝の上に乗せた若草色の塊へそっとスプーンを差し出した。口に含んだ途端、満足げな様子ではむはむと味わう弟の姿を、愛しげに見つめる真紅の瞳。
(こいつ・・・こんな表情も出来るのか)
これまで幾度となく見せつけられた毒のある笑いではなく、素のままのあどけない笑顔を見て、アックスはほんの一瞬だけときめきを感じてしまった。その屈辱的な事実に気付き、打ち消すごとく首を振っているところへ、物欲しそうな顔をしたバンダナ軍団がわらわらとまとわりついて来た。
「赤いのだけプリン食べてずるいやー」
「おやぶ〜ん、おいらたちもおやつ食べたいっす」
「プ〜リン、プ〜リン」
「分かった、分かった。おめえらのもすぐ用意すっから、ちっと待ってろっ」
子分たちの要求に応えようと、厨房代わりの大きな机に向かいかけたアックスの広い背中に、悪魔の囁きが容赦なく投げつけられた。
「親分さん、あと6個いただけますか」
「てめえっ、いい加減にしやがれっ!!」
6個も提供したら、子分たちの分が足りなくなってしまう。おやつを日々の楽しみに頑張っている連中のためにも、これだけは死守しなければ。
「だって、こんなに美味しいプリン、私とスイだけで味わうなんて出来ません。このコたちにも食べさせてあげたいですから」
「きゅるり〜」
「おおおっ、オレもプリン食えるのかっ」
先程から指をくわえて、白鳳たちを羨ましそうに眺めていたハチの顔が期待でぱああっと輝く。
「もちろんだよ。ハチのは一番大きいのにしてもらおうね」
「やった〜っっ♪」
「僕たちのことまで考えてくれるなんて、白鳳さまは優しいなあ」
念願叶って、皆の周りを大はしゃぎで飛び回るハチ。まじしゃんも白鳳の厚意をストレートに喜んでいる。が、他のメンバーは主人の傍若無人な振る舞いに、さすがに難色を示した。
「白鳳さま、それはあまりに図々しいんじゃ」
「・・・・彼らのおやつがなくなります・・・・」
「うむ、あんなに欲しがっているんだからな」
「俺は甘いものなどいらん」
しかし、神風たちの正論は聞かなかった振りをして受け流すと、白鳳は虫も殺さぬ笑みを浮かべつつ、相手にぐうの音も出させない殺し文句を口にした。
「親分さん、どうしてもお嫌だと言うなら、1ヶ月前のことをボクちゃんたちの前で、実演させてもらいましょうか」
永遠に葬り去りたい人生の汚点。アックスにとって、これに勝る脅しのネタはない。今の彼に出来る唯一の抵抗は、諸悪の根元を恨みを込めて罵ることだけだった。
「こ、この腐れ××野郎〜っっ。。」




アックスは泣く泣く追加のプリンを白鳳一行に差し出した。足りなくなった子分たちの分は、これから作ってやらなくては。多めに入手したおかげで、材料が余っていたのがせめてもの救いだ。
「ほらよっ」
「おやつの邪魔をしてしまって、本当に済みません」
神風が申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「あ〜、別におめえらが謝るこたあねえっ」
盗賊団に害を為すのはあくまでも白鳳ひとりで、この連中はむしろ呆れ、制止しようとしていたではないか。単なる同行者に過ぎない彼らに、坊主憎けりゃ袈裟までの論理を持ち出すつもりはない。それにしても、各々の個性がはっきりした男の子モンスターたちだ。旅の途中、人間に連れられたモンスターを見かけることもあったが、いかに賢くても、よく躾られたペットの域を出ないものばかりだった。ひょっとして俗に言う”はぐれモンスター”なのかもしれない。
「・・・・ご賞味いたします・・・・」
「かたじけない」
「よ〜し、食うぜ〜」
「いっただっきま〜す♪」
誰もが、わくわくとした面持ちを隠さず、アックス特製のプリンを食べ始めた。DEATH夫だけは気乗りしない様子だったが、フローズンとハチに粘り強く促され、渋々口を付けた。
「美味しいですね」
「おうっ、こんな美味いプリン初めてだっ」
「・・・・まろやかで・・・・」
「これは白鳳さまが勧めるわけだな」
「ほっぺたが落ちそうっ」
主人の極上の手料理に慣れたせいか、案外味にうるさい一同が、手放しで絶賛する光景を見て、白鳳は我が意を得たりとばかり肯いた。褒め言葉を聞くまでもなく、喜びに溢れた顔だけで、皆の充足感は十分伝わってくる。もっとも、ひとりだけ眉ひとつ動かさないひねくれ者もいるが、気にしてたらキリがないし、折良く白鳳の代わりに本心を尋ねてくれる勇者が現れた。
「なあ、なあ、ですおはどうだったー」
口の周りにべったりメープルシロップをつけたハチの問いかけに、DEATH夫はにこりともせず一言だけ呟いた。
「・・・まあまあだな」
彼の場合、この表現は最大級の賛辞と言ってよい。食べるのに興味がないのか、はたまた隠れグルメなのか、白鳳がこしらえた料理でさえ、なかなか評価してくれないのだ。つまり、アックスのプリンはそれだけ素晴らしい出来だったのだろう。きっかけはどうあれ、男の子モンスターたちを労う形になったのが嬉しくて、白鳳は屈託ない笑顔と共にアックスの手をぎゅっと握り締めた。
「ありがとう、親分さんv」
「きゅるり〜」
「な、何だ、藪から棒によ」
驚きのあまり、××野郎のいかがわしい手を払いのけることも忘れてしまった。あるいは邪気のない笑みに、見惚れたせいかもしれない。にっこりと微笑まれ、謝辞を述べられるなんて、予想だにしなかった。それに白鳳のことだから、男の子モンスターを奴隷のごとく酷使していると想像したのに、皆、怖めず臆せず己の意見を述べるし、連中を対等なパートナーとして扱っているのがよく分かる。和気藹々とした仲の良いパーティーで、これまで知らなかった白鳳の新たな一面を見る思いだった。
「うふふ、今度またご馳走してもらうのも悪くないかな」
「ば、バカ言ってんじゃねえっ!!二度とてめえなんぞにやるかっ」
憎き悪魔に手を取られたままでいたことに気付き、大慌てで振り解いたものの、なぜか胸の動悸が高鳴る自分にアックスは激しく戸惑っていた。




口々に恨み言を吐き捨てる盗賊団と別れ、白鳳たちは鬱蒼と茂る森を、出口目指して進んだ。ところが、街道が見えるやいなや、不意に皆が主人を残して、立ち去ろうとした。いったいどういう了見かと問い詰める前に、神風が淡々と言いかけてきた。
「それでは私たちは一足先に宿屋で待ってますから」
「えっ」
いきなり突き放したような宣告をされ、白鳳は訳が分からず愕然とした。
「はくほーはまだへびさんを捕まえてないだろ」
「宿代を稼いでから来い」
ようやっと事情が飲み込めた。けれども、フローズンの考えた露店が大盛況だったのなら、6人分(ハチは無料)の宿泊費くらい楽に浮くはずだ。白鳳がわざわざ余分にへびさんを捕獲する必要もなかろう。
「あ、あのさ・・・お店でたくさん儲かったんだよね」
「・・・・我々の宿賃と小銭以外は全額銀行へ預けました・・・・」
「が〜〜〜〜んっ」
「きゅるり〜」
しっかり者のフローズンは最低限の費用しか手元に残してないらしい。そりゃあ、預けたお金は次の資金に回せるし、利子も生んでくれる。だけど、白鳳は今、自分の宿泊費が欲しいのだ。罠を作り直して、捕獲に再挑戦する気はすでに失せていた。なのに、神風たちはまるっきりノルマを免除してくれる気配はない。最後の砦とばかり、まじしゃんに救いを求める熱い視線を送ったが、彼は満面に笑みを湛えると、きっぱり言い切った。
「白鳳さまは超一流のハンターですから、へびさんを捕まえるくらい訳ないですよねっ♪」
「・・・・・う、うん」
憧憬の眼差しで返されると、少年魔導師の夢を壊す情けない発言も出来やしない。白鳳は不本意ながら捕獲にチャレンジせざるを得なくなった。まさか、こんな状況でたったひとり取り残されるなんて。
「白鳳さま、お気をつけて」
「くれぐれも油断されぬよう」
「・・・・夕食は7時からです・・・・」
「僕、白鳳さまが到着するまで、食べずに待ってますからっ」
最初はしつこいほどお供すると言ったくせに、肝心な時にあっさり見捨てる神風が憎らしい。まじしゃんだって、食事を待つくらいなら、一緒に来てくれた方がどれだけありがたいか。
「ふんだ。数え切れないほど捕獲して、スイートルームに泊まってやるっ」
「きゅるり〜」
大人げなく拗ねた白鳳は、露骨にぷいと踵を返すと、今来た道を早足で戻り始めた。少し行ったところで、ちらりと後方を見たけれど、ひとりとして追い掛けてくる気配はない。
(もうっ、みんな生意気になっちゃってっ)
ますます腹を立て、ぷうと頬を膨らませた白鳳の耳に、聞き慣れたひょうきんな口調が飛び込んできた。
「いけねっ、いけねっ」
改めて振り向けば、ハチがもの凄い勢いでこちらへやって来るではないか。遠目にも歯を食いしばる必死の形相に気付くと、白鳳の胸はきゅんとときめいた。
「ハチっvv」
きっと、主人をひとりぼっちにすることに気が咎め、迎えに来たに違いない。あのDEATH夫に対する熱心なアプローチでも分かるように、誰よりも懐っこくて心優しいコなのだ。いつもの間抜け面が、どんな色男より輝いて見える。いたく感激して、ハチを迎えた白鳳だったが、一寸の虫は白皙の頬を掠めると、肩先のスイをひょいと持ち上げた。
「スイを連れてくのを忘れちったよ、ゴメンなー」
「きゅるり〜」
「先に宿屋で待ってようぜ。魚が美味いんだぞ〜」
どうも考えていた展開と違う。イヤな予感がどっと押し寄せて来たものの、一縷の望みを託し、白鳳は恐る恐るハチに声をかけた。
「は、ハチ、私は?」
「おう、はくほー頑張れよなっ」
「きゅるり〜」
にぱっと笑って励ましの言葉を発しただけで、ハチは躊躇いなく方向転換して、場を離れる。
「あ・・・ちょっとっ、ハチっ、スイっ」
白鳳の縋りつくごとき呼びかけを尻目に、ハチは一目散に仲間たちの元へ帰って行った。






結局、森にひとり放り出された白鳳はぷんすか怒っていた。
「ったく、スイもスイだよ。少しは抗えばいいものを」
兄の身を案じるどころか、喜び勇んでハチに抱きかかえられて去ってしまうなんて。
「はああ、これからどうしよう」
へびさんを捕らえる気力など、もう露ほども残っていない。かといって、このまま野宿に甘んじるのもゴメンだ。しかし、5年以上も旅を続け、一癖も二癖もあるはぐれモンスターたちとやり合っていれば、心身共に逞しくもなるし、些細なことではめげたりしない。
「あっ、そうだ」
この先にはまだ盗賊団のアジトがあるはずだ。彼らもこれから恐らく夕餉の支度だろう。白鳳主従を唸らせたプリンの出来映えを思えば、食事にも相当期待できる。味付けのコツがあれば、アックスからそれを聞き出して、自分の料理に役立ててもいい。
「背に腹は代えられないし、あのテントに泊めて貰おうかな」
アックスがどう抵抗したところで、口でも腕でもこてんぱんに打ち負かす自信はある。こんな羽目に陥ったのも、元はと言えば、子分連中が勝手に罠に引っ掛かったせいなのだから、最後まできっちり責任を取らせよう。
「それに、やっぱり押し倒さないで別れるなんて、私の流儀に反しますし」
せっかく巡り会ったのだから、ヤることはきちんとヤッておこう。外見に似合わず、案外、純情で可愛いオトコだし、こちらの仕打ちにいちいち過剰に反応して、焦り嫌がる様子は見てて飽きない。どうせなら、一晩中ハードに攻め立てて、今度こそ”ご主人さま”と呼んでもらおうじゃないか。
「今夜は手ずからアレにリボンを結んであげましょうかねえ、うふふふふv」
新たなお楽しみに思いを馳せ、白鳳は足取りも軽くテントへの道を辿り出した。





COMING SOOM NEXT BATTLE?


 

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