*一年の計は××にあり*



今日は1月7日。年末に帰郷したまじしゃんも土産持参で戻り、白鳳パーティーは遅蒔きながら初詣のため、近所の小さな神社へ出掛けた。ギリギリ松の内とはいえ、3が日過ぎた境内に、参拝客はほとんどいない。おみくじを散りばめた枝が風にそよぐ様は、あたかも祭りの後を思わせる。社殿の前の賽銭箱に小銭を投げ入れると、一行は垂れ下がっている縄紐を順番に振り、ガランガランと鈴を鳴らした。事前にフローズンから聞いた通り、二拝二拍手一拝の作法に従い、厳かに祈りを捧げる。もっとも、悪魔の使徒たるDEATH夫は、鳥居の脇で虚しい神頼みを冷笑していた。
「今年こそ、スイが元に戻るといいねっ」
最後の礼を済ませ、社殿へ背を向けた途端、まじしゃんが快活な声で切り出した。誰もが胸に期す願いをストレートに提示され、仲間たちは口々に賛同した。
「おうよ、オレも真っ先に祈ったかんな」
「我々の力で、スイ様の解呪を成し遂げよう」
「・・・・ええ、必ず・・・・」
「捕獲は順調に進んでいるし、実現の日も近いですよ」
「きゅるり〜」
従者の力強い言葉が嬉しく、スイは仄かに目を潤ませた。呪いを解いたとて、得することなどないのに、いつも不満ひとつ言わず尽くしてくれる。彼らがいなければ、数年間、楽しく実りある旅を続けて来れなかったに相違ない。揺るぎない忠誠に感謝しつつ、しみじみと幸せを噛みしめるスイだったが、誠意溢れる男の子モンスターに引き換え、肝心の兄は年頭から××ロードを突っ走っていた。
「奮発して100Gも賽銭を入れたし、今年こそきっと理想のオトコが現れるはず、うっふっふ♪」
ほのぼのした雰囲気をぶち壊す、欲望丸出しの発言に、神風・フローズン・オーディンは殊更そっけない口調で返した。
「毎年、同じセリフを言って、よく飽きませんね」
「・・・・当神社の御利益は家内安全・商売繁盛です・・・・」
「うむ、縁結びはないぞ」
「え〜っ、神様なのに、出来ることと出来ないことがあるなんて、おかしいじゃない」
「・・・・神は基本的に分野別だと思いますが・・・・」
「むしろ、全知全能の神の方が特殊です」
フローズンや神風の返答は正しい。全知全能の神が存在すれば、一人で全て間に合うだろうが、実際は宗教や地域ごとに様々な神がいるではないか。しかし、縁結びの御利益をやんわり否定されても、白鳳はなお御参りの効力を主張し続けた。
「い〜や、こんなに心と気合を込めて願ったんだよ。美しく健気な子羊を哀れに感じ、多少、守備範囲外でもどうにかしてくれるって」
「「「・・・・・・・・・・」」」
たとえ、定められた御利益がどうあれ、自分の望みは特別に叶えられるべきだ。相変わらず、自己中で開き直った理論に、お目付役&スイは呆れかえって顔を見合わせた。
「よくもまあ、ここまでご都合主義の解釈が出来るものだ」
「敬虔な信仰とはもっとも無縁なキャラですから」
「・・・・しょせん、苦しい時だけの神頼みなのです・・・・」
「きゅるり〜。。」
恒例の初詣と言っても、決して信心からのものではなく、イベント好きだから、ノリノリで参加するに過ぎない。いつも滞在地の最寄りの祈り場で、適当に済ませているのがいい証拠だ。ちなみに、昨年は怪しげな新興宗教の教会を選んだせいで、酷い目にあった。真っ黒なフードをかぶった連中から、へっぽこな踊りと歌を強要された苦い記憶が、一同の脳裏にありありと蘇った。



取りあえず、参詣は滞りなく終わった。後は宿へ戻って、白鳳手作りの七草粥を食べ、1年間の無病息災を願うのみだ。鳥居でDEATH夫と合流し、6人と2匹は揃って石段を下り始めたが、最前部にいた白鳳は、不意に振り返り、わくわく顔で皆へ尋ねた。
「ねえ、スイのこと以外に、何を願ったの?」
単なる興味本位でなされた質問ではない。マスターとして、お供の望みはしっかり把握しておきたかった。ただでも、捕獲スケジュール最優先で、常に不自由を強いているのだ。彼らの希望を気に掛けておけば、移動の合間に、ほんの一部でも実現することが出来るかもしれない。
「・・・・道中の無事と、路銀の確保を願いました・・・・」
「後は心に残る出会いが、ひとつでも多いといい」
「パーティーの絆がいっそう深まれって祈ったよっ」
3人の模範解答に続き、紺袴の従者は主人へ容赦なく釘を差した。
「ムダな祈願だと分かっていますが、白鳳さまが少しでも身を慎んで下さるように、と」
「きゅるり〜!!」
胸中の懸念が形となり、ここぞとばかり声を張り上げるスイ。
「あ〜・・・・・そう」
ツッコミどころすらないコメントの数々に、白鳳は不満げな様子で顔を逸らした。確かに、僕としては完璧な解答だが、まるっきり面白みが感じられない。年の始めくらい、羽目を外しても良かろうに。もっと意外性のある望みを求め、白鳳は眉をたわめて言いかけた。
「気遣いはありがたいけど、あまりにも優等生だと、かえって不自然だよ。誰だって、個人的な願いのひとつやふたつはあるでしょ」
白鳳に優しく促され、お調子体質の食いしん坊がすぐ飛びついた。チャイナ服の胸元までやって来たハチは、両手を腰に当て、にんまり笑った。
「オレなっ、オレなっ、大陸中のご馳走をしこたま食いたいって」
「お前の願いは言われなくても、400%お見通しなんだよ」
「あてっ」
白鳳が求めたのは、メンバーの秘めた意志であって、今更、珍生物の食い物ネタを耳にしたくない。せっかく、白鳳の問いかけへ応じたのに、哀れ、ハチは新年早々、強烈なデコピンを喰らわされた。空中で2回転したハチを、神風が素早く受け止めた。
「言われた通り、素直に胸の内を示したハチに手を上げるなんて、マスターのする行為じゃありません」
「別にハチには聞いてないもん。私は神風たちの本音を知りたかったんだよ。にしても、お前は食べること以外、志はないのかい」
「ない!!!!!」
元気溌剌、大威張りで即答され、同士はもちろん、離れた後方を進むDEATH夫まで口元を緩めている。白鳳も苦笑しながら、ハチのぽっこりお腹を人差し指でつついた。
「・・・はあ、尋ねた私がバカだった。。」
「でもよう、どんなご馳走より、かあちゃんの料理が一番だぜー」
「・・・・・・・・・・」
性懲りもなくかあちゃん呼ばわりされ、こめかみの辺りが引きつったものの、傍らの神風の眼差しが痛いし、ハチなりに精一杯賛辞してくれたのは分かる。正月サービスとして、特別に聞かなかったことにしてやろう。その代わり、重要な任務を与えるべく、白鳳はハチのどんぐり眼を熱く見つめた。
「よし、私が新たな目標を決めてあげる」
「ホントかよう」
「うん、私からのお年玉さ」
「んで、目標って何だー」
相手にノルマを課して、お年玉もないものだが、気の良いハチは天真爛漫にはしゃいでいる。やる気満々の虫を見遣り、白鳳は慈愛の笑みと共に言い放った。
「それはね・・・私のため、一日も早くローヤルゼリーメインの蜂蜜玉と、美容液を開発することv」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「きゅっ、きゅるり〜っ」
ハチの目標と銘打っているが、実態は己の利益しか考えていない許し難い内容だ。周囲で見守っていた面々は、白鳳の底抜けの図々しさにしばし絶句した。従者と弟の生温かい視線をものともせず、白鳳はハチの承諾を確信し、きらきらと目を輝かせている。年が改まっても、××者の根性は腐ったままだった。今年も待ち受けるであろう要らぬ苦難を思い、メンバーは暗澹たる気分になった。



仲間に不憫がられているとも知らず、白鳳の役に立てるのが嬉しいハチは、身を乗り出して、無邪気に問いかけた。
「なあなあ、びようえきって食えんのかー」
「もう忘れたの?美容液はお肌に塗るものだよ」
「あ、こりゃまた、うっかりだ」
白鳳に指摘され、ハチは照れ笑いをしながら、頭を掻いた。年末にあれほど噛み砕いて説明したにもかかわらず、脳みそ3グラムの虫は綺麗さっぱり忘れている。意欲やスキルはあっても、正しい知識がなければ、白鳳が望む効果を持ったブツは完成しない。ハチの認識を試すため、紅唇は恐る恐る質疑を紡いだ。
「じゃあ、美容液の効用は知ってる?」
「よく分かんない」
「・・・・・やっぱりね」
予想と寸分違わぬ答えを聞き、白鳳は脱力して息を吐いた。ところが、続くハチの一言は、白鳳を驚愕させるに十分なものだった。
「分かんないけど、はくほーがいつまでも若く美人でいられればいいんだよな」
「そうっっ、そうだよ!!!!!ハチ、ポイントを押さえてるじゃないっ」
ハチとは思えない的を射た発言に、白鳳の声は興奮で1オクターブ高くなった。たおやかな手で頭を撫でられ、ハチはリズミカルに触角を揺らした。
「年が明けたせいか、お前もずいぶん成長したねえ。期待してるよ、ハチv」
「ほい来た、がってん」
任せとけとばかり、太鼓腹を叩いて哄笑するハチ。だが、浮かれポンチなのは白鳳とハチだけで、ギャラリーはいずれも苦虫を噛み潰している。歯をむき出したハチを、そっと掌に乗せると、フローズンは柔らかな物言いで正論を告げた。
「・・・・目標が必要なのはハチではなく、白鳳さまの方ではありませんか・・・・」
「今年は殿方を追いかける以外の目標を持たれたらいかがです」
「スイ様もそれを望んでいるぞ」
「きゅるり〜っ」
お目付役に畳み掛けられようと、怯む白鳳ではない。そもそも、××者にとって、イケメンハンティングこそライフワークなのだ。白鳳は肩をそびやかして、声高に反論した。
「オトコ漁りは生涯の伴侶を求めればこそ。私の人生の浮沈がかかってるんだから、誰にも邪魔はさせないよ」
「ふん、海溝の底まで沈んでるくせに」
「がーんっ、酷い」
ずっと沈黙していたDEATH夫にきつい一撃を加えられ、白鳳は哀れっぽい仕草で嘆いた。が、今更、従者たちの同情が買えるわけもなく、せめてもの慈悲で、神風が渋々助言した。
「神頼みでは理想の殿方は見つかりませんよ。自分でもいろいろ努力しなければ」
「えええっ、誰より努力してる私が、おかしいなあ」
白鳳は大真面目な顔で首を捻った。恐ろしいことに、真底、得心していないようだ。まあ、ある意味、白鳳の叫びに嘘偽りはない。好みの相手ゲットを目指し、日夜、手段を選ばず頑張っている。けれども、躍起になって頑張れば頑張るほど、幸せから遠ざかる一方だと、白鳳以外のメンバーは皆、気付いていた。
「・・・・残念ですが、白鳳さまの努力は180度方向を誤ってます・・・・」
「初対面のオトコに迫られて平静でいられる、ノン気の殿方がいるとは思えません」
「うむ、他者の迷惑も顧みず追い掛けても、逃げられるのがオチだ」
「白鳳さまは魅力的なんだから、アプローチ次第でモテモテだよっ」
「んだんだ、三界一の美人だかんな」
「きゅるり〜」
困った主人ではあるものの、男の子モンスターへの愛情は本物だ。紆余曲折あっても、いつか幸せを掴んで欲しい。ゆえに、機嫌を損ねかねない意見を敢えて口にしたのだが、彼らの思い遣りは腐れ××野郎に全く通じなかった。
「イヤだなあ、何ピント外れなこと言ってるの。獲物が逃げてしまうのは、麗しい私があまりに眩し過ぎて、照れてるだけだって」
「「「・・・・・・・・・・」」」
適切なアドバイスも、根拠のない自信の前には、まさに猫に小判、豚に真珠。ピント外れなのはお前の方だ、と切り返す気力も失せ、パーティーは白鳳を残し、松の大木がそびえ立つ出口へ急いだ。茫然と後ろ姿を見送る白鳳に、神風の通達が聞こえて来た。
「白鳳さまの今年の目標は、”空気を読め”で行きましょう」
「それはいい」
「・・・・白鳳さまに相応しい目標です・・・・」
「目標達成のため、僕も何か手伝えたらいいなっ」
「へっ、空気って読めるんかー」
「お前は分からなくていい」
「きゅるり〜っ」
さすがは、白鳳の表も裏も熟知した忠臣だけある。神風の現状を把握した提案に、一同は幾度も首を縦に振った。この技能さえ身に付けさせれば、余計な尻拭いをしなくて済むし、白鳳だって好条件の伴侶と結ばれるかもしれない。ただし、聡明な彼らは心のどこかで、白鳳が空気を読める日は未来永劫来そうにないと悟っていた。
「ちょっとぉ、なぜ、勝手に私の目標を決めるわけぇ!?」
両手を振り上げて絶叫する主人に、答えてくれる者は誰ひとりいない。無言で石畳を急ぐ従者たちを、あたふたと追い掛ける白鳳だった。



FIN


 

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