*恋はお手やわらかに*



自覚した想いを素直に吐露するまでには少なからぬ葛藤もあったし、こちらの立場を慮るがゆえの白鳳自身の抵抗もあった。だから、彼をどうにか納得させて正式な承諾を得たとき、まず胸を満たしたのは、複雑に絡まった糸を解いたようなある種の安堵と達成感だった。が、その感情が喜びに変わる間もなく、セレストはあれよあれよという間に白鳳の部屋まで連れ込まれていた。まさに怒濤の急展開。とは言うものの、いい年をした男女・・・いやいや互いの好意が通じ合えば、次に起こりうることは自ずと想像が付く。告白の先をこれっぽちも想定していなかった自分の方が迂闊だったのだろう。
(遅いな)
ベッドの縁に腰掛けて、スイを預けに行った白鳳の帰りを待った。なぜか喉が渇いてたまらない。視線をウロウロと彷徨わせながら、生唾ばかり飲み込んでいた。正直、期待よりも懸念の方が大きい。生来、真面目で不器用なセレストは、お世辞にも色事に長けているとは言いがたい。それに引き換え、相手は紛れもなく百戦錬磨。様々な憂いも消え失せた今、どんな熟練の技を繰り出してくるか予測もつかない。落ち着かないまま、外の気配に耳を澄ます己を情けないと思うが、誰にでも得手不得手はある。これなら強大なモンスターと素手で一戦交える方がよっぽど気が楽だ。



自室のドアが見えるところまで戻って、もう何分経ったことか。勢いで彼をここまで引っ張ってきたけれど、いざという段になって、途端に柄にもない緊張が襲ってきた。戯れの相手なら、どうにでもあしらえるが、本命となれば話は別だ。しかもいろいろな紆余曲折を得て、ようやく気持ちが通い合った想い人ではないか。
(なんだかドキドキするなあ)
うなじから顔に血が登ってきた。これでは一年前と同じ醜態を晒しかねない。少しでも心を静めようと、大きく深呼吸をしてみたが、その不確かな息づかいで改めて今の緊張を思い知らされた。掌にじんわりと汗が滲む。しかし、自分が連れてきた手前、いつまでもセレストをひとりにしておくわけにもいかない。廊下の窓から流れ込む風で、頬の熱をある程度冷ますと、意を決して扉を開けた。心中の揺れを隠すための艶やかな笑顔と大げさな甘え声。
「お待たせ、セレストv」
「え・・・・・あっ、はいっ」
「・・・・・・・・・・」
セレストのぎこちない対応に白鳳は続く言葉を失った。彼の緊張は自分の非ではなかった。声は微妙に裏返っているし、顔も引きつっている。必死で涙を堪え続けたのに、誰かに先を越されて、泣く時期を逸してしまった。今の心境はちょうどこんな感じだった。が、緊張しているのは自分だけではないと分かったことで、逆に一種の余裕めいたものが生まれてきた。
(ふふふ、可愛いですねv)
一年前は本意を見抜かれた動揺もあって、主導権を奪われたけれど、彼の方が年下なのだし、やはりこうでなくては。すっかり立ち直った白鳳はセレストの右隣りに腰を下ろすと、腰のベルトを外しながら、耳元にそっと囁きかけた。
「あの時は貴方からキスしてくれたのに」
やや不満の色を浮かべた赤い瞳から放たれる凄まじい色香。それだけで頭がクラクラする。端正な顔を呆けたように見遣るセレストだったが、白鳳は軽く唇に触れるだけのキスをすると、おもむろに胸元から手を忍ばせてきた。形の良い紅唇が頬から耳元へ流れ、耳朶に取り付いてくる。冷たい指先が胸の飾りに触れた。その違和感に思わず身体を退き加減に捩ったが、蜘蛛の糸でがんじがらめにされたみたいに逃げられず、結局、指と舌で嬲られるがままに甘んじた。不快ではないが、さりとて快感とはほど遠い奇妙な感覚。
「どうですか?」
いつもなら、こんなことを尋ねたりしないのだが、彼が極度に緊張しているだけに敢えて問いかけてみた。せっかく約一年ぶりに巡ってきた機会なのだから、少しでも実りのあるひとときを過ごしたい。
「う・・・・ん、そうですね。少しくすぐったいような」
「くすぐったい」
「はあ」
相手の率直な感想を耳にした白鳳は、納得した顔付きでうなずくと、しばし考え込んでいたが、再びベルトを巻き直して、足早に出口へ向かった。
「ちょっと出て来ます」
「え」
仕掛けた愛撫を中断するなんて彼らしくないし、その上外出までされそうになり、セレストは大いに面食らった。自分の反応が意に添わなかったのだろうか。
(しまった。失言だったか)
あのケースでの適切な表現を考えたら、”気持ちいい”とかの類だろうが、そんな言葉がすんなり出てくるはずもない。むろん気恥ずかしさもあるが、完全にリードされた状態に甘んじるのは、男としてやはり抵抗があった。それでも、不用意な発言で白鳳の機嫌を損ねたのなら申し訳ないと思い、素直に頭を下げた。
「あ、あの・・・・・すみません」
「何か勘違いしてるんじゃありませんか。別に怒ってなんかいませんよ」
「だったら、なぜ外出なんて」
「この時間を有意義に楽しむため必要な小道具を調達してくるだけです。すぐ戻って来ます」
微笑む彼の人を吸い込んで、ぱたんと閉ざされたドアを眺めながら、セレストの心中には複雑な思いが渦巻いていた。白鳳を心から愛しているし、ずっと共に歩んで行きたい。この気持ちに嘘偽りはないはずだ。なのに、情熱がストレートに肉体に反映して来ない。完全に吹っ切ったつもりでも、頭の片隅で相手が男だという事実が引っ掛かっているのだろうか。こちらの煮え切らない態度で彼を失望させたかと思うと、ますます気持ちが沈んで来るが、戻ってきた白鳳をがばと抱きしめて、一気に押し倒すなどという大胆な芸当は到底出来そうにない。密かに国を出ようとした彼に、”寝ましょう”と言いかけたとき、いったいどういう精神状態だったのか、当時の自分を問いただしたい心境だ。
(調達と言うからには買い物か)
どうも”小道具”という単語が引っ掛かる。
(まさか、その手の道具を買いにいったんじゃ・・・・・)
単なる冗談で済まされないのが怖い。そこまで考えが及ぶと、出掛けの笑顔も悪魔の笑みに思えてきた。もっとも、星の数ほど相手がいるのに、寄りによってそんな人物に惚れた己の趣味に問題ありと言われればそれまでだが。





小道具なるものの正体に悩み、ベッドに座り込んだまま、先の方針を決めかねているところに白鳳が戻ってきた。
「お待たせしましたね」
微かに息を弾ませているところを見ると、よほど慌てて行って来たに相違ない。
「これは・・・・・」
右手に抱えた紙袋に恐る恐る目を遣ると、瓶の頭が覗いていた。ワインか果実酒の類だろうか。包みをテーブルに降ろしてから、たおやかな手が調理場で借りてきた細長いグラスと小皿を取りだした。白鳳に促され、セレストは彼と向かい合わせになる形で、木の椅子に深く腰を下ろした。
「私も嬉しさのあまり、少し性急に過ぎました。時間は十分あるのですから、まずは乾杯しましょう」
「はい」
こんな小道具なら大歓迎だ。だけど、後で代金の半分は返さなくては。
「本当は先日の果実酒が出来ていると良かったんですけど」
残念そうにぽつりと呟くと、白鳳は濁り気味のクリーム色の液体で満ちた瓶を開け、斜めにしたグラスにとろとろと注いだ。細かな泡がしゅわっと弾けて、辺りに果実の香りが漂う。そのスレンダーな体型から、いかにも食が細そうに見えるが、草原のダンジョンでの飲茶といい、アーヴィング家での果実酒造りといい、飲食関係には実に積極的だ。料理上手の人は食いしん坊だと言うし、外見とは裏腹に美食家なのかもしれない。
「すっきりした爽やかな飲み口ですね」
グラスを合わせてから、口にしたワインは期待以上のものだった。あまり強くない炭酸に、甘めながら切れのある味。我知らずふっと顔がほころぶ。
「おや、自国で売られているのに、セレストは飲んだことがないんですか」
「同僚や同期の連中と飲むときは、こんな上品なお酒は出て来ませんから」
大の男が集まって、賑やかにグラスを傾けるには似合わないが、恋人同士がしっとりした雰囲気で語り合うには相応しい。胃に染み込む感触から、アルコール分もさほど強くなさそうだ。後味の良さを反芻しながら、立ち上る気泡の動きを目で追っていると、小皿にランダムに並べられた一口サイズのチーズが差し出された。
「どれもよく熟成していて美味しいですよ」
かつて騎士団の誰かに、チーズには酔いを抑える効果があると聞いた。むろん、白鳳もそれを踏まえた上で用意したのだろう。
「白鳳さんはルーキウス育ちでもないのに、いろいろな店に詳しいんですね」
「そこまで広い国じゃないですし、何度か訪問すれば、大抵覚えます。セレストこそ毎日坊ちゃんに付きっきりで、せっかくの宝を埋もれさせたまま、過ごしているんじゃありませんか」
そうは言っても、モンスター捕獲に関係ないプライベートな活動を、心底楽しめる気分になれたのはつい最近のことだ。全ては彼と再会したおかげ。
「自分の国なのに知らないことが多くて、お恥ずかしい限りです」
例の冒険がなかったら、封印獣に関してだって、真実は伝説に覆い隠されたままだった。もっとも、行動半径の狭さを抜きにすれば、日々の生活は充実感とやり甲斐に溢れ、カナンの突拍子もない言動に振り回されながらも、さしたる不満はなかった。
「こんなに食べ物が美味しい国はめったにないのに勿体ない。セレストのことだから、自炊の材料も手頃な値段のものしか選んでないんでしょう」
「う」
図星だった。家族や友人に腕を振るうときは、出費を惜しまず、最高の食材を購入しても、自分ひとりだとついつい安価な材料で済ませてしまう。よく言えば質実剛健、悪く言えば貧乏性に出来ているのだ。
「いかにも貴方らしくて微笑ましいですけど、たまには自分のために贅沢してみたらどうですか」
「自分のための贅沢、ですか」
「ええ」
正直、”贅沢”なる単語にはあまりいい印象を持てない。けれども、ここで言う贅沢は豪奢や華美とは異なり、質の高いものに実際触れ、己の内面を磨くことを示しているようだ。先日のカナンとの語らいでも、白鳳の知識の豊富さや感性の鋭さは十分うかがえた。最初は当てのない旅への不安を紛らそうと、戯れで目や口を楽しませる事物に手を出したのかもしれない。が、それを自分のプラスに転じさせたことに対し、セレストは素直に感心していた。



和やかに交わされるグラスと会話にくつろいでいたものの、ふと先程までの懸念を思い出した。品の良い味わいにすっかり油断していたが、これが本当に”小道具”だとしたら、普通のワインとは限らない。一服盛られた可能性もありうる。
(媚薬・・・が一番ありそうだな。後は身体の自由を奪う薬とか)
密かにロープや拘束具の類を購入した線も否めない。しかし、ここまで考えて、さすがに己の妄想に嫌気が差してきた。
(仮にも自分の恋人になんということを)
疑惑を否定する材料を探すセレストの脳裏に、白鳳の危ない言動が次々と浮かんでは消えた。出会ってからの会話を思い起こせば、”怪しい薬”や”いかがわしい店”など、胡散臭いフレーズは枚挙に暇がない。捕獲ロープで首を絞められて死にかけたこともあったっけ。
(・・・・・ダメだ。愛を以っても庇いきれない。。)
結論を覆すどころか、思いっ切り納得させられて、肩を落とす。さりとて、そんな疑いを自ら口にするわけにもいかず、悶々と悩んでいると。
「別に変な薬なんて入れてませんよ」
相手からきっぱり告げられ、ぎょっとして手にしたグラスを取り落としかけた。
「いえ、そんな失礼なことはっ」
「考えていたんでしょう」
本人は必死に平静を装ったつもりでも、彷徨う眼差しや落ち着かない仕草を見れば、内心の動揺は丸分かりだ。”小道具”程度の言葉に過剰反応するなんて、初々しくて実にそそられる。
「ほ、ほんのちょっとだけ」
全然ちょっとじゃなかったが。
「ねえ、セレスト。いくら私でも合意の相手に薬や道具は使いませんよ」
「ははは・・・・・そ、そうですよね」
裏を返せば、非合意の相手には容赦なく使うという解釈も成り立ち、かなり怖かったけれど、この際、深く考えないことに決めた。興を削ぐ妄想から意識を逸らすべく、チーズを口に放り込もうとしたセレストだったが、摘む前の段階で繊細な指に横取りされた。
「いけません」
「?」
「このチーズは少しとろけたくらいがちょうど美味しいんですから」
悪戯っぽく唇の端をくいとあげると、白鳳はチーズを口腔に含んで、ゆっくり立ち上がった。あっけに取られているセレストの肩を抱きながら、テーブル越しに口付ける。
「う」
国で二番目の剣士の名が泣く隙の多い男だけあって、ひとたまりもなく洗礼を受けてしまった。焦ってワイングラスを倒さないだけまだ良かった。驚きと混乱のせいで抵抗を躊躇っているうち、舌先でチーズを送り込まれた。口内の熱で程良くとろけた不定形の固まり。芳醇な香りが鼻の奥にまで伝わる。
「ん・・・・ん」
その唇の感触と甘い吐息をスパイス代わりに、熟成した風味を心ゆくまで堪能した。糊のように柔らかくなったチーズが糸を引いて、ねっとりと舌に絡み、上顎にまで貼りついてくる。歯列を割って侵入した白鳳の舌が半分返してくれとでも言わんばかりに、それを強引に引き剥がして奪い去っていった。



ワインの肴に他愛ない会話を楽しんでから、二人は再びベッドに並んで腰掛けた。打ち解けた一時を過ごしたおかげで、部屋に入った当初の張り詰めた空気は消え失せていた。先程のシーンを巻き戻して、白鳳の艶めかしい紅唇がセレストの口元から頬をなぞり、耳朶を甘噛みする。胸元を滑る冷たい指先も変わらない。ただひとつだけ違ったのは。
(あっ)
突起の根元を爪先で擦られただけで、肩先がピクンと跳ね上がった。身体全体が明らかに敏感になっている。
(これは・・・やられたかな)
やはり妙な薬を使われたのか。戸惑うセレストの気持ちを見透かすごとく、白鳳の嬉しげな声が耳元にするりと滑り込んだ。
「言ったでしょう。合意の相手には小細工しないって」
尖った舌先が耳の奥を無礼なまでに浸食して行った。
「だ、だけどっ」
早くも少し息が上がってきた。己の意思を介しないまま火が点けられた身体はもう止まらず、その芯に凄い勢いで熱が集中するのが分かる。操られたみたいな奇妙な感覚を持て余していると、艶のある声がやれやれといった風に囁きかけた。
「貴方、緊張しすぎていたんです」
「緊・・・・・張?」
「そうですよ。全身ガチガチになって。あれでは私がどんなテクニックを使っても、くすぐったくしか感じなかったでしょうね」
ワインとチーズは自分を心身共にリラックスさせるための小道具だったのか。確かに唐突な展開も手伝って、心の準備はまるっきり出来ていなかったし、未知の領域への不安もあった。一度交わった以上、本来、未知とは言い難いのだが、悲しいかな、セレストにはその時のやり取りや白鳳の切なげな表情の思い出はあっても、自分の成した行為の具体的な手順についてだけ、記憶がすっぽり抜け落ちていた。
「んっ」
「ほら、今度はすぐに反応してv」
たおやかな手で布越しに撫でられただけで、見る見るうちに硬度を増して行く。その速やかな変化に満足しつつ、白鳳は手際よくズボンの前を開くと、形を変えかけたそれを取りだした。
「ち、ちょっと待っ・・・」
「うふふ」
相手の意向など端から無視しきって、待ちかねたように口淫を開始する。繊細な指先を優しく根元に添えると、舌を滑らせ、茎胴の裏側を筋に沿って何度も舐めさすった。早くも興奮気味なのか、透きとおった頬をやや紅潮させ、器官全体にたっぷりと唾液をまぶし込んでくる。元より意中の相手がなす仕業だし、緊張が解れたことで、セレストの肉体はその愛撫の全てを受け容れた。だが、緋色の瞳が上目遣いでこっちの様子を窺っているのが分かると、つい声を殺し続けてしまう。
「そんなに我慢しないで、セレスト」
必死になって堪えれば堪えるほど、より深い快感を誘発して、かえって醜態を晒すことになりかねないのに。だけど、ムダなやせ我慢が可愛いから、こちらからは決して教えてやらないし、もっともっと困らせてあげる。
「・・・・・っ・・・・・・は・・あっ」
現在の状況を手放しで悦しめればいいのだが、どうしてもすんなりと馴染めなかった。彼に対する想いとは全く別の部分で、未だに同性とのセックスに抵抗がないと言えば嘘になる。正直、あの一夜は何か不思議な力が働いたとしか思えないのだ。しかし、あれが生じたからこそ、結果的に白鳳との新たな縁も繋がったわけで、偶然にしろ、必然にしろ、人の運命なんて、ほんの些細なきっかけで180度変わりうるものなのかもしれない。



シーツの海に身を投げ出した自分の上で、弓なりにそそり勃った器官を飲み込んで、若竹のようにしなう白い肢体。その動きを目で追う余裕もすでにない。規則的な巻き込みと締め付けが、悦楽と引き換えにセレストの頭から徐々に理性を奪い去っていく。
「あっ・・・・ああっ・・・・あ、あっ」
捲れた紅唇から嬌声を振りまきながら、白鳳は淫らに腰を揺すると、受け容れた灼ける柱に内壁で絶妙な刺激を与え続けた。白磁の肢体はすっかり朱に染まり、胸に置かれた掌からもじんわり熱が伝わってくる。
「ねえっ、セレスト」
「何ですか」
掠れた甘え声の色っぽさに背筋がゾクゾクした。別次元の世界から訪れた男でも女でもない不可思議な生命体。
「私にっ・・・攻められ通しでは・・・つまらないでしょう」
すでに一度口の中で果てさせられており、その後もここまで彼の遊戯に翻弄され放しだった。まさか、相手に上から乗っかられるとは想像もしていなかった。経験値の違いは承知していても何だか面白くない。
「・・・・・そうですね」
率直な答えが気に召したのか、珍しく屈託なく笑うと、白鳳はセレストの両手を取って、自らの細腰に沿えさせた。ああ、なるほど。こうすればこちらからも動くことが出来るのか。
「性急にっ・・・動いてはダメですよ。ゆっくり・・・・・あうっ」
腰を抱いたまま軽く突き上げただけで、下腹部を跨いだ身体がこれまでとは比較にならないほど、大きく仰け反った。自らお膳立てした予定調和的なものとは異なる未知の刺激。セレストが抽送を激しくするに連れ、快美感はいっそう大きくなっていった。吹き荒れる官能の嵐に陶酔し、銀の糸をかき乱して、悶え跳ねる裸身。
「あっ、はあっ・・・・・いいっ・・・いいですよっ・・・・」
「・・・・・・・・・・(ごくり)」
実際は、白鳳の方がセレストの律動に合わせて、様々な角度で腰を動かしてくれているのだが、それでも主導権を握った気分は味わえるし、相手の色香溢れる痴態を見上げながら、という視覚的な旨味も大きい。
「ああっ、セレストっ」
押し寄せる昂りの波に抗い切れず、白鳳の体勢が崩れかけてきた。首の据わらない赤子みたいに頭をガクガクと揺さぶり、今にもくずおれてしまいそうだ。勃ち上がったものも、すでに先走りの液で濡れそぼっている。日頃に似合わぬ切羽詰まった様子に煽られ、セレストの突き上げに更に熱が籠もった。一切のわだかまりが消え、心が通じ合ったせいもあり、初めてのときとは比較にならない甘い痺れが、結合部から互いの身体をあまねく駆け巡った。不規則な息づかいに吹き出す汗。徐々にせり上がる熱い滾り。その灼熱に耐えかね、解放を求めるべく、これまでの律動を壊すストロークが華奢な肢体の奥まで叩き込まれた。
「あああっ」
「・・・・・くっ」
ふわふわした虚空で、何かが弾け飛ぶみたいな感覚の中、二人は同時に上り詰め、内と外で勢いよく精をしぶかせた。絶頂の余韻に浸ったまま、スローモーションを思わせる動きで、白鳳はセレストの胸元に倒れ込んだ。人恋しさにじっとりと吸い付いてくる湿った肌。
「大丈夫ですか」
「ふふ、とても悦かったですよv」
(・・・・・う・・・・・)
二重瞼を腫れぼったく上気させ、潤んだ眼差しで囁かれた途端、またもや勃然としてきた。直前まで同性との行為に躊躇していたのが嘘のような抑えきれないパトス。もうこれは理屈じゃない。まだ繋がった状態で、骨の浮いた背をきつく抱きしめると、セレストは寝返りをうつ要領でくるんと一回転した。
「えっ・・・・・セ、セレスト?」
一瞬の間に組み敷かれて、白鳳は慌てたが、すでに後の祭りだった。ふと見れば、のし掛かる男がいつになく不敵な笑みを浮かべているではないか。
「今度は俺の番ですね」
この言葉だけで身体の芯が熱く疼いたが、ここですんなり引き下がるのはシャクだ。「そう上手く行きますか」
ふふと出来るだけ婀娜っぽく笑ってみせた。けれども、その名残も消えないうちに抽送を開始されるやいなや、逆襲の意欲はあっけなく消え失せてしまった。極みに達したことで、身体中が鋭敏になって、思うように力が入らなかったせいもある。でも、一番の理由は彼の方から自分を求めてくれたのがあまりにも嬉しかったから。「・・・白鳳さんっ・・・」
「あっ、ああっ・・・・・セレスト、セレストっ」
渾身の力を込めて、覆い被さる彼にぎゅっとしがみつく。相手を翻弄するとか主導権を取るとか、そんなことはもうどうでも良かった。愛する人とひとつに溶け合った状況に、ただただ心地よく酔いしれた。他者の楔を受け容れているにもかかわらず、欠けたパーツを取り戻したような限りない充足感に包まれていた。単なる悦楽の追及に留まらない根幹レベルでの深い交わり。きっと彼も同じ気持ちを抱いているはずだ。これまでどんなに望んでも得られなかったものをついに手に入れた。もう時間も空間も把握できないほど朦朧としていたが、今、初めて幸せの意味を実感していた。





「・・・・・ん・・・・・」
心身両面で充たされた思いと共に、いつしか意識を手放していた。外はすでに暗くなっているようだ。ぼんやりとした頭を持て余しつつ、瞳を開けば、自分をほんのりと包み込む腕と緑の視線を感じた。慌ててくいと顔を上げたものの、時すでに遅し。眼前で微かに緩む優しげな顔が憎らしい。
「が〜ん。。私がセレストの寝顔を見るはずだったのに」
一年前の別れ際は切なさだけがこみ上げてきて、最後は見るのも辛かった彼の寝顔を、今度は満ち足りた気持ちでずっと眺めていられる。そう確信して、密かに楽しみにしていたのに、うっかりうたた寝したせいで何もかも台無しだ。
「これでおあいこじゃないですか。だいたい、この先いくらでも機会はありますよ」
逆にセレストは恋人のあどけない寝顔を心ゆくまで堪能して、得した気分になっていた。自分が抱くはずだった満足感を、相手が漂わせているのに気付き、白鳳の悔恨と苛立ちは募る一方だ。
「次じゃダメなんです。今日、貴方の寝顔を見たかったんです」
「子供みたいなことを言わないで下さい」
「ああ、もうっ。せっかくの機会だったのに悔しいなあ」
よっぽど無念だったのか、完全に地が出ている。こんな些細なことにこだわって、本気で怒る彼に苦笑しながら、セレストはその銀の糸を軽く手櫛で梳くと、唇にちゅっと接吻した。が、膨れっ面は相変わらずだ。
「この程度で許してもらえると思ったら大間違いですからね」
「そこをなんとか」
「うー。。」
駄々っ子みたいに口を尖らせる白鳳をなだめるべく、流れるラインの肩を抱いて、白磁の瞼に繰り返しキスを落とした。二度三度。五度六度。少しずつ顔付きが柔和になり、深紅の双眸にうっすら霞がかかってきた。情のこもった顔付きに、ようやく機嫌が直ったかな、とほっとしたのも束の間、掠れた声で歌うように奏でられた一言。
「・・・・・そうですね。またさせてくれたら許してあげますv」
「え」
想定外の条件に愕然とするセレストに抵抗の間を一切与えず、しなやかな腕が背に絡みつくと、その紅唇から貪るごとき口付けが仕掛けられた。




FIN


 

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