*情けない男*



風爽やかなとある晴れた日の午後。アックスはテントへ来ていた白鳳と一緒に、目を付けた屋敷の下見に行った。白鳳に盗みを手伝わせるつもりはないが、ドレッドの大男がひとりでウロウロしているより、連れがいた方が怪しさも半減するというものだ。周囲の道筋や建物の様子を一通り確認した後、帰りがてら市場に立ち寄り、野菜や缶詰をしこたま買い込んだ。盗賊団を名乗る以上、自給自足(?)でまかなうのが基本とは言え、相手があることだけに首尾良くはかどるとは限らない。いざという時、子分たちを空きっ腹で泣かせないよう、常に食材をストックしておくのは当然の心構えだろう。しかし、買い物が終わったにもかかわらず、白鳳はなかなかこの場を離れようとしなかった。
「早く来ねえと置いてくぞ」
アックスからすれば、用は済んだのだから、一刻も早く子分とスイの待つアジトへ戻りたい。なのに、白鳳は呼びかけを無視して、露店に並べられた天然石のブレスレットを次々と細い手首に巻き付け、見映えを比べている。さんざん迷った末、中のひとつを手に取ると、小走りでアックスに駆け寄って来た。
「ねえねえ、これ欲しいな」
「寝言言ってんじゃねえ」
「これ欲・し・い」
「とっとと返してこい」
「買ってv」
無邪気な甘え声でおねだりされ、一瞬心がぐらついたものの、ここで言いなりになるわけにはいかない。こいつに一を許せば、千や一万を許したのと同じなのだ。
「俺様を誰だと思ってんだ。仮にもナタブーム盗賊団の首領だぞ」
「ああ、確かに仮ですね」
「何ぃ」
「だって、しょせん私の下僕じゃないですか」
「て、てめっ、誰が下僕だ〜〜〜〜〜!!」
ただでも目立つ男のひときわ通る怒鳴り声に、露天商も通行人も一斉にこちらを注目した。お決まりの表現を使われ、いきり立つアックスを尻目に、白鳳は眉ひとつ動かさず、淡々と主張だけを述べた。
「客観的事実に異議を唱えてないで、快く買ってくださいね」
「いい加減にしやがれっ!盗賊たる俺がどうしてまともに物を買わなきゃなんねえんだ」
盗賊云々のくだりはさすがに声をひそめつつも、まなじりを決してきっぱり言い返した。相手があくまでも突っぱねるので、白鳳はやむなく一旦品物を戻してきた。
「さっき野菜だって購入したじゃないですか」
「食い物は別だ」
生きるために欠かせない糧なのだから。だが、自分中心に世界が回っている性悪猫に、正攻法の理論が通用するはずもなく。
「親分さん、まさか私への贈り物を盗品でごまかそうなどと思ってるんじゃないでしょうね」
「ああ!?てめえに物を買ってやる義理なんてねえだろがっ!!」
「命を救ってあげたばかりか、今までさんざん悦い思いをさせてあげたのに、恩を仇で返すつもりなんですか」
「ふざけんなっ、何が恩だ!!毎度毎度、頼みもしねえのに無理矢理押し倒しやがってっ」
こんな華奢な野郎の軍門にくだる己は情けないが、意に添わない関係を強要されているのは間違いない。苦々しく舌打ちするアックスだったが、白鳳は唇の両端を軽くつり上げると、せせら笑うように言いかけてきた。
「最初の一、二度ならその言い訳も成り立ちますけど、近頃は貴方だって結構乗り気のくせに」
「だ、誰がっ!てめえみてえな腐れ××野郎と一緒にされてたまるかっ!!」
「キスをしても身体が逃げなくなってますよ」
「うっ」
心当たりのある状況をあげられ、指先までカチンと硬直した。
「無意識かもしれないけど、たまには自分から動いてくれるし」
「げっ」
これまた微妙に自覚している様を指摘され、間の抜けた声を放つのが精一杯だ。けれども、敢えて言い訳をさせてもらえば、白鳳の仕掛ける戯れも出会った頃とは似ても似つかぬ心の籠もったものと化していた。単に陵辱し、嬲るためのそれとは異なる、時間をかけた丁寧な愛撫が、身体の芯まで蕩かす快感と共に、アックスから抵抗の意思を少しづつ奪い去って行く。北風と太陽の喩えではないが、白鳳に相手を慈しむ気持ちが生まれた時、その行為はアックスを××の淵に引きずり込む甘い媚薬に転じたのだ。
「終わった後は腕枕だってしてくれますよねえ」
それどころか、時には仲睦まじくピロート−クの真似事すら。
「く、くうう。。」
「もう、親分さんってば、すっかり馴染んじゃってv」
「そ、それとこれは別だっ!とにかく無駄遣いは許さねえ!!」
照れ隠しもあって、白鳳の発言を遮るごとく喚きちらすと、力業でどうにか結論へ持っていった。子分連中の収穫などたかが知れてるし、大仕事に手を出すケースも限られている。正直、ナタブーム盗賊団の台所事情は決して豊かではない。だけど、この悪魔に他人の事情を思いやる優しさなど皆無だった。
「私のために使う金を無駄だなんて・・・・・今夜は久しぶりにお仕置きが必要かな」
さりげなく腰の鞭に手をかけているのが怖い。
「な、何言いやがるっ」
怒鳴っても脅しても深紅の瞳はこれっぽちも動じない。完全に侮られている。苛立ちのあまり、ギリギリと唇を噛みしめるアックスだったが、不意に、彼らの前に数人の遊び人風の連中が立ちはだかった。



いかにも金持ちの道楽息子といった雰囲気の男たちは、アックスと白鳳を見比べながら、顔を歪めて下卑た笑いを浮かべている。
「なんか揉めてるようじゃん」
「なあ別嬪さん、オレたちと遊ばないか」
趣味の悪い派手なシャツを着た男が唐突に白鳳の二の腕を掴んだ。
「私は男ですけど」
いくら男好きでもこの手の輩は御免被りたい。腕にくい込む手を乱暴に払いのけ、そっけなく返したものの、相手はなおも舐め回すごとく、こちらをじろじろ眺めている。
「そいつは承知の上さ。こんなダサい野郎と一緒で、さぞ退屈だろうと思ってよ」
「モップ頭の筋肉マンはアンタにゃ全然似合ってないぜ」
「ああ、やっぱり誰が見てもそうなんですね」
相手の失礼な物言いを否定するどころか、あっさり同意したので、アックスは内心、怒りを通り越して、寂しくなった。が、ここで本音を気取られるわけにはいかない。
「てめえ、納得してんじゃねえっ!!」
「だって、私と貴方では月とスッポン、ダイヤモンドと石炭じゃないですか。こうして連れ立っていること自体、無理があるんですよ」
「な、何言いやがるっ!!てめえが勝手に俺のテントに押し掛けるんだろが」
自分の名誉のため、襲うとか押し倒すとかの表現は一切封印した。
「貴方がどうしても来て欲しいって、土下座までして頼むからでしょう」
「ふ、ふざけんなっ、このっ!!」
大ゲンカの末、こちらに非がないにもかかわらず、やむなく頭を下げたことは一度や二度・・・・・いや結構ある。しかし、誰が来てくれと頼んだりするものか。
「だからよぉ、オレらと一緒に来いよ」
激しい言い争いを目の当たりにして、脈ありと思ったのか、奴らは改めてモーションをかけてきた。
「う〜ん」
小首を傾げて考え込む白鳳。その整った横顔のラインを見遣りながら、アックスは微かに不安を抱いていた。行きずりの相手でも躊躇いなく寝てしまう節操なしである。
(まさか、本当について行っちまうんじゃ)
だとしても、自分に彼を止める権利はない。どんなに不本意でも立ち去る紅いチャイナ服を黙って見送るしかないのだ。ゆっくりと開く紅唇から奏でられる言葉を待つ時間は妙に長くて。
「お断りします」
白鳳が意外なほどきっぱり拒絶した瞬間、うっかり顔がほころんでしまった。緋の視線が向けられていないことに安堵して、即座に口元を引き締めた。でも、承諾が貰えると信じ込んでいた連中は当然、納得しない。
「なっ、なぜだ」
「こいつといるのは嫌なんだろ?」
「街中でナンパしてくる軟弱なオトコよりマシですから」
醒めた眼差しと共に放たれた一言で、連中の顔付きが瞬時に険しくなった。
「何だと」
「大人しくしてれば、いい気になりやがって」
「素直に言うことを聞いた方が身のためだぜ」
「そういう安っぽいところが嫌なんですよ。さ、親分さん、帰りましょう」
「お、おう」
男たちに見向きもせず、傍らに寄り添ってきた白金の髪を、くしゃくしゃと撫でてやりたくなった。が、これで事態があっさり収拾するはずもなく。
「ちょっと待ちやがれ!!」
「あっ」
リーダー格の髭面が、白鳳の肩先をむんずと掴んだ。
「このまま帰すと思ったら大間違いだぜ」
「放して下さい」
「オレたちに付いて来れば放してやらあ」
もう我慢できない。白鳳だって露骨に嫌がっているではないか。
「よせっ」
アックスは男の手を強引に引き剥がすと、双方の間を遮るべく巨体をせり出した。辺りにじわじわと不穏な空気が漂い始める。
「お前には関係ないだろう」
「こいつは俺の連れだ。てめえらにちょっかい出される筋合いはねえっ」
「何ぃ・・・・・」
「どうしても用があるというなら、この俺を倒してから連れて行け!!!!!」
「・・・・・親分さんv」
初めて見るアックスの凛々しい姿に、ほんのちょっぴりときめいた。彼がここまで積極的な行動に出るなんて。そもそも自分を巡って、数人の男たちが諍いを繰り広げる光景は実に気分が良い。すっかり傍観者となった白鳳は、ワクワクしながら次の展開を待った。




居並ぶ店や客の迷惑になるといけないので、一同は市場を抜けた先にある森林公園まで移動した。互いに鋭い眼光で威嚇しつつ、それぞれ大きく構えを取った。
「生意気な口を叩いたことを後悔させてやるぜ」
「来るなら来い!!」
後ろに控える白鳳のいつにない熱視線が目に入り、アックスはいっそう気合が入った。もし、奴らを撃退したら、優しい言葉のひとつもかけてくれるだろうか。とは言うものの、真剣な戦いの場において、浮ついた邪心は百害あって一利なし。ただでも多勢に無勢だし、アックス自身、飛び抜けた実力を持っているわけではない。
「覚悟しやがれっ」
案の定、妄想が裏目に出て、肩に余計な力が入り、攻撃が大振りになった。相手に難なくかわされたのみならず、後頭部に痛恨の一撃を喰らってしまった。
「ぐあっ」
打ちどころが悪かったのか、アックスはあっけなく気を失い、その場に無様に倒れ込んだ。ピクリとも動かないドレッドヘアを、声もなく見遣る白鳳。
(よ、弱っ。。)
こんな男に一瞬たりとも夢を見た己の愚かさを悔やんだ。期待したこの数分間を返して欲しい。もはや詐欺にでもあった心境だった。
「けっ、口ほどにもない野郎だ」
「やっぱ、図体だけのでくの坊だったな」
仰向けに転がったアックスを、連中はゴミでも扱うみたいに蹴飛ばした。自分ならもっと過激なことをすると分かっていても、他人にぞんざいに扱われると腹立たしい。
「さあ、どうする、別嬪さん。へっぽこなナイトはのされちまったぜ」
アックスを倒して、追い詰めたと思ったのか、勝ち誇った表情で言いかけてきた。一陣の風がチャイナ服の裾をふわりと吹き上げ、通り抜けて行く。
「嫌だと言ってるでしょう」
「本当に強情だな」
「気の強い方がいたぶりがいがあるっていうもんだ」
「たっぷり可愛がってやるから、こっちに来い」
「触らないで下さい」
「いてっ!!」
なだらかな肩先を抱き寄せようとした男に、白鳳は強烈なパンチを喰らわした。
「こ、このっ!優しくしてればつけ上がりやがってっ!!」
「最低ランクの野郎を連れてるくせに」
拒絶の姿勢を崩さない白鳳に激怒した奴らの矛先は、気絶しているアックスに向けられた。
「このみっともないヘアスタイルは何だ」
「今どき星形バックルはねえだろうよ」
「頭は悪そうだし、ムダにでかいだけで弱っちいし」
「こりゃあ、あっちの方も見かけ倒しに決まってるぜ」
「ギャハハ、ちげえねえ」
髭面がアックスの腹の辺りを踏みつけた途端、白鳳の全身が怒りで熱を帯びた。自分が下僕をどう扱おうと当然の権利だが、他人に罵られる言われはない。すこぶる不愉快だ。
「・・・・・私を本気で怒らせましたね。もう、容赦しませんから」




「・・・やぶんさん・・・・・親分さん・・・・・」
柔らかな声音が頭の奥まで染み通る。額のひんやりとした感触が心地よい。水底から浮き上がるごとく意識を取り戻し、重い瞼を開くと、眼前の緋の双眸が安堵の光に包まれた。
「ああ、ようやく気が付いたんですね」
「お、俺は?」
木陰で横たわる身体を滑らかな風が掠めていく。徐々に蘇る記憶。白鳳を救うべく飛び出したのはいいが、返り討ちにあって昏倒していたらしい。なんてこった。格好悪いことこの上ない。案の定、こっちを見下げる視線も冷ややかだ。
「今日という今日は呆れ果てました。あの程度の連中に一撃で倒されてしまうなんて」
「め、面目ねえ」
「貴方に失う面目なんて最初からないでしょう」
にべもない。次のセリフに詰まったアックスからぷいと視線を逸らすと、白鳳は小声でぽつりと吐き出した。
「期待した私がバカみたい」
「え」
「な、何でもありませんよ」
今の呟きをもう一度聞きたくて、のっそりと上体を起こしたが、そっぽを向いたきり何も言ってくれない。仕方なくアックスは話題を変えた。
「おめえが介抱してくれたのか」
「誤解しないで下さいね。モップ頭の小汚い男を公園に残していくと、街の人が良い迷惑ですから、美感を損ねないようどけただけです」
随分な言われようだが、状況を考えるとアックスに反論の術はない。
「・・・・で、奴らは」
「私がひとり残らず叩きのめしました」
「そ、そうか」
白鳳の戦闘能力なら、連中を退けることくらい朝飯前だろう。にしても、白鳳を救うどころか、逆に助けられていたら世話がない。己の情けなさに我知らず大きなため息が漏れた。
「すまねえ。あんな大見得切ったのに、おめえを護ることが出来ねえで」
しょんぼりうなだれるアックスを一瞥すると、白鳳はあっけらかんと言い放った。
「そんなこと最初から望んでません」
「がび〜〜〜〜ん」
男として少なからぬショックを受けた。こいつにとって俺の存在って一体。あらぬ方向を見つめる相手の動揺を楽しむように、くるくる動く紅い瞳が悪戯っぽく囁きかける。
「貴方は一生私の下僕でいて、美味しいプリンを作ってくれたら、それでいいんです」
「こ、この野郎っ、どこまで人をコケにしたら気が済むんだっ」
「良い子にしてれば、私が貴方を護ってあげますよ」
「な、何ほざいてやがるっ!!」
「うふふ」
だけど分かっている。時折崩れそうになりながらも、めげずに当てのない旅を続けていられるのは、余計な詮索をせず、大きな手で温かく包み込んでくれる人がいるから。たとえ肉体的に護られることがなくても、心はいつも彼に護られているのだ。
「さ、早く帰りましょう。ボクちゃんたちが待ちくたびれてますよ」
「あ、ああ」
優しく促され、アックスはゆっくり立ち上がると、傍らに投げ出された荷物を抱え上げた。






「うわ〜、美味そうだな〜」
「こんな料理、初めてだ」
心尽くしの献立が盗賊団の食卓を飾る。白鳳が食事を作ると、いつもより品数が増えるので、子分たちは皆、大喜びだ。
「おかわりもたくさんあるからね」
「きゅるり〜」
出来たてのおかずから漂うほこほこの湯気が、食欲を煽る香りを乗せ、テント内を充たしていく。
「わ〜い、やった!」
「食べ放題だぜ♪」
色とりどりの食材がひしめく皿を前に、はしゃぎ回る子分連中だったが、ふと緑バンダナのひとりが高い声で叫んだ。
「あっ、親分だけおかずが一品多いぞ〜」
(ま、マジかよ)
見れば、アックスのところだけ、小皿に乗った湯葉巻きが置かれているではないか。白鳳の意図が分からないので、かえって面食らうものがあった。ここで素直に喜べない自分たちのいびつな関係が悲しい。
「ホントだー」
「いいな〜、親分」
「姐さん、オイラたちもこれ欲しいっす」
「ダメだよ」
「え〜、そんなぁ」
不満げにぼやく赤バンダナの頭をなだめるように撫でると、小さく肩をすくめて、こんな風に切り出した。
「だって、これは親分さんへのご褒美だもん」
「きゅるり〜」
「ごほうび?」
首を捻る子分たちを見遣りつつ、白鳳はおっとりと先を続けた。
「街で変な男たちに声をかけられて困ってたら、親分さんが私を助けようと飛び出してくれたんだ」
「ぎくぅ」
ここまではまだいい。しかし、程なくこの先を暴露されるかと思うと、アックスは暗澹たる気分になった。深紅の瞳がちろりとこちらを窺っているのも、不気味なことこの上ない。
「そ、それで」
「どうなったっすか」
真ん丸い拳を握り締め、固唾を飲んで続きを待つ子分たち。アックスも刑の執行を待つ囚人の気持ちで息を詰めた。が。
「奴らはやられて、皆逃げて行ったよ」
(えっ)
てっきり何もかもばらされると思いきや、白鳳はぼかしたままで話を締めくくった。もちろん、バンダナ軍団はアックスが暴漢を撃退したと信じて疑っていない。
「うわ〜、親分、正義のヒーローみたい」
「か、か、かっこいいv」
「さすがはおいらたちの親分だ」
「やっぱ親分、最高っす」
「おいら一生ついて行くっす」
「らぶ、おやぶ〜ん!!」
「い、いや・・・・・そ、それはだな」
一同の称賛を浴びつつも、どうも居心地が悪い。アックスは返答に困り果て、スイを食卓に降ろそうとする白鳳に視線を流した。白磁の面はにっこり微笑むと、小さな声でそっと囁いた。
「貴方の無謀な勇気に免じて、真相は黙っていてあげますよ」
「っ!?」
想像もしなかった申し出に、アックスは我が耳を疑った。
「それにボクちゃんたちにとっては親分さんが一番なんですから、夢を壊すわけにはいかないでしょう」
まさか子分たちの気持ちまで配慮してくれるなんて。
「す、すまねえ・・・・・恩に着るぜ」
「武士の情けです。お礼なんていいんですよ。」
「おめえ、本当は優しいところもあるんだな」
白鳳の心遣いに、しみじみと幸福感を噛み締めるアックスだったが、その感激は長続きしなかった。
「いくら言葉でお礼を言われても、何の得にもなりませんし」
「なっ」
不吉な予感が高波となって押し寄せてきた。悲しいことにこの手の予感が外れた試しはない。
「ブレスレット買ってくれますよねv」
こう来たか。一瞬涙ぐみそうになった直前の感動は何だったのか。
「じ、冗談じゃねえっ、誰がそんな贅沢許すかっ!!!!!」
「そうですか。なら、やむを得ませんね。真実を洗いざらいボクちゃんたちに・・・・・」
「うわわわわっ、ま、待てっ!!分かった、分かったっ」
「おや、何が分かったんです」
「明日の午後、市場に連れてってやらあ。これで文句ねえだろが」
とうとうアックスは全面降伏に追い込まれた。してやったりと小躍りする銀髪の悪魔。
「わ〜い、明日が楽しみだな♪」
「きゅるり〜♪」
「トホホ・・・・・またしてもこいつの好き勝手に。。」
柄にもない思いやりについ心を動かされた自分がバカだった。この悪魔に下心のない行動なんてあるものか。だけど、自分が倒された時、見捨てて逃げることだって出来たのに、介抱してくれたのは事実だ。そう思うと、良心の欠片くらいは残っているのかもしれない。
(ったく、おめえにはかなわねえな)
確かにあのブレスレットは白鳳に良く似合っていた。不時の出費は痛いが、引き換えに愛らしい笑顔が見られるのなら、それもまた悪くはない。明日、自分に向けられるであろう屈託ない笑みを思い浮かべながら、アックスはいそいそと湯葉巻きに箸を付け始めた。




COMING SOOM NEXT BATTLE?


 

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