*幸せのかたち〜セレ白編*



ガイドでお昼寝スポットに選ばれるだけのことはあり、ルーキウス王国はまさに住めば都だった。豊かな緑に覆われた、都会の喧噪とは無縁なのどかな雰囲気。良き為政者にも恵まれ、国中に活気が漲っている。少々お節介のきらいはあるが、国民は皆、善人揃いだし、作物や水も新鮮で美味しい。だから、一旦ここに定着すると、他国へ移る者は皆無と言って良かった。もっとも、数多の国があるのに、わざわざこの小国を選んでやって来る酔狂な人間はそうそういない。ゆえに、住民の入れ替わりは極端に少なく、誰もが顔見知りで近隣の交流も盛んだった。そういう密な人間関係もほんわかと温かい空気を醸し出しているのかもしれない。



「とうとう入ったのか」
非番で久々に帰宅した昼下がり、向かいの空き家に荷物が運び込まれるのに気付き、セレストはふと足を止めた。かつて住んでいた老夫婦が娘の嫁ぎ先に呼ばれ、名残を惜しみながら引っ越した後、ずっと無人だった二階家。パトロールの最中に大工数人で手をかけていたのを見て、近々、新たな住民がやって来るとは思っていた。
「どんな人が越して来たんだろう」
城にいることが多い自分はともかく、家族にとっては長い付き合いをするご近所さんだ。日頃はさほど好奇心の強くないセレストだが、一目住人の姿を確かめようと、しばし赤い屋根の建物を眺め遣った。この国には珍しい小洒落た東洋風の外観は遠くからもひときわ目立つ。一階には小さな店を思わせる仕様がなされ、看板を掛ける柱が突き出ていた。
「食品関係かな」
出窓から垣間見えるショーケースがそんな印象を抱かせた。見慣れない建物に注目しているのはセレストだけではなく、行き交う人々も改築が終わった家に視線を流し、あれこれ語り合っている。揺るぎない安定と引き換えに、極端に刺激の少ない毎日だけに、この程度の出来事さえ非常に興味を引かれるらしい。彼らに混じって、セレストはなおも入り口の辺りを見つめていたが、不意に後方から聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「これからよろしくお願いしますね」
「白鳳さんのお店だったら、味は保証済みですものねえ」
「うちも利用させてもらおうかしら」
はくほう、という音声に敏感に反応し、慌てて振り返る。屋根の色より鮮やかな真紅のチャイナ服に、西陽に透けて輝く白金の絹糸。間違いようもない自分の最愛の人がそこにいた。
「は、白鳳さん!?」
セレストは大慌てで人の輪に駆け寄ると、一緒にいた主婦たちを掻き分け、彼の真っ正面に陣取った。こっちの動揺に引き換え、白鳳は眉ひとつ動かさず、淡々と言いかけてきた。
「おや、セレスト。今日は非番だったんですか」
「おやじゃありませんよ。いったいこれはどういうことなんです?」
相手の事も無げな反応に、ついつい声高になる。
「私、この国に落ち着くことに決めました」
「ええっ!?」
驚愕のあまり、開いた口が塞がらない。パクパクと締まりない様子は、エサを求める金魚みたいだ。
「うふふ、絶叫するほど喜んでくれるなんて」
(・・・・う〜ん・・・・)
心身両面に渡る様々な試練を乗り越え、先日、白鳳はついにスイの解呪に成功した。その悲願達成を手放しで喜ぶと共に、彼の身の振り方が気になってはいたが、まさか予告もなくこう来るとは。しばらくは故郷でのんびりして、これまでの疲れを癒すとばかり思っていたのに。
「あら、セレストじゃない」
「いつもお仕事お疲れさま」
「美味しい漬け物があるんだけど、良かったら持っていかない」
「・・・こ、こんにちは。どうしたんですか、皆さん揃って」
なんとか気を取り直し、白鳳に事情を問いただそうとしたが、その前に近所の奥さん連中に声を掛けられてしまった。昔から家族ぐるみで親しくしている気のいい人たちだ。白鳳がこの国に足を運ぶたび、シェリルが積極的に交流を図ったこともあって、今ではすっかり顔馴染みになっている。むろん、彼女たちの認識は”遠方に住むセレストの親友”ではあるが。
「今、白鳳さんとお話ししてたところだったのよ」
「弟さんと一緒に引っ越してくるんですって」
「スイ君と」
「ええ、スイもここで暮らします。学校にも通わせるつもりです」
現在、スイは故郷の伯父の家で待機しており、白鳳の新生活が落ち着き次第、やって来るという。呪いを解くため、己を躊躇いなく犠牲にしたほど大切な弟なのだから、元に戻ったからには仲睦まじく暮らすのが自然な姿だろう。
「そうですか。カナン様とも年が近いし、きっと仲良くなれますよ」
「あ〜あ、ナイショで引っ越しの挨拶に押し掛けて、セレストをびっくりさせるつもりだったんだけどなあ」
白鳳がセレストを一瞥して、無念そうに口を尖らせた。
「・・・・・もう、充分びっくりしてます。。」
一言の相談もなく、いきなり大胆な行動に出られ、正直、今は嬉しさより驚きの方が勝っていた。




すでに荷物の運搬は終わったので、整理や収納を手伝いがてら、改装した家の中を見せてもらうことになった。赤を基調にした透かし彫りの扉がセレストを妖しく誘う。
「では、お邪魔します」
「ふふっ、さあ、どうぞ」
足を踏み入れた空間は住居というより、むしろ店内だ。見た目も明らかにそういう造りだったし、主婦たちとの会話でも”お店”という言葉が出ていたっけ。
「白鳳さん、ここで商売でもされるんですか」
「手作りの総菜や菓子を売ろうと思っています。ここに腰を落ち着けるからには、きちんとした生業を持たないといけません。かといって、私に農業は無理ですし、人並み以上にこなせるのは料理くらいですから」
「白鳳さんの腕があれば、きっと繁盛間違いなしです」
「繁盛まで行かなくても、弟とふたりで暮らせるだけの収入があれば」
幸い、ルーキウスの物価はすこぶる安いので、ある程度固定客が付けば安泰だろう。にしても、派手好きな彼にそぐわない地味な仕事を選んだものだ。まあ、この健全そのものの国では白鳳の裏の技能を活かせる職種などひとつも存在すまい。
「騎士団の仲間にもさり気なく勧めておきますよ」
「ぜひ、お願いします」
セレストの言葉に柔らかく目を細めた白鳳だったが、その表情に不意に影が差した。
「・・・・・でも、本来なら私がこの国に住むなんて許されないことなんですよね」
そこまで承知していながら、どうしてもセレストの側に来たかったし、自分のようなよそ者をいつも温かく受け容れてくれるルーキウスが、いつしか何処よりも安らげる場所になっていた。
「・・・・・・・・・・」
紅の双眸を伏せ、うなだれる白鳳の姿が痛々しい。よんどころない事情があったとは言え、かつて国家転覆の陰謀に加担したことについて、まだ己を苛んでいるのだ。日頃はふてぶてしく悪びれない風を装っても、根は繊細で優しい人なのはよく分かっている。
「坊ちゃんや王家の人はもちろん、国民にも取り返しの付かない事態を私は・・・・・」
もっとも、当事者のカナンはすでに白鳳に対するわだかまりはなく、気軽に軽口を叩いたり、時に協力したりいがみ合ったりと微妙で楽しい関係を保っていた。
「そんなに自分を責めないで下さい」
「セレスト」
眼前の青年の諭すような励ますような声音に、白鳳は端麗な顔をゆっくりと上げた。
「確かにやってしまった行いは取り消せないかもしれません。でも、貴方がそれを後悔して、二度と同じ過ちを繰り返さないことで、充分贖罪していると思います」
彼と同じ苦境に立たされたとき、暗黒の道を選ばないと誰が言い切れるだろう。しかも、失敗を糧に、その後は闇の誘惑に墜ちる場面もなく、辛い旅路を見事に乗り切ったのだ。償いはとうに済んだとセレストは確信している。が、白鳳の気持ちを軽くするため、一言だけ付け加えた。
「この国で暮らして、皆に美味しい料理を振る舞うことも、罪滅ぼしのひとつじゃないでしょうか」
恋人の思いやりある助言に、憂い顔が見る見るうちに明るくなった。堅く引き結ばれていた口元も仄かに緩む。
「ありがとうございます、セレスト。これから少しでも貴方の国のお役に立てるよう努力します」
「白鳳さん」
「セレスト」
どちらからともなく身を預け合い、ふたりはしっかりと抱き合った。触れ合った部分からじんわり立ち上る熱が四肢の隅々まで伝わって来る。今日からはこの国が彼の国。ここが彼の住まい。もうどこにも行かない。ようやく本当の意味で白鳳を手に入れた気がして、セレストはしみじみと感慨に耽った。今更、過去の過ちを持ち出すより、誰にも頼らず、自力で解呪を成し遂げたことを褒め称え、祝福してやりたい。
「過酷な試練にめげず、最後まで頑張り抜いた貴方を俺は誇りに思います」
「これも皆、セレストのおかげです」
即座に返されて、セレストは当惑した。自分は訪れる白鳳を励まし、勇気づけるのがせいぜいで、具体的に彼の捕獲に助力したわけじゃないのだから、何ら感謝には値しないし、逆に申し訳ない気分で一杯だ。
「そんな・・・・・俺は結局、何の役にも立てなくて」
「いいえ。もし、セレストに出会わなかったら、私は歯止めが利かないまま、破滅への道をひた走っていたと思います。貴方が間違いをはっきり指摘してくれたから、どうにか立ち直って、今日という日を迎えられたんです」
あの一夜がなかったら、相変わらず手段を選ばぬ無茶を繰り返して、スイを元に戻すどころか命まで失っていたかもしれない。また、セレストという掛け替えのない心の支えを得ることも出来なかったろう。
「俺はきっかけを与えただけで、全ては白鳳さんの力ですよ」
「本当は強くもない私がどうにか挫折しなかったのは貴方がいたからです」
頑なに弱さを認めようとせず、偽悪的に振る舞い、他者に攻撃的な反応しか出来なかった自分が、セレストやルーキウスの人たちと交流を深めるうち、徐々に上手な肩の力の抜き方を覚えていった。己の真の姿から目を逸らすことなく、自然体で生きていけるようになった。
「白鳳さん」
「いざというときは貴方に寄りかかってもいいんだと思うと、不思議に辛い日々も耐え抜けました。本当に感謝しています」
「・・・・・・・・・・」
白鳳の物言いにはいつもの軽い調子は微塵もなく、心からの喜びと謝意に満ち溢れていた。腕の中の肢体が微かに震えている。これからはこの土地で、喜びも悲しみも分かち合って生きて行けるのだ。短い逢瀬のたび、いつも夢見ていた日の訪れがただただ嬉しい。出会ってからの様々な出来事が脳裏を駆け巡り、彼らはしばし無言で見つめ合った。直向きな眼差しはどんな言葉より雄弁に想いを伝えてくれる。
「・・・・・今まで神なんて信じてなかったけれど、きっとセレストは神様が私にくれたご褒美じゃないかって・・・・・」
「!」
沈黙を破り、白鳳がおずおずと言いさしたとき、その真紅の瞳から一粒だけぽろりと滴が零れた。これまでどんなアクシデントに見舞われても、決して涙は見せなかったのに。本人も思いがけぬ事態だったらしく、困ったような表情で慌てて顔を逸らした。
「あ、あれ・・・・・おかしいな。別に泣くことなんてないのに。嬉しくてたまらないはずなのに」
「きっと全てが解決したから、ほっとして、気が緩んだんですよ」
「そうかな」
緊張の糸を張り詰める必要がなくなって、初めて堪えていた涙を流すことが出来た。あるいは、喜びの極みで溢れた涙かもしれない。いずれにしても、その滴はどんな宝玉より美しく尊いものだ。なのに、年下の恋人の前での落涙をはにかむ様子にますます愛しさが募り、セレストは白鳳を包む腕に力を込めると、戸惑う紅唇にそっとキスを落とした。




店の内装を一通り見てから、ふたりで相談してケースや調度品の場所を整えると、白鳳はセレストを2階の住居部分に案内した。すでにこちらは家具の設置が完了しているらしく、浮き彫りで彩られたえんじ色のテーブルやバンダヂは気品と風格に溢れ、部屋全体に落ち着きを与えている。カーテンの柄も東洋風の織物で、大柄の花や葉の文様が目を楽しませてくれる。
「ああ、エキゾチックで雰囲気のある部屋ですね」
「ここはいいですから、奥の部屋を見て下さい」
「うわっ」
居間に見惚れる間もなく、強引に連れ込まれたのは寝室とおぼしき小部屋だった。
「どうですか、このベッドv」
中心にで〜んと陣取っていたのは各家具と同じデザインのダブルベッド。大きめの枕が仲睦まじく並んでおり、一目見ただけで白鳳が何を期待しているか丸分かりだった。
「あ、あの・・・これは一体」
背筋につつーっと冷たいものが流れて行った。
「もちろんセレストと寝るために特注したものです」
「だってスイ君は」
「スイの寝室は向かいの部屋ですよ」
あっけらかんと答えられ、自分が退路を断たれつつあることを知る。
「そ、それはまずいんじゃありませんか」
「いいえ、心配ご無用です。私の弟ですから何もかも理解してくれています」
「は、はあ」
一緒に旅をしている間に、兄の危ない性癖はイヤと言うほど思い知っただろうが、それを理解するか否かはまた別の問題だと思うのだが。
「この程度で驚くのは早いです。こっちも見て下さいね」
圧倒的に押され気味のまま、次に引っ張られたのは磨りガラスの扉の前。間違いない。バスルームだ。
「うふふ、凄いでしょv」
「げっ」
バスルームにしては妙に広い間取り、ふたりで同時に浸かっても余裕たっぷりの湯船。これまた白鳳の意気込みがダイレクトに伝わってきた。
「この広さなら中でその気になっても大丈夫♪・・・本当は全面鏡張りにしたかったんですけど、どうしても予算不足で。残念ですっ」
「ははははは・・・・・そうですか」
虚ろに笑いながら、セレストは白鳳の予算が足りなくて助かったと、心の底から安堵した。が、その安らぎもほんの一時だった。
「ねえ、これからは宿舎を出て、ここで暮らしてくれますよねえ」
「えええええっ!?」
あまりの急展開に思わず情けない悲鳴をあげてしまった。そうか、この異様に気合の入った寝室の作りはそんな目論みがあったからなのか。
「荷物は私が折を見て少しずつ運んでおきます」
カナンやリナリアともすっかり親しいし、白鳳が城に出入りするのは容易いことだ。
「お・・・・・お気持ちは大変嬉しいですが、家族のこともあるし、同棲はちょっと」
ふたりの関係がばれてからかなりの年月が流れていたが、父アドルフが彼らの仲を認める兆しはこれっぽちもなかった。多分、この世の終わりが来ようと未来永劫ないに相違ない。アドルフも白鳳も、互いに相手の人柄や実力には一目置いているが、事この件となれば話は別で、まさに不倶戴天の敵だった。妹夫妻は若者同士、ふたりが恋仲だと気付いたものの、進歩的なシェリルはいつも応援してくれるし、鷹揚で柔軟性のあるエリックもすんなり受け容れた。セリカだけはまだ何も知らず、白鳳は息子の良き友人だと信じて疑っていない。
「何、弱気なこと言ってるんですか。既成事実を作ってしまえばこっちのものですよ。あの頑固オヤジになど、ぐうの音も出させません」
「で、でも、まだ母さんにも真相は言ってませんし、やっぱりもう少し時期を見て」
「セレストは私がこの国に引っ越してきたのに、一緒にいたくないんですか」
「そ、そんな。白鳳さんがいつでも手の届くところにいてくれて、こんな幸せなことはありませんよ」
「なら、共暮らししてくれるのが当然でしょう」
先程のしおらしい風情が嘘みたいに、反論の隙を与えずきつい口調で一気に畳み掛けて来る。ただでも押しに弱いセレストはもうたじたじだった。



思いの外、無邪気で可愛い面もあるけれど、強かで奔放でワガママな恋人。白鳳の極端な多面性は魅力でもあるのだが、振り回される方にとってはいい迷惑だ。特に一旦こうと決めたら、どんな手を使っても己のワガママを通そうとするのが困りものだった。
「い、一応、物事には順序があって」
「順序?私たち遙か昔にZまで到達した仲じゃないですか。それを今更ごちゃごちゃ言うなんて、セレストは私を真剣に愛してないんですねっ」
「な、何を言い出すんですっ。俺は白鳳さんを誰よりも愛しています」
「じゃあ、私と住んでくれますか」
これは一種の脅しだ。反則だ。そこまで分かっていながら、強く出れない自分の不甲斐なさがもどかしい。かといって、相手の詭弁に押し切られ、すんなり承諾するのも抵抗があった。
「・・・・・・・・・・」
押し黙ったセレストの緑の瞳をじっと見つめていた白鳳が、しょんぼりと肩を落とす。緋色の双眸をじわっと潤ませ、掠れた声でぽつりと呟いた。
「・・・ずっと楽しみにしてたのに・・・」
白鳳の伏せた睫毛と悲しげな顔が目に入るやいなや、セレストは居ても立ってもいられなくなった。もうダメだ。完敗だ。
「わ、分かりました」
「え」
「ここで白鳳さんと暮らします」
「本当ですか」
「はい。宿舎は来週にでも引き払います」
「やったっ、わ〜い♪」
わずか0.3秒で立ち直り、はしゃぐ白鳳に抱きつかれて、セレストはまたも相手の軍門に下ったことを悟った。
(しまった)
なぜ毎度毎度同じ手にころっと引っ掛かるのだろう。しかも、この家で同棲すると断言してしまった。確かに、最愛の人と一つ屋根の下で暮らすのは夢だったけれど、事情を熟知した上で、理解してくれるカナンやシェリルたちはともかく、真相を知らない母にどう説明するのか。ただでも殺伐とした父との関係はどうなるのか。さらに周囲の人たちとて、いずれはふたりの仲に気付くかもしれない。
(問題は山積みだなあ)
でも、彼の人の歩いてきた道のりに比べれば、いかなる難題でも些細なことに思えてくる。長く厳しい旅路を乗り切り、新たな生活をスタートさせる白鳳のため、少しでも過ごしやすい環境を整えてやりたかった。
「なら、これから俺の家に報告に行きましょう」
「これから、ですか?」
てっきり喜んで同意すると思った白鳳が、露骨に不満げな面持ちを見せたので、セレストは首を捻った。これが彼の望んだ展開だったはずなのに。が、次の瞬間、疑問はすぐ解消した。
「報告なんていつでも出来ますよ。それよりこのベッドの寝心地を試してみませんかv」
「ね、寝心地っていうことは・・・・・」
恐る恐る覗き込んだ紅い瞳に淫らな光が煌めいている。舌なめずりしてこっちを見遣る表情はまさに獲物を狙う禽獣だった。ようやく身の危険に気付き、出口を向きかけたセレストの前にしなやかな動きで白鳳が立ちはだかった。
「終わった後はバスルームの具合も確かめましょうね」
「ま、待って下さい・・・落ち着いてっ、白鳳さんっ」
たおやかな外見に似合わず、こういう時に繰り出す力は屈強な戦士にも負けない。セレストはたちまちダブルベッドに押し倒され、妖しい笑みを浮かべる麗人にのし掛かられた。先細りの指先が早くもセレストのズボンの前をまさぐっている。
「私、また新しい技を開発したんです。セレストをきりきり舞いさせてあげますからね、うふふv」
「・・・・・え、遠慮しておきますっ。ちょっ・・・白鳳さんっ・・・うわぁっ!!」
セレストの絶叫も虚しく、冷たい指は慣れた仕草で邪魔な衣服を取り払い始めた。こんな官能の塊の恋人と一緒に住んだら最後、腰も砕けるハードな日々が待ち受けているに違いない。食卓に並ぶご馳走もレバーとか白子とかスッポンの生き血だったらどうしよう。唇の両端を上げた白鳳の蠱惑的な顔をぼんやり眺めつつ、力なくため息を漏らすセレストだった。




FIN


 

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