05年3月

12月×日…いトうがイラストを描いた年賀状がアップ。着物姿の少女が股にはさんでる、清酒「男泣き」の一升瓶の注ぎ口部分のパーツに狂い。一応俺も下描きチェックしたのだが…。瓶はビール、清酒を問わず本当に難しい。ただ多くの漫画家が一番苦労するのは全体のライン。そこはクリアしながら、口で墓穴掘るヤツも貴重。おがともよしの『熟女H告白』の原稿が宅急便で。年のせいか、一時絵が水に描いたように流れがちだったが、気合を入れたらほぼ元に。中高年漫画家は、時々ケツを蹴り上げねば。青森の真弓大介に電話、単行本カバーの打ち合わせ。お父さんは何年か前に亡くなられた。センセは独身だから、お母さんと2人暮し。雪下ろしとか大変だな。相変わらず、日に2回は犬に散歩させてると。夜、神保町の「なにわ」なる地下の小汚ない居酒屋へ。誰も俺を忘年会に呼んでくれないとスネてたら、南陀楼綾繁が幹事役になり、“嫌われ者忘年会”を。すずらん通りの「アクセス」の畠中理恵子店長、『汁かけめし快食學』(ちくま文庫)の著者、遠藤哲夫、高田馬場の古本屋「古書現世」の向井透史、『借金と古本』(スムース文庫)の荻原魚雷、イラストレーターの内澤旬子、(南陀楼の女房)、そして初老エロ映画監督の、山崎邦紀らが物好きにも集合。少々の漫談をかましたが、そう悪酔いはしなかった模様(デブ向井とヤセ荻原のコンビは、文壇で言えば福田和也&坪内祐三ともぬかしたらしいが、我ながらいい着眼を!)

12月×日…久々にペイントロボに電話。消え入りそうな一声で、しばらく仕事は無理と悟り世間話をして切る。佐々木みずきも最近全然連絡ない。東京湾に沈められた訳でもなかろうが…。「エリカ」で『言論統制 情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』(佐藤卓己・中公新書・本体980円)。根のマジメなタタキ上げ型人間は、どの分野でも傍迷惑。当人にしても、より偉い連中の罪まで負わされ、悪の権化として結局は葬られるのだ(お上の尻拭き紙)。俺もマジメさは突出してるし、用心せねば(誰を?)。好善信士に、「入稿したネーム、勝手に変更しちゃ駄目。何のために事前に…」と説教電話。新人さんにはありがち(変更は少なくとも、原稿アップの2日前までにFAXで連絡を)。帰りの新幹線で『うぐいすの練習 天野忠詩集』(編集工房ノア・本体2000円)。ピカピカの初老男ともなると、老夫婦の心境がリアルでめまい。自室で映画版『呪怨2』(監督・清水崇・‘02パイオニア他)。怖いのは勿論、オーソドックスな撮り方に好感。ビデオ版も早く入手せねばな。

12月×日…高崎の地元百貨店「スズラン」での古本市へ。目当ての高瀬豊二(故人。戦前からの共産党活動家)の本は1冊しか。値段は相変わらず高い。「美好弥」でダンゴを買った後、「シネマテークたかさき」へ初めて(映画マニアが銀行の跡地で運営する、定員58人のミニ劇場)。『父、帰る』(監督・アンドレイ・ズビャギンフェフ・‘03ロシア)無意味に長い。入場料1700円。1500円が妥当。上信線で、『戦中派動乱日記』(山田風太郎・小学館・本体2300円)。面白いが、いくら何でも本シリーズ、水増し編集が過ぎる。行間スッカスカ。細く長く儲けようとの思惑だろうが、大手は余りセコイ真似するな(カミュが知的ファッションだった60〜70年代の、新潮文庫の悪辣な分冊化を連想)。

12月×日…天皇誕生日も土曜も出勤。無論その間、何日も東京泊り。仕事減は収入減と連動してるが、反比例して忙しくなってるのが謎。俺の老化、“不世出の馬鹿バイト”、馬鹿星のマイナス効果のためだけとも…(やくる〜とはピンピンなんだし)。考えても仕方ないので、「ズンドコジョッキー」をカリカリ。

1月×日…4日から仕事(付近の8割の商店は休み)。一水社の川野営業部員から年賀状。「返事書いて」とそれを馬鹿星に渡す。一仕事終えて隣を見ると、馬鹿星、真剣なマヌケ顔(美少年だが、やたら顔面がAV男優のように脂でギラついてる)で、住所録を引っ繰り返してる。「その年賀状に、一水社の住所書いてあんじゃん」「けど、ビルの階数がわからなくて!」(キッパリ)「郵便屋が一水社のポストに入れるよ」「そうなんですか?」「『Mate』の奥付にだって、階数なんて書いてねえだろ?」「はあ…」「ま、巨大ビルなら必要だよ。そーゆ場合は向こうが年賀状や本の奥付に書く。ねえ時はいいの」「はあ…」(納得いかない、“馬鹿ギラ顔“)「けど加減てもん知らねえオメーのために言っとくが、個人のマンションやアパートの部屋番号を書き忘れちゃ、郵便物は着かねえよ」「はあ…」(初めてパソコンに触った専業主婦みたいな顔)外に使いに出すと、窓際の机で仕事してた蟹空解太がポツリ。「よく我慢してますね。俺なら殴って血まみれにしてますヨ。やっぱ、みやた(えつこ)さんの宅急便に、銀行口座を書いた時、即首にすべきでしたよ」後悔先に立たず。とはいえ、笑鈴、soraに比べ、偉い所も一点。遅刻、休みが絶対ない。「馬鹿だから病気にもなんないんですヨ!」ダメ押しの蟹空、苦笑いのやくる〜と。けど来月から、人妻熟女系漫画誌がもう1誌スタートするので、入れ替えてる暇はない。“馬鹿と星は使いよう”の精神で3人で頑張るしか…?(ありがとう、大洋図書のべっちょ唇の藤田。お前のお陰で、どんだけ忍耐力が身に付いた事か。トホホホ…)。

1月×日…夜、事務所で『熟女H告白』の小海隆夫のオメコシーンを修正してると、兵庫の鋤焼食之介から電話。「『Mate』送ってもらって、すいませぇん。穴があったら入りたい心境ですわ。覚悟はしとったんですが…。で、相談がありまして。今描いてるん(本誌掲載分)、4Pほど書き直したいトコあんのですが、締め切り延びません?」「その気持ちは立派だが、やめとけって。仕事ってなあ、80点取ってりゃいいの。いつも完璧を目ざしてると、ペン握るのが怖くなっちゃう。自分の原稿の欠点がわかってりゃいいの。中にゃ掲載されたの見て、惚れ惚れしちゃう奴もいんだから。その手は伸びん。エネルギーは3作目にぶつけな」「そうですかぁ。そう言ってもらえると…」帰りは古い『映画秘宝』を拾読み。高いよコレのバックナンバーって。300円以下じゃないと絶対に買わない。(つづく)