05年8月

5月×日…『桃姫』『メガストア』に加え、『快楽天』にも警視庁の呼び出しと。最初の2誌はともかく、『快楽天』までとは。う〜ん…(せめてもの救いは、売れ筋ばかりな点。青息吐息組のワシらは、シカトされ続けますように)。久々に大阪の内田こねり旦那に電話。ラスト単行本、『地下室の令嬢』(アップルコミックス)が完成、サインを頼もうと。「どだ?締め切りのねえ日々は?」「やっぱ落ち着きますぅ」俺も早く引退してえ。そこへヤニの臭気をまとった、黒装束の九紋竜が。7月末からマイウェイ出版で、時々点熟女物の単行本を出す事に。「あんた、おがともよし、扇蘭丸の順でやる。1発目が売れんとオジャンだし、カバー真面目に描けヨ!」「へへへ。やっぱ、乳首や尻は出さねえ方がいんだろ?」「なんだよな。ロリと違って劇画は。太腿、胸元、腋の下ってトコか」旦那、護身用ナイフを持ってて新宿で職質を受け見つかり送検、結局9000円の罰金くらったと。「ドス持ってる奴が、任意の職質にホイホイ応じるたぁ、人がいいにも程があんぜ」「だってよう…」見たトコ70年代風インテリヤクザだが、心は60年代初頭のめんこ少年(馬鹿にしてマス!)。窓際の机を仕事場にしてる蟹空解太、備え付けのライトの色が気に食わぬと、数日前、自ら秋葉で買って来る。「領収書よこしゃ金出すけど?」「いいです。いつか自宅に持ち帰るんで」勝手にしな(尾山泰永のリッチライフに刺激され、昨今は仕事に意欲と。ホントかいな?)。帰りの新幹線で『寺山修司俳句全集』(新書館'86)読了、『大本営発表は生きている』(保阪正康・光文社新書・本体700円)に。そう話題にならなかったが、面白い。この人や松本健一は『諸君!』等の右翼雑誌の常連だが、公平で説得力が。自室で『マッハ!』(監督・プラッチャヤー・ピンゲーオ・’03タイ)。格闘シーンもだが、ドキュメントタッチの冒頭と終幕がいい。

5月×日…上信線の高崎商科大学前付近で、『怪帝 ナポレオン。世』(鹿島茂・講談社・本体2800円)読了。500ページ近いが一気に。凡人で本当に良かった。こんなに無数の女とSEXせねばならないとは、英雄は大変だ。本書、本文レイアウトが実に巧み(宗利淳一)。本文とカット、往々にして散り散りになって、わずらわしいだけなのが普通だが、見事に文章のすぐ脇にスポッ!その呼吸たるや、体の合う男女のSEXの際の腰の動きの如し(遠い眼)。新幹線で『月と菓子パン』(石田千・晶文社・本体1800円)に。悪くないが、略歴に元嵐山光三郎の助手とあるのを見て、感動3割滅。事務所で馬鹿星が、ネームにカッター入れるのに、30センチもある物差し使ってる。「使いづらいだろ。もっと短いのいくらでもあるじゃん」「いえ、コレが文字とかが少なくて見やすいんで…」見やすいって、物差し越しに校正する訳ではない。3〜4センチ大のネームにカッター入れるには、どう見ても30センチの物差しは長い。馬鹿星、公栄社へ使いへ。「何故か奴とは会話が全然噛み合わねえが…」「馬鹿にゃ好きにさせとくっきゃないですヨ」と蟹空。ただ深いため息のやくる〜と。「けど星さん、肌のつややたらいいですね。脂でギラギラ!!」と再び蟹空。俺も深いため息(星センセ自身は、毎日の仕事が楽しいと)。

6月×日…秋口に「岩波ホール」で公開予定の、『亀も空を飛ぶ』(監督・バフマン・ゴバティ・‘04イラク・イラン)の試写に松竹本社へ。久々なので試写室の階を失念、受付の美人の姉ちゃんに尋ねる。「18階です!」若い姉ちゃんにこんな愛想良くされるのも久々。ウキウキと指示された奥のエレベーターへ。もっと下だったような気も…。下りると「秘書室」のプレート。トホホホ。付近の姉ちゃんによればやっぱ3階と。再び下りエレベーターに(映画は、いかにも「岩波ホール」な一作。なぜか老人だらけでした)。

6月×日…江戸川プレコの知人の女性が、原稿の持ち込みに。もう一息。帰り際の背中を見て「アッ…」。さっきまで、近所の「エリカ」でコーヒー飲みながら、『草のそよぎ』(天野忠・編集工房ノア・本体2060円)を読んでたが、俺の前に座ってたコだ(時間潰してたのネ。オヤジばかりの店ゆえ目立つ)。『草の〜』には、枯淡の境地の名人みたいな著者の意外な一面が。評論であっても詩を引用する際は事前に断るべきだとか、場合によっては稿料払っても当然だみたいな事を堂々と主張。笠智衆の勃起した一物を見たような気分。読者、相当減らしたろう。本書は遺稿集。自社の看板作家の意外な一面を示す一文を、堂々と掲載した編集者も、やっぱ偉い。扇蘭丸から電話。彼は『熟女H告白』『にっぽん話題スクープ』『漫画ピンクタイム』の熟女漫画3誌体制下、九紋竜、香坂ツトム、さとうしんまる等と共に、月に2本描いてもらってるが(「すぐどれか廃刊になるから」と言いくるめた)、6月下旬分、1回休めぬかと。同業界の仕事なら絶対に許さんが、聞けば俺も誌名は知ってる健全漫画誌(もちろん読んだこたない)。OKを。やっぱP・Nは変えんだろ?出入りの光雅製版の営業の兄ちゃんが、近くにいた馬鹿星に何か伝えてんのに、「………」(10秒間ぐらい)「彼はまだわかんなくて…」と、背を向けて校正してた俺が助け舟。兄ちゃんが帰った後で言う。「お前が黙ってちゃ向こうも困るだろう。あーゆ時は“はい”って言っとけばいいの」「そう思ってたら塩山さんが…」その後、奴を殴り飛ばさなかった俺をほめてやりたい。仕事の能力は10分の1人前。言い訳の技術は3人前(星センセ自身は、毎日の仕事が楽しいと)。

6月×日…夜、8時15分まで仕事。急いで東京駅へ。20時45分発、「あさま571号」で『続・エーガ界に捧ぐ』(中原昌也・扶桑社・本体1524円)読了後、『イラストーリー バサラ人間』(長尾みのる・よるひるプロ・本体1800円)に。69年に駿河台書房から出た新書版の復刻。増補されたインタビューで、ボヘミアンの長尾は語る。“アングラの世界で、こは居心地いいやとなった人はそれで終わり。だから居心地よくなったら出ていくというのが、僕の今までの人生”(148P)。身につまされる言葉ではないか。もっと若い時にこそとも思ったが、これは初老男だから理解できるのだろう。上信電車、最近本当に遅れない。大事故の前触れじゃ?(つづく)