嫌われ者の記 (188回)


8月×日…栄昇ビル、6〜7階には大家さん一家が。お陰でクーラー等の故障にも、電話一本で対応してくれたし、建物も古いなりに管理が。が、どうも今月頭に引っ越したらしい。どこかに大邸宅でも? もう戻らないのか? 管理は業者に委託して、連絡先も明示してあるが、10年以上親しくしてもらってたんだし、一言いって欲しかった(大家と店子の関係が逆転?)。俺は時々事務所に泊り、ベランダに洗濯物を干すが、6〜7階が昨今は真っ暗で寂しい(漫画屋は5階)。泊りの翌朝は、エロシーンの修正等の仕事がはかどる。今朝も朝9時から1人で大車輪(矢島Indexセンセ、マンコはともかく、チンチンはも少し小さく…)。10時過ぎ、開け忘れた鍵をカチャカチャさせ、光雅製版のO営業マンが顔を(合鍵を渡してある)。「あっ、おはようございます!泊りですか?」「飲みすぎてさ。で、大沢さん今は?」「病気みたいで」彼は、『スーパーコミック』他を発行、数年前倒産したアミカルの大沢社長の親戚。同社倒産では、光雅製版も相当の負債を。一時は肩身が狭かったはず(営業マンとしては有能)。一休み、『明治天皇 苦悩する「理想的君主」』(笠原英彦・中公新書・本体940円)の残り。権力者の、権力への脅えのようなモノがリアルに。昭和天皇には、ここらが欠けていた?(弟、高松宮との地位をめぐる確執は、余りにも有名だが)。11時前、やくる〜とが出社。掃除の邪魔なので、近所の「エリカ」へ(朝8時30分から営業)。『ふくすけ』(松尾スズキ・白水社・本体1800円)に。“差別語”を無意味に使う姿勢に好感。“アグネス・チャン、黒柳徹子、俺とセックスしろって”の下りにはモロ同感。

8月×日…内田こねりから、締め切りが1日遅れると電話。いトうもだが、こういう律儀な漫画家が減った(編集が連絡するまでトボける。“脅えてる”奴もいるか?)。ブランシェアに電話、看板が斜めなら、上の文字にも斜体をかけろと説教(かみさんでもアシ?)。小さなことだが、読者は大いにシラける。ビールビンのデッサンを正確にと注文するわけではなし、簡単なはず(テーブルに、ちゃんと立つビールビンを描く技術を持ってるエロ漫画家は、ごく一部。カンビールにすりゃいいのに、盲(めくら)蛇に怖じずと言うか…。顔も、真正面や真横は、ロング以外は新人は避けるべし)。夜、「松竹試写室」で、秋に「岩波ホール」で公開予定の、『赤い鯨と白い蛇』(監督・せんぼんよしこ)。『村の写真集』にも出ていた、宮地真緒の超大根振りは、いかなる作品でも破壊的パワーを。彼女の白痴的発声に対抗できるのは、吉岡秀隆だけ。銀座線と丸の内線で東京駅。21時4分発、軽井沢止まりの「あさま551号」で、ひいきの弁当屋、マコトの「松花堂ご膳」(880円)を。『小説から遠く離れて』(蓮實重彦・日本文芸社’89)に。映画関係以外の蓮實本は、頭に残らない。上信線で『空じゅう虹 高橋元吉詩集』(煥乎堂’91)。群馬の老舗書店煥乎堂の経営者で、若い頃は萩原朔太郎、萩原恭次郎他とも交流のあった詩人。ピンとこないが、「傷心」他の、死んだ愛妻、菊枝を扱った作品の粘着性には瞳目。上州人がサッパリ気質というのは、単なる仮説かも。同書店、自社刊行物を大量に神保町にゾッキで流したり、前橋の本店も客の影が薄いが、大丈夫?

9月×日…自室で、『書評のメルマガ』連載、「版元様の御殿拝見」の原稿書き。(47回目の今回は、専修大学出版局)。BGMは『ザ・スパイダース・ムーヴィー・トラックス』(ウルトラ・ヴァイブ・本体2400円)。グループサウンズやフォークって、懐かしさにありがたみがない。プールから帰ると実家の母ちゃんが、「芳明、明日は堤防の草刈に出てくれや」「またかや?」「まだ2けえめだんべや。10月にゃまたあんだで。3けえはしねえと、市の土木から金が降りねえっつう話だ」「他(ヨソ)は年1回なんに、本当にドケチな村だなあ」「そんなこというもんじゃあねえ」昼寝後、カワディMAXに長電話。『植草甚一コラージュ日記2」(平凡社・本体1300円)読了後、また寝る。深夜に起き、『目撃』(監督・C・イーストウッド・’97米)。近所の男の子が、朝5時頃、自分の部屋で歌を。防災無線、雀追いの空砲、犬の鳴き声、そしてコレ。都会の皆さん、静けさを求めるなら、絶対に田舎に帰ろうなどと考えるな。

9月×日…神保町に出る前、「ホテルグランドパレス」と道を隔てた居酒屋、「旨魚」のランチへ初めて。1時半過ぎなのに大混雑。注文したちらし(880円)を喰って納得。量が多い上にうまい(時間がかかるのが難点)。チェーン店ではない様子。「田村書店」「書泉グランデ」「三省堂」「ふくろう書店」「東京堂」「すずらん堂」「信山社」「日本特価書籍」と歩く(新刊書店が増えたのは、自著の動きのチェック)。「東京堂」入口に、坪内祐三と亀和田武のトークショーの宣伝。500円と。この種の催し、どの書店でも金を? あるいは、他店ではタダでバラまいてる各版元のPR誌(『波』や『ちくま』)売ってる、同店だけの方針? 事務所に九紋竜。「ラピュタ阿佐ヶ谷」で観た、『ポルノの女王 にっぽんSEX旅行』他の、荒木一郎映画に話題が。「俺が高校ん時、同級生の女が荒木に犯されて大騒ぎになってよ。女優にしてやるとか言ってホテルへ…」「あんなのについてく女も女じゃ?」「そりゃ今だからよ。あん時の荒木は、“へへ〜いマックス♪”とか、まだ清純派だもん」「そっかそっか。あいつ俺が大学1年の頃も確か…」「何度も似たような事件起こしてんのよ。確かに演技はうめえけど」「音楽も小説も半端じゃねえし、最近は手品の本も。そのくせ、例のマルチのアムウェイにも関係してたり」「訳のわからねえ野郎。ともかくワルだな」「天才だし、今後ドンドン評価されんだろうが、絶対自分の娘にゃ近づいて欲しくねえタイプ」「ちげえねえ。グハハハ…」アンナが暇そう。今後も単行本化されそうにない、古い漫画原稿を宅急便で返す作業を(ダニもわきかねない)。当然だが、人気漫画家の棚はいつもスッカスカ(160Pになるなり単行本化。下手すると、掲載雑誌が店頭に残ってるうちに発売)。新幹線で『ヴァニラとマニラ』(稲垣足穂・ちくま文庫・本体950円)読了。退屈。『キッズの未来派わんぱく宣言』(中原正也・リトル・モア・本体1800円)に。上信線、新屋駅の辺りで読み終える。まあまあ。

9月×日…筑摩書房の担当から、『出版業界最底辺日記』、増刷分の書店用ポップが届く。チープでロマンチックなイラストに、“華麗なる出版業界”の文字がド〜ン!!! が、右下角がスミベタになってて、“実態は…んなワケねーだろ!”との、淡古印風文字とシャレコウベが白ヌキで。筑摩と言うより、データハウスかミリオン出版テイスト。大歓迎!ちくま文庫の“不良性感度アップ作戦”は、俺が一手に引き受けたっ!!!(眉をひそめる関係者が圧倒的だろうが)。

9月×日…『ジェイド』、3号で廃刊決定。本当は1号でなっても仕方なかった(返品が予想より2割多く、男性向けホモ漫画誌だった『ジャニー』並みのひどい数字)。3号目はティーアイネットの内部原稿を回してもらい、2台64ページも増やしたが…。高橋センセに損かけて済まないと謝る(当然数百万…)。「また新企画を…」と慰められるのが余計につらい。50男が現役編集を続けるのは、至難の業。やっぱ、遠山さんは偉かった(俺が31年前に遠山企画入社時、既に60を過ぎてた)。漫画の隆盛期という時代背景はあったとはいえ、誰もが同一条件だった。そのティーアイネットと犬猿の仲の、松文館の高田編集長から電話。鋤焼食之介のコミックス、『オレ様の女』、今日見本を発送したが、住所、銀行口座を連絡してくれと。本書、本人の手書きカバーが下手すぎで、松文館の関係漫画家に、CG処理を。あちこちに迷惑かけっ放し。以前本連載で、愛嬌で世間をしのぐタイプの編集として、石本種雄(スタジオ・ディグ)、加藤健次(現曙出版)他をヤユしたが、“同情”でしのぐ奴はそれ以下。帰りは、ここ何日か読んでる、550ページ近い伊藤整の『鳴海仙台』(岩波文庫・本体940円)を。何度も吹き出す(伊藤礼の解説も、親族が書いたとは思えないクールさで好感を)。

9月×日…富岡高校教諭(48歳)が、酔っ払い運転で安中で事故とテレビが。俺の同校在校時代の極右校長、藤生宣明の下で、ナチ武装SS役を果たしてた、ハンドボール部顧問の極め付けの低脳暴力教師、小林進、宇佐美以下のゴロツキ共も、今は優雅な老後を楽しんでるだろうね。(つづく)