嫌われ者の記 (189回)


10月×日…俺ややくる〜とは、漫画原稿の扉レイアウトをする際、どうも泥臭い写植時代のセンスが抜けないが、アンナはDTPテイストと言うか、今風。「もちっと勉強すりゃプロになれるかも」「本当ですか?」3割はお世辞だが(最近扉は、デザイナーがすることがほとんど)。窓際の机で、カワディMAXが初単行本、『犬少女』(一水社)の本文加筆作業中。夜7時頃まで。そりゃいいが、奴が帰った後、トイレに入るとウンチがポツリ。「あんにゃろ、さっき入ってたヨ!」仕方ないのでタワシでゴシゴシ。何で俺様がサンピンエロ漫画家の糞掃除まで? 人間落ち目にはなりたくない。帰りの新幹線で、『ハリウッドで勝て!』(一瀬隆重・新潮新書・本体680円)読了。高橋洋、中田秀夫、清水崇らの著者への姿勢が興味深い。上信線で『解体する文芸』(中島和夫・日本エディタースクール出版部’84)に。自室では『アラバマ物語』(監督・ロバート・マリガン・’62米)。粋な字幕といい、忘れ難い1本。1度観ただけなのに強烈な印象を残した、『仔鹿物語』をふと。

10月×日…アンナ、やくる〜とと神保町へテクテク。「ランチョン」で久々の社内宴会(今のうちにしとかんと…)。近所の焼き鳥屋、「串鉄」や「一番や」も悪くないが、たまにゃプチブル的ムードも(佐野眞一がおった。吉田健一の代わりとしちゃ小粒すぎる)。値段ほどの店じゃないと思うが、アンナはいたく感動(やくる〜とは、いい年してタマネギ嫌いが発覚、俺達が説教を)。7時前に終了。事務所へ戻る途中、急に落語が聞きたくなり、九段下から都営新宿線で「新宿末広亭」へ(7時過ぎると2000円)。やたらコンビに年齢格差のあるWモアモアに大爆笑。ついでに寄ったゴールデン街の「レカン」、俺がいる90分間、他の客影は一切なし。総武線で『東京坂道散歩』(冨田均・東京新聞出版局・本体1300円)。新聞連載中より、まとめて読んだほうがいい。著者の下手の横好き、詩の披露もなかったのもホッ。

10月×日…『レモンクラブ』、11月売り12月号で廃刊決定。ここ数年赤字で予想はしてたが…(アップルコミックスも中止と)。創刊から廃刊まで全て自分が手掛けた雑誌。それより、最盛期の10分の1の部数になってしまった同誌を、刊行し続けてくれた版元に感謝せねば(ギャラは何度も値切られ、単行本に至っては他社の半額だったけど)。帰りの上信線で、神保町の「原書房」で100円だった、『聞き書き博労一代 佐藤計一とカツの記録』(私家版’91)を拾い読み。敗戦直後、北海道から馬を貨車で運ぶ際、床に敷いたワラの下に闇米をビッシリと隠し、大儲けした等の話に感心。神奈川の人だが、方言は群馬にかなり重なる。自室で『吸血鬼ドラキュラ』(監督・テレンス・フィッシャー・’57英)。クリストファー・リー&ピーター・カッシングコンビは、日本で言やアキラ&ジョー?

10月×日…『漫画ピンクタイム』、11月売りの1月号で、漫画屋からの召し上げ決定。マイウェイ出版→遊民社→漫画屋という孫請けだったが(グラビア&記事は遊民社)、2年近くやりながら、好転させられなかったのだから仕方ない。同誌はKIYO出版が長い間請け、その後別の編プロがやり駄目で漫画屋に。つまり版元としては、20年近く続いてボロ儲けした時代もあった、『レモンクラブ』やアップルコミックスと異なり、一切いい思いを俺ではしてない。2年間もすいません。が、1誌はともかく、月刊誌が2誌も年内でなくなると、漫画屋はガタガタ(残るは隔月3誌。つまり『Mate』『本当にあった禁断愛』、そして11月末に1号目が出る、ティーアイネットと言うか、ジェーシー出版の『MESSI』のみ。月刊誌ゼロ!!!)。単行本のギャラなど高が知れてるし、さすがに「ウ〜ン…」。事務所はギリギリ維持できても、俺の給料が出ない(やくる〜とはともかく、既にこの段階でアンナの首は、10回くらい宙に舞ってる。石井輝男監督の怪作、『恐怖畸形人間』の終幕のように)。呆然としつつも、「エース」でポークカレー後、「エリカ」で『酒日記』(坪内祐三・マガジンハウス・本体1600円)。正義漢でオッチョコチョイなトコ、坪内は夏目漱石の『坊ちゃん』のよう。著者が塩をまかれる「人魚の嘆き」は、すずらん通り裏手、「新宿書店」神保町店(万引き野郎が俺に助けを求めた店)向かいの、小汚ないスナック。

10月×日…最低1誌は後発誌をデッチ上げねば、春から喰いっぱぐれ。コンビニに入れる前提で種々考えるが(成年マーク付きだと、刷り部数が2万に届かない)、もはや単体の漫画誌は、『快楽天』レベルの物でない限り成立しない。グラビアかDVDが必須条件。かつエロ劇画系じゃ取次はまず相手にしないと。おのずと路線はしぼられるが、他社の協力がないと企画書も書けない。その間も、仕事のなくなる漫画家にお詫び電話。エロ劇画系、つまり『漫画ピンクタイム』系漫画家は、本当に大変な様子。書き下ろしでやってる雑誌は、『漫画ユートピア』『漫画ダイナマイト』『漫画ローレンス』等、ほんの数誌なのだ(あのやまだのらも、定期仕事はパチスロ系1本と)。

10月×日…何年か前から南陀楼綾繁他がタダ働きでやってる、千駄木一箱古本市に愚娘を助手に初参加。現ナマ商売は楽しい(45冊、計30500円ナリの売り上げ)。途中、全4カ所ある他の売り場を回ろうとして迷う。寺の間の閑静な住宅街。一軒の白い家に“小沢信男”との表札。元新日本文学系の貧乏作家が、こんな広い敷地にとムカついたが、庭は隣宅の物のようだ。チッポケな家でホッ・(大きなお世話!)。終了の5時前から雨。撤退作業を、今月初めに高円寺「コクテイル」(古本居酒屋)であった、南陀楼とのトークショーにて知り合った、某印刷所の女工コンビに手伝ってもらう。仕事柄、『漫画ピンクタイム』召し上げの件は既に承知してて、「実は『レモンクラブ』も…」と言うと、「それは厳しいっすネ!」と同情を(言葉だけじゃなく体でっ!!)。

11月×日…栄昇ビルの管理運営を引き継いだ、アースウィンドからの連絡で、大家さん経営の栄昇商事が破産、担保に入ってた本ビルが競売にかけられる可能性がと。納得。でないとあんな引っ越しはしない。入居時に世話になった駅前の不動産屋、竹の屋商店に電話。実は既に噂は出てたと。「長い間仲介してたウチにも、FAX1枚の事後連絡で…」と、愛想のいい2代目。漫画屋の惨状といい、これも出版不況の一環だ(栄昇商事は製本関係)。いい大家さんだったけど、心配なのは預けてある敷金120万。何でも最近法律が改正され、競売で物件を入手した業者は、以前よりはるかに容易に、店子を追い出せるようになったと(暴力団系の占有屋排除をお題目に)。けど、本欄読者よ、一切のやらせはしてねえのに、最近面白すぎねえか!? 俺もだよって言いてえが、一応当事者だし、そうも言っとられん。

11月×日…高円寺、阿佐ヶ谷の古本屋街を歩いて後、「吉祥寺オデオン」で『ブラック・ダリア』(監督・ブライアン・デ・パルマ・’06米)。手を抜くと徹底した監督だけに特に驚かないが、ロッセリーニ映画並にやかましい音楽にゲッソリ。耳栓してくんだった。駅付近はチェーン店ばかりで、初老男が1人で入れる居酒屋がない。やっと「竹」なる焼き鳥屋を。荻窪の「ささま書店」で1050円だった、『パン屋の一ダース』(川本三郎・’90リクルート出版)をパラパラ。この頃の著者の、ストレートな怒り方が懐かしい。

11月×日…朝の上信線で、高崎へ通勤してる、黒ストッキングのよく似合う姉ちゃんの脚を盗み見しながら(まだオカズには…)、『パリでひとりぼっち』(鹿島茂・講談社・本体2200円)。著者のフランス留学時代の日記かと思ったら、ディケンズ、いやユーゴー何するものぞの、大正時代の日本人留学生のパリ冒険小説。かなり面白いが、著者の他の本も読んでる者には、あちこちでのデータ説明が、「またか…」とわずらわしい(川本三郎の小説にもそれが)。基本的に善人ばかりで、ユライヤ・ヒープのような強烈な悪役が登場しない事が原因じゃ?(なまぬるいとも)。最後の『レモンクラブ』、『漫画ピンクタイム』の下版を終え、本当に暇(アンナは既に今月から週4日出勤に)。5時前後にはほとんど仕事がない。これで『MESSI』がなければ一体? そりゃいいが、同誌の図書印刷の青焼き出稿は、何であんなに遅い? 本誌担当の大口製版の6倍は時間が。最終折りが夜の9時出稿と。週末なのに群馬へ帰れねえよ〜!!(つづく)