嫌われ者の記 (191回)
2月×日…暇。仕事はやくる〜とに任せ、3時過ぎに事務所を出て池袋へ。「新文芸坐」にはよく行くが、サンシャイン通りは久々。初入店の「とらのあな」の巨大店舗と、「まんがの森」や「新宿書店」が消えてて(移転?)ビックリ。「とら〜」、ファンがいるのか、ペイントロボの『聖校章』が、ドンと2段平積み。面倒なので「たちばな書店」には寄らず、「テアトルダイヤ」。『それでもボクはやってない』(監督・周防正行・’07フジ他)。4時30分頃からの上映なのに5割近い客が(定員204名)。本当に当たってる。大森南朋の悪徳刑事演技、バツグン。東京駅までの丸の内線で、『九つの小さな物語』(富岡多恵子・大和書房’77)。挿画が湯村輝彦で、装丁が平野甲賀。新装版。2年前のオリジナルも欲しい。「大丸」の地下で弁当とお茶(ペットボトルが141円等、酒や飲み物類はJR構内よりかなり安い。つい大丸カードまで)。上信線で『チェコスロバキアめぐり』(カレル・チャペック・ちくま文庫・本体740円)。退屈だがもったいないので、最後まで。
2月×日…暇なのは仕事減のためだが、もう一つ理由が。表紙がデザイナー任せに。『MESSI』は勿論、『本当にあった禁断愛』、『Hオフィス裏事情』、コミックスカバーとほとんどが。今や俺がしてるのは、隔月の『Mate』のみ。本当に楽チン!(貧乏チン!)カワディMAXが、例によってナチ武装SSの将校顔を(汗臭く不潔だが)。「愛液やザーメンで、マンコやチンポ部分がボケ気味。気をつけろ!」と説教。神保町へ。鉄道、思想関係の「篠村書店」のお婆ちゃんは、体調悪そうながらレジで頑張ってるが、右隣、「日本特価書籍」のお婆ちゃんはサッパリ見ない。専大交差点の横断歩道を、ヨタヨタ歩く後ろ姿には心なごんだが。お店の人に尋ねるのも何かネ。昔、白泉社ビルがあった辺を本吊るして歩いていると、右側から右翼の街宣車の騒音。最近は、『週刊金曜日』編集部に、金曜日ごとに抗議に。回り道して見物。公安の刑事が、高級そうなデジカメで街宣車を撮影中。昨今の『週刊金曜日』は本当につまんない。尿意。去年まで日本橋川を渡った左に、公衆便所があり便利だったが(花壇に!)。やくる〜とを早目に帰し、『エミリ・ディキンスン詩集 自然と愛と孤独と』(中島完訳・国文社’73)を。根強い人気があると。納得。
2月×日…「東京都現代美術館」での、“中村宏/図画事件1953−2007”も素晴らしかったが(野見山暁治も、昨今のモーロク度は半端じゃないが、チョイ年下とはいえ中村はピンピン。早稲田際のポスター描いた頃は特に鋭いが、同大の革マル派絶頂期と重なるのは皮肉)、東京駅までの都バスが楽しい(来る時は地下鉄)。門前仲町、そして隅田川を宇宙船みたいな永代橋で渡る。茅場町、日本橋と都心に接近するまでの、新旧の景色の変化は絶妙。200円じゃ申し訳ない程。帰りは『白と黒の造形』(駒井哲郎・講談社文芸文庫・本体1300円)を。酒癖の悪さで有名だったらしいが、245Pの写真(撮影・河口清巳)は、酒乱者特有の口元のだらしなさをズバリ。
2月×日…朝7時30分。事務所に山崎邦紀監督以下、7〜8人のスタッフと4人の俳優さんがドヤドヤ(佐々木基子、安奈とも、池島ゆたか、荒木太郎)。“福島のタルコフスキー”の新作ピンクの撮影。続いてエキストラで、「書肆アクセス」の畠中店長、『世界屠蓄紀行』(解放出版社)のプチベストセラー化で売り出し中の、内澤旬子が。気柄の知れたメンツで、撮影は午前中楽しくトントン進行したが、果たして出来は?(雰囲気のいい“現場”が愚作を生みがちなのは、どの世界も共通)。阿宮美亜に久々に電話。日本文芸社で仕事するかもと。向いてるよ。みやたえつこにも(『Hオフィス裏事情』の埋め草仕事)。肺ガンで闘病してた旦那さん、昨年亡くなったと。ただ、昔から保険には色々入ってたので、経済的には楽になった面もあるらしい(家のローン等で)。「今度飲みに行こうよ、2人だけで!」「いやん・ 私みたいなお婆ちゃんじゃ…」安手の2時間ドラマか? 机の配置が元に戻った事務所で(助監督や腰の低い山崎監督が、撮影しやすいように全部並べ変えた)、『名作写真と歩く、昭和の東京』(川本三郎・平凡社・本体1600円)。アッという間に読了。帰りの新幹線で『キネマ旬報』60年7月下旬号。『シナリオ』連載の「人間万華鏡」で、映画関係者のスキャンダルを、毎月実名暴露中のアンタッチャブル脚本家、白坂依志夫(2月号では、死んだ実相寺昭雄と原知佐子の、パリのホテルで目撃した体位まで! 女上位だったと…)の、新婚時代のツーショットが。60年代の『平凡』や『明星』でおなじみ、ベランダで斜め45度を見上げて微笑むもやし男の隣は、松竹の3流女優、中川弘子(タップダンサー、中川三郎の娘)。5年後に離婚。娘がいるらしいが元気?(大きなお世話!)自室で『魔人ドラキュラ』(監督・トッド・ブラウニング・’31米)雰囲気はいいが、終わり方があんまり。カットされたのだろうが…。
3月×日…富岡市気違い防災無線の、夜9時の馬鹿放送が遂に中止に。時間が近づくとCDを大音量にしたり、耳栓する受難の日々だった。抗議運動10余年で初の成果(ハーッ…)。夕方5時の童謡も早くやめろ(富岡製糸工場の世界遺産認定前に、気違い無線を、世界騒音遺産に申請をとの運動を考えたが…)。
3月×日…『MESSI』、尾山泰永の4C色校を取りに来た、図書出版の担当(おばQの正ちゃんが栄養失調になった感じ)に。「倒産した生活情報センターはそっちだよね?」「ええ。夏から仕事してたのに、年末からおかしくなっちゃって。下手したら全然もらってないかも…」昨今は神保町の最大のゾッキの花(4000円前後の、下町や都電の豪華写真集が1000円台で)。営業担当者、日頃の実績次第じゃいづらくなる場面。DVD付けてから(定価も380円から500円に)、やたら読者アンケートが増えた『本当にあった禁断愛』(コンビニ本)。感想とプレゼント名しか問わない、単純アンケートのせい?(『Mate』並の数)。草軍団の生乳に電話。「何してんだよ今は?」「ゲーム。エヘヘヘ」親に未だ寄生中の、40近い無職醜女おたくらしい台詞(ウチの娘だけには…)。「凡人回想録」の新データ送れとの命令後、切った受話器をハンカチでぬぐう(醜女声で汚染)。自己演出が巧みな前登志夫の、『存在の秋』(講談社文芸文庫・本体1300円)読了後、飯田橋駅へ。帰りは『ヤン川の船唄』(ダンセイニ卿・国書刊行会’91)。バベルの図書館シリーズは老眼鏡者にも優しい。上信線で『シナリオ』04年11月号(神保町の「ヴィンテージ」で400円。「矢口書店」の次位に高い店だが、同誌や『映画評論』、『映画芸術』の揃えはさすが。見切り処分もめったにしない。余程の大型倉庫が?)。当然「人間万華鏡」を真っ先に。63年頃、“モンローのような女”と呼ばれた、真理明美をめぐるゴシップ。“「東宝に松江陽一って助監督、いますよね、黒沢組の」「面識はないけど、名前だけは知ってます。黒沢作品に出してやるといって、女性をコマしまくってる奴でしょう?」「その通りです。この松江とツキあってたという情報をつかみました。もう一人、岩波映画のK・K監督…」「“とべない沈黙”を作った?」「彼の“わが愛・北海道”というドキュメンタリイみたいな映画に主演してるンですが、二人は撮影中、ずっとラブラブでしてね」”。去年死んだ黒木和雄監督、自作映画のネーミングセンス以外、才気を一切感じさせなかったが、オーディションに出る真理に、“アントニオーニ豆知識”を授けたり、人間味ある人だった様子。黙とう(生前、どんな気持ちで読んだのか?)。
3月×日…土曜日なのに、事務所でてっちゃんと終日。今日中に図書印刷に入稿しないと、『MESSI』が本にならない。温厚で礼儀正しい男だが、思想的には阿宮美亜と並ぶ極右派。やはり呉智英が教祖か? アニメ談義。押井守の『立喰師列伝』は、ケーハクなトコがいいと意見が一致。
3月×日…栄昇ビルの競売が近づいた。俺の栄昇商事との初契約は15年前だが、既に抵当権が設定されていたため、新大家が決まると敷金が一切戻らなくなると(120万!)。仕方ないので他の店子共々、今月末から家賃をストップ、敷金の回収へ。ちなみに上階の波乗社は、抵当権設定前の契約のため絶対的居住権を。居座ると言えば誰も一切手が出せない。社長で随筆家の坂崎重盛氏の健闘を、陰、いや下階ながら祈るしかない。(つづく)