嫌われ者の記 (193回)
6月×日…『穴姦』(ティーアイネット)が好調(発売1週間で増刷)ないトうが原稿持参、申し訳なさそうに言う。「最近、年のせいか疲れが抜けなくて…。1回休むなんて無理ですよねぇ?」ふむ。漫画屋で仕事始めて3〜4年たつが、確かに1回も休ませてない。「金の玉子を産む漫画家は、昔から生かさず殺さず!」「はあ?」「こっちの話だ。近頃はページ数も多いしな。けど、大黒柱に休まれても…。そだ、次のいずみコミックスのカラー3枚、9月にやってもらわにゃならんの。9月、漫画は12Pにすっから、コミックス用と表紙のカラー4枚だけ頼むよ。計16ページ。いつもの半分!」「いいですか。助かります。」(ペテン師編集者と、善玉エロ漫画家の図)。本当は丸1ケ月休ませるべきだが、鬼姫、いや神楽ゆういちろうならともかく(エヘヘヘヘ…)。あとりKからFAX。原稿がまた1日遅れると。今月はもう3回目。「3日遅れます」と書けば1回で済むが、何度も泣きを入れては、自分を追い込む。駄文書きの1人としてよく理解出来る心理。夜、渋谷の「東芝エンタテインメント試写室」で『魔笛』(監督・ケネス・プラナー・’06英)。有名な監督県俳優の、馬鹿さを知れたのが収穫。満員の会場で、故『Beat』のま〜編集長の親父で、映画評論家の松島利行を(40歳と、娘に近い年の女房の三留まゆみも)。旦那はもう70歳だし、万一の場合は彼女、誰と再婚を?(余計なお世話!)。今のまま、『キネマ旬報』年間ベスト10選考の際、“ま”行で仲良く並ぶ2人の微笑ましい姿(恥態?)を、末永く見守りたいが…(ウソかも。某所で、町山智浩に激色眼との未確認情報も)。
6月×日…朝の上信線で『石原吉郎詩文集』(講談社文芸文庫・本体1400円)。シベリアネタ以外は退屈。70年代のカリスマの1人(村上一郎とか。2人共今なら稼げた)。読了、新幹線で『ロラン・バルト映画論集』(ちくま文芸文庫)に。たちまち熟睡、上野まで。好善信士が『Mate』の原稿持参。彼の女装ネタは面白い。男は相変わらずの巨根。ジャニーズ事務所のタレントっぽい、センセもでかいの? 『女装少年とH少女』風の題名で、コミックスをどっかに売り込もう。夜、「早稲田松竹」で『ユメ十夜』。夏目漱石の原作を10人の新旧監督が。松尾スズキが圧倒的で、他は引き立て役(実相時昭雄と市川崑は特にひどい。前者実力、後者手抜き)。
6月×日…本誌のダントツ不人気連載でおなじみ、南陀楼綾繁の奔走で、右文書院なる個性的弱小版元から秋にまた本が。昔のスクラップから面白そうな分を選びコピー。ただこれ、南陀楼自身に全スクラップからセレクトさせた方がよかった。53歳の俺と40歳の彼とでは、面白さの基準にズレが。こういう場合、若者(ガキ)に迎合するのが筋(商売の基本)。これを再び奴が取捨選択。俺も7月下旬までに、「エロ漫画編集者になるまで」の他計4本、400字原稿用紙で100枚近い書下ろしを。週末の映画見物はまず不可能。ゲラチェックも灼熱下。1キロはダイエットに?(今72キロ、身長173センチ)。帰りの新幹線で『肉体の悪魔/失われた男』(田村泰次郎・講談社文芸文庫・本体1400円)読了。「蝗」の腐る寸前のエロ臭と、「失われた男」のハードボイルド振りに痺れる。自室で『喜劇・男は愛嬌』(監督・森崎東・’70松竹)。この頃は森崎映画は何度観てもいい(10年程前の、中井貴一と寄り目女が共演した、『ラブ・レター』には呆れ果てる。森崎老いたり!)。
7月×日…『BUSTER COMIC』の青焼きが、図書印刷から出始める。修正、また赤ベタによるスミベタ指定を全部白地に。当然出し直し。2度目。わからない。白地部分は当方でシールを貼ってる。トレぺで赤く潰しとけば、スミベタに決まってる(赤はそもそも製版でスミベタを意味)。もちろん事前に説明済み。日本語の読めない、不法在留外国人でも現場に? 高橋編集長より電話。同誌の俺のコラム(「BUSTER CINEMA」)、『Mate』の「嫌われ者の記」風にした方が読者受けするのではと。確かに。何で血迷って映画コラムに?(凄く誌面から浮いてる。文化人気取りで超マヌケっぽい)。次から「塩山業界無駄話」に。500ページもの雑誌の下版は初めてだが、編集というより土木作業。夕方、かたせ湘が『本当にあった禁断愛』の下描きを。女性キャラの顔のリンカク、等身他にキツイ注文を。双葉社時代に甘やかされ過ぎた。ロリ誌ではもう苦しいが、コンビニ誌ならもう一花も可能(原稿料は叩かれる)。夜、事務所で『大阪』(森山大道・月社・本体1800円)。『新宿』同様、下手な作文が一切ないトコがいい。帰りは『コーヒーブレイク・デイヴィット・リンチはいかが』(滝本誠・洋泉社・本体1700円)。昔よか、重い事を軽く語れるように。悪凝りしない造本も読み易い(スレスレで“非ワイズ出版本”化)。
7月×日…「ジュンク堂」池袋店先の、「古書往来座」の店頭を利用した、素人古本市(通称“外市”)に参加(土日)。勝負をかけた初日のエロ本がサッパリで、最低の売り上げ。収穫も。同書店の瀬戸店長は、まばたきをめったにせず、かつて俺に“地下室で1日中アジビラをカッティングしてるロシア帝政下のアナーキスト”と言わしめた不気味な中年男だが、一種の狂気、いやカリスマ性があるらしく、従業員が異様に良く働く(薬〈シャブ〉を盛られたロボットのように)。「瀬戸店長が破産して、両眼開いたまま首吊り自殺すると、絶対に何人か後追い自殺すんな!」「ま…まさか!?」場所は打ち上げ会場の居酒屋、「北海道」(ここのチューハイ類は、スポイトで一滴焼酎を垂らしてるだけと確信)。相手は小川町の老舗版元、H社のK嬢。古本好き女はどっかの業界同様、99パーセントが“デブス”と決まってるが、唯一の例外。森美樹と出来てた頃の嵯峨美智子風。売り上げ不振の折り、セクハラで元を取ろうと図々しく接近(埼京線じゃねえ!)。「塩山さん。いつから『en−taxi』でお書きに?」(同誌最新号で、古本ネタの短文を)「い…いや、初めてだよ今回が…」「カズヤに頼んで連載にしてもらえばいいのに〜っ!」カ…カズヤって福田和也か? こんな大きな娘がいる訳ないし。親戚? 「大学でゼミ取ってたんですヨ。小熊英二のも」「バ…バランス取れてるねえ」とか言いつつも、俺の頭の中では既に、黒ブーツ姿のK嬢にたるんだ腹を踏み付けられてる、“カズヤ”の超特ダネ映像が。じゃなきゃ呼び捨てにゃしねえヨ。そうか、そういう事なのか! だから高取英だの3流アングラ者や、伊藤剛みてな4流チンピラが、大学で教えたがるのだ。社会的名声のみじゃなく、こういうピチピチ姉ちゃんを片っ端から手ごめにっ!? ゆ…許せん!! ヤケになってウーロンハイを飲みまくるが、薄いのでちっとも酔わない。不気味がってるK嬢は、岡崎武志や萩原魚雷の方へ去るし、復讐のためその夜のオカズに彼女を使おうとしても、“黒ブーツの下のカズヤのたるんだ腹”が邪魔して、ピクンとも立たない。散々な古本市だった。
7月×日…『ジェイド』『MESSI』時代からの不動の“ラスト入稿者”、てっちゃんの『BUSTER COMIC』分がやっと。事務所で仕上げしないのも数ヶ月ぶり。次回が怖い。「珈琲美学」で『東アジアの終戦記念日−敗北と勝利のあいだ』(佐藤卓己・孫安石編・ちくま新書・本体740円)読了。最近、さえない、同社の文庫&新書ではマシな方。拙著『出版業界最底辺日記』担当のMさん、新書に移ってしばらく経つがそろそろらしいヒットを(俺や杉作J太郎の元担当じゃ、いわゆるその…?)。帰るとふじたじゅんの、『Hオフィス裏事情』の下描きがFAXで(在長野県)。彼やSONOは、OL物に独特のリアリティが。脚のラインの美しさのせいかと(獅月しんらは描線がまだ駄目)。ペイントロボに電話、次回『BUSTER COMIC』の日程打ち合わせ。“死に損ない”は結構しぶとい。
7月×日…右文書院本用の書き下ろし、菜摘ひかるの回想文のみ難航。反論出来ない死者相手では、筆がゴーマン化必至。軽薄な内容になりそう。逡巡してるうちに、彼女の評伝を考えてるライターがいた事をふと。かつまた執筆雑誌は残ってて、必ずや将来発掘される。つまり、ホラを吹けば復讐される可能性が。ガクガクブルブル。いきなりシャープペンに速度が(小心者は影におびえないと、闇に突入する勇気がわかない)。自室窓から見える、「セブンイレブン」の明かりが気に入らない。「ファミリーマート」ならいいのだが(一水社の本を扱ってくれてるし)。(つづく)