嫌われ者の記 (194回)


8月×日…隔月刊、『特盛DVD人妻熟姦Comic』(7月売りまでは『特盛DVD人妻相姦Comic』として桃園書房刊。同社実質倒産の直前に曙出版に売却、改題後に系列のメディアックスから続刊。漫画屋は5月売りから、編プロ遊民社より漫画部分を孫請け)を今号より担当する旧知の光雅製版の営業マンが顔を。「またよろしくお願いします!」「『漫画ピンクタイム』以来だから、1年振りか。3号は続けたいね」「またそんなぁ…」「どう景気は?」「悪いなんてもんじゃ…。雄出版さんも、民事再生法を申請するとかで」「何度もジャンプしてたんじゃな。桃園もだけど、ジタバタしねえで倒産しちゃえばいいのに」「うっかり新規の仕事も出来ませんし。お金もらえないんじゃあ…」「まったくだ」(漫画屋も桃園時代の2号分は、ギャラを半分に値切られる。桃園は既にヤバイとの噂が流れてたので、つぶれたら遊民社が半額を補償するとの約束で請けた)。その遊民社の塙社長から電話。ロリ系漫画のコンビニ本、某社から隔月で出せる企画はないかと。「近親モノやOLモノはもうねえ」「う〜む。塙さん、成城の豪邸の住み心地は?」「とっくに売っちゃったよ!」「平和出版が潰れた後とか?」「わかってんじゃないの」(遊民社は600万以上、当時かぶった)。豪邸があるうちは大丈夫と信用してたが、同社とも距離を置くか(冷血!)。遊民社、海鳴社、KIYO出版(いずれも編プロ)が請けてる版元はよく潰れる(平和出版、桃園書房、雄出版…)。古賀燕の下描きがFAXで。ストーリーが苦手らしく、2P増やして18Pにしたら隙間風ピューピュー。元に戻そう。『激流の魚−壺井繁治自伝−』(立風書房’74)読了後(かなり正直な日共党員)、事務所を出る。

8月×日…「シネマテーク高崎」で、『華麗なる恋の舞台で』(監督・イシュトヴァン・サボー・’04カ米ハン英)。赤面モノの題名だが、原作がモームの『劇場』なので。悪くないが、主演のアネット・ベニングが貧乏臭すぎる。ジェレミー・アイアンズと夫婦だなんて、市毛良枝が佐藤浩市の女房を演じるよう(市毛が主役で!)。帰りの上信線で『わが荷風』(野口冨士男・講談社文芸文庫・本体1300円)。なるほど。本書は高崎の「赤坂堂書店」で735円。同店、県内の古本屋が前橋でやる、恒例の夏の古本市に不参加(初めて)。内輪もめでも?(だと楽しい)

8月×日…一水社から内田こねりのいずみコミックス、『色つきざかり』の見本が。題名が抽象的で大失敗。何でこんなのを?(安易にも収録作品の題名から選んだ)来月売りのあとりKは、『発育検査』と少々マシだが…。11月売り予定の拙著初稿が右文書院から届く。事務所や自宅はおろか、通勤電車内でも赤ボールペンを片手に必死で校正。読書は一切ストップ。約350Pの半ばの辺で吐き気(2度目は結構楽しくチェック。再校も2度読まねば。3校? まさか。発狂する。2段、3段組ページも多い。書名は未定)。ベテランエロ劇画家、紫れいかから電話。仕事はないかと。エロ劇画はほぼ全滅と説明、一水社を紹介。新幹線や上信線ではともかく、総武瀬じゃさすがに校正は…。『露伴翁座談』(角川文庫’51)。ものすごく面白く、ずっと読んでいたい。

9月×日…レディコミ漫画家の葉月つや子からの電話で、片桐七郎が死んだと知る。「のら(やまだ)さんに聞いたんですが、8月に亡くなってたのに、今月発見されたらしくて…」「ちっとも悲しかねえな。あんな不愉快な酒乱野郎が、いつくたばろうが。らしい死に方なんじゃねえか、肝硬変の孤独死なんて。かみさんも子連れで逃げ出しといて正解だったよ」「またそんな…」「旦那(もりを舞)だって、あんたと結婚してなきゃ、似たようなもんだったかも」「いえもりをさんは…」片桐は『少年ジャンプ』(本誌ではなく、月刊か増刊かも)でデビューしたためか、エロ劇画を舐めてる上に酒グセが悪く、金銭的にもルーズで誰からも嫌われた(宴会の最中、やたら屁をしたり)。後でのらに聞いたら、葉月自身、数十万もの借金を踏み倒されてたと。描くモノさえ素晴らしければ伝説になれるが…。知る範囲では誰一人悲しまなかった(元奥さんのみ、お別れ会をと言ってたと)。『BUSTER COMIC』の出張校正で、神保町の救世社ビルの図書印刷に出掛けようとすると、ブランシェア(白風)から電話(この人位、間の悪い時にのみ電話を寄こす人もマレ。大した用件でもないのに)。5階の図書印刷には、既に増当氏が。続いて高橋編集長以下も。7台の青焼きをチェック。これでまだ半分(本誌は全部でたった6台)。ブ厚いティーアイの本は、下版中も全体像がつかめない(「俺もですヨ!」と高橋編集長)。当ビル、外見はキレイだが中は小汚く暗い(路地を隔てて、手前に集英社、奥に岩波書店)。片桐も手前のビルに通ってた頃は、もう少し素直だったのだろう。

9月×日…本誌発売の頃には、既に競売済みかも知れない、栄昇ビルの20軒近い店子仲間とはメーリングリストを。昨今、新情報を書き込んでも反応が芳しくない。数日前にも、4階の近藤デザイン事務所の社長と、虎ノ門の法曹ビル内、リソルテ総合法律事務所の、中井寛人弁護士との面談の件を報告したのに、応答ゼロ。後は、各自が勝手に対応するって事?(中井弁護士、敷金分の家賃を滞納してる店子に、内容証明書で督促を。旧大家の栄昇商事社長、中尾雅子さんに雇われてると言ってるが、それは形式上で、本当は債権者のハイサイド・テンだろう。店子を一軒でも早く追い出し、高く処分したいのだ。中尾さんはそんな事しても、既に一文にもならんし)。最後まで残り全てを見届ける決意。校正、何とか2度目も終了。『日活アクション無頼帖』(山崎忠昭・ワイズ出版・本体1800円)を、やくる〜とを帰した事務所で一気読み。やっぱ、読書は他人の本に限る。最後のアニメ脚本家仲間、雪室俊一へのインタビューがいい(山崎は日活アクション映画衰退期の脚本家。後にテレビアニメを)。“…山崎さんの場合は、お母さんとのふたりだけの生活で、ああいう暮らしをしているとネタにつまるというか、情報というのは書物と映画しかない。しかも、晩年は困窮して、映画も観られない、本も買えないという状況になってましたから。僕は、だから一緒に仕事をしていて、この人はあまり人生を知らない人だな、母親に溺愛されたお坊ちゃまだなと思っていましたね”(176P)。こういう事は、生身の人間相手にゃ正面切って言えない(30過ぎてみそ汁を、“ズーズー”吸う奴とかにも)。月下冴喜(矢上健喜郎)に電話、単行本化しないのに原稿を返さない、コミックハウスにもっと強く抗議をと(気の優しい漫画家相手だと、舐め切った真似をするクズ編集者の種は尽きない)。いトうから10月売りのいずみコミックス、『汚辱』のカバー用下描きがFAXで。FAXって、完璧な原寸で届く機種ってないの? 帰りは『都会に近い小さな町で 編集雑話』(遠藤隆也・ブレーン・オフィス・本体1714円)を。著者は、太田市で『マイリトルタウン』なるタウン誌を30年近く続けたが、フリーペーパー等に押され、昨年で廃刊した団塊世代(Uターン組)。紙物が苦労してるのは、エロ本もタウン誌も同じようで。自室で『カポーティ』(監督・ベネット・ミラー・’06米)。撮影と編集技術はいいが、中身ゼロの脚本にあきれる。口直しに、『怪奇十三夜 怪談累ヶ淵』(監督・中川信夫・’71ユニオン映画)。さすが!!(日テレ系TVドラマで、「書泉グランデ」の500円DVDコーナーで)

9月×日…遊民社の塙社長から、「『特盛DVD人妻姦熟Comic』、もっと修正きつくって、曙出版(メディアックスの上会社)の社長から言われたから、気を付けてね!」「すんません…」。成年コミック雑誌とはいえ、調子に乗り過ぎた。昼飯ついでに、すずらん通りの「書肆アクセス」へ。「右文書院の本、進んでます?」「やっと先週初稿戻して。なんとか10月末までには見本を…」「ウチが閉店(11月中旬)する前に売らせて下さいヨ。11月4日、古書往来座の外市で、内澤旬子さんとトークショーもすんでしょ?」「いつの間にやら決まってて。どうなるやら…」「もっと強気になんなきゃ!」帰りは『幼年』(大岡昇平・講談社文芸文庫’90)。上信線、甘楽富岡地方を直撃した、先日の台風9号のせいで、南蛇井〜下仁田間はバスで振り替え輸送中(俺には無関係)。市内あちこちのガケ崩れも放置されたまま。敗戦直後の、キャサリン台風以来の被害らしい。(つづく)