嫌われ者の記 (195回)


10月×日…JR飯田橋駅東口を出て九段方面へ右折、信号待ちしてると、DTP屋、公栄社の営業マンがバイクで通過。駅近くの同社と縁が切れたのは、『レモンクラブ』が廃刊になった1年前。業界入り30年で初めての事だが(かつては写植屋)、仕事が雑な割に態度のでかい所ゆえ、精神衛生上は却って良かった(今は悠社と天龍社ってトコ)。いトうが『BUSTER COMIC』の4色原稿を持参。単行本が増刷されるようになり身ぎれいに。カワディMAX同様、「シマムラ」レベルだが。古賀燕に電話、ネームについて説教。小説(作文)と漫画ネームの区別がついてない漫画家が、昨今多い(昔も出井州忍のような例も)。吹き出しが小さすぎたり、誤字が多い程度なら我慢するが、例えば“濡れる”が所によっては、“ぬれる”となっていたり、“気持ちいい”が“気”と“持ちいい”で改行されたりしてると、原稿を破り捨てたくなる(増刷組は絶対にこういう“暴挙”はしない。昔から)。「珈琲美学」で『日本売春史 遊行女婦からソープランドまで』(小谷野敦・新潮選書・本体1100円)読了。名タイトル(中身も面白い)。『深き淵よりの嘆息『阿片常習者の告白』続篇』(ド・クインシー・岩波文庫・本体600円)に。最近の同文庫は国書刊行会っぽさが濃厚だが、高校の図書館で読んだガキ共が不良化しない?(エロ本屋に言われたかねえか)同喫茶店へはいつも作品社前の歩道橋を使うが、階段を昇る際に、他人の吐いたツバを見るハメになるのが不快(本設備の宿命か?)

10月×日…「へっへっへっへっ…」不気味なてっちゃんの笑いを聞く時期。『BUSTER〜』、彼以外は全員早くも入稿してるが…。香坂ツトムが『特盛DVD人妻姦熟Comic』の原稿持参。「女の頭が小さくて迫力ねえ。下描きん時は気づかなかったけど。次回は注意しろヨ」「ですかね…」夜、銀座の「松竹試写室」で来春公開の『結婚しようよ』(監督・佐々部清)。『赤旗』等では高評価の同監督、俺は昔から正常とは思えない。帰りは『中国を追われたウイグル人−亡命者が語る政治弾圧』(水谷尚子・文春新書・本体800円)。あとがきでの、“…気になっているのは、この問題が「敵の敵は友」的な発想から「中国を叩くための材料」として扱われる事も少なくないことである”との下りに、小谷野敦が自らのブログ、「猫を償うには猫をもってせよ」で、あんな事は書いてほしくなかったとグチってたが、らしくもない心の狭い話。そういう思想の持ち主が書くからこそ、説得力を増すのだ。

10月×日…前日泊りだったので、早朝からチンタラと好善信士のいずみコミックス、『近親相姦中毒』の原稿整理を。FAXが。右文書院の青柳編集長からで、拙著『東京の暴れん坊 俺が踏みつけた映画・古本・エロ漫画』(右文書院・本体2000円)の見本が出来た。さっき「書肆アクセス」に20冊納めたので、サインをと。早速他人の本の作業など放り出し、11時過ぎに駆け付けてササッと署名。夕方、青柳編集長、南陀楼綾繁と同店で待ち合わせ、完成を祝い「ランチョン」で乾杯。畠中店長の話では、12時から5時の間に10冊も売れたので期待していいと(結局、11月17日の「書肆アクセス」の閉店までに110冊完売。全てサイン入り。ナルシストやのう…)。

11月×日…白風のMUJIN COMICS、『家族交尾』の青焼校正。ティーアイの本はページ数が多いので大変(約200ページ。値段もいずみコミックスより100円高い)。トーンの切れっ端の汚れを2ヵ所発見(案外そそっかしい奴)。出版ゴロ、いやエロ本業界の辣腕出版プロデューサー、遊民社の塙社長から電話。『特盛DVD人妻姦熟Comic』の調子が悪くない。同誌は奇数月発売の隔月誌。偶数月にもう1誌出せないかと。「出せねえよ。原稿がねえもん。『本当にあった禁断愛』や『Hオフィス裏事情』もあんだし」「それとは別にホラ!」ホラじゃねえよ。ホントに場当り主義的な“テキトーオッサン”で困ったモン(曙出版の加藤健次編集長のように、塙社長のうすっぺらさを買う物好きも)。隔月3誌でこの人と仕方なくタッグを組んでるが、エロ本業界のたそがれコンビみたいで嫌だヨ(版元と違い、編プロへの悪口は気楽に吐ける)。

11月×日…ホッ。昨日は池袋「古書往来坐」の外市の連動企画として、目白の「上り屋敷会館」なる怪し気なトコで、『世界屠畜紀行』(解放出版社)の著者、イラストルポライターの内澤旬子(南陀楼綾繁の女房)とトークショーを。入りが心配だったが、600円も入場料を取ったのに、47名も押し掛けてくれた上(内澤効果)、話もそれなりに受けたから。ただ最低20冊はと期待した『東京の〜』が、13冊しか売れなかったのは不満(生意気!)。『本当にあった禁断愛』の下版後、すずらん通りの「書肆アクセス」へ。サインの追加。「小宮山書店」地下の「伯刺西爾」で作業。近く失業の同店従業員、青木さんがブツブツブツ。「畠中さん人がいいから、閉店日にテレビカメラが入るのOKしちゃったの。私は絶対に撮らないでって言ったのよネ。本当は休みたいくらい…」。サインや落款代わりの(有)塩山商店の社印、右文書院のPR用チラシ、吸い取り紙用自筆原稿1枚付けた他、“一銭二銭三に銭”“妻一筋”“仲良き事は美しきかな”他の与太格言もサラサラ(俺の署名本は、塚本邦雄や小川国夫の100倍は価値ねえな)。帰りはずっと『椋鳥日記』(小沼円・講談社文芸文庫・本体1200円)。山田稔よりクールで上等。意外に器用な人生を送ったのが年譜で判明、少しガッカリ(読者は身勝手)。

11月×日…『Hオフィス裏事情』、6号目も出る事になったと、一水社のタコ多田から連絡があり一安心。ないと12月売りは、『Mate』とコバルト機のいずみコミックス、『えっちOL裏事情』の2点しかなく、今年何度目かの蒼ざめた馬を見るトコ。あわてて表紙担当の吉田昭夫、ふじたじゅん、鬼姫、コバルト機、獅月しんら、橘孝志他の漫画家陣へ打ち合わせ電話。コンビニ本は取り扱い決定が直前まで不明で、版元、下請け、漫画家泣かせ(涙は下々の者が全部。日本の美風?)。

11月×日…「シネマテークたかさき」で『サッドヴァケイション』(監督・青山真治)。浅野忠信やオダギリ ジョーに加え、石田えりまでが大根芝居を猛爆発、うんざり。が、映画自体は悪くない。青山監督、不愉快な奴だが確かに才気が(トリック?)。同館、2スクリーンにするとかで工事中。男子トイレは、建築現場で使用する例の箱(さすがに女子用は建物内)。帰りの上信電車で『岡本綺堂随筆集』(岩波文庫・本体860円)を。何度目かの物も多いが飽きない。綺堂は各社から数種類出てるので、「不便だしどっかで随筆全集でも…」と昔は馬鹿な事を考えた。不便な刊行形態だからこそ、名随筆を何度も味わえる。

11月×日…早朝、富岡市役所行政課へ(同市の気違い防災無線の本部)。岡田稔課長に、せっかく春から夜9時の馬鹿放送を中止したのに、最近秋の火災予防運動とかで、夕方4時と夜9時に放送してるが、なぜかと問う。彼いわく。春の夜9時の放送中止の際、急に止めるのは心配だから、春と秋の予防運動の際は一週間だけ、日に2度の糞馬鹿臨時放送をするという事で、某市会議員と岩井賢太郎市長の間で、ボス交がなされたと。防災無線の製造元で、地元に工場のある沖電気の手先? 議員名を尋ねると、議会ではなく委員会審議での事なので公開できない云々。馬鹿な。今度は議会事務局へ、情報公開請求しよう。

11月×日…矢上健喜朗と、来春発売のMUJIN COMIC、『蝕姦』のカバー打ち合わせ。「カバーの締め切りは余裕あるけど、『Mate』はギリギリ。背景しっかり入れてネ!」「はい〜…」1000円とか2000円だが、松文館からネット配信料が入るように。せめて高校生の小遣い位にはなって。一水社や日本出版社は1回10万前後に(年2回の振り込みだが)。当畑、カウント数は第三者機関ではなく業者任せ。絶対将来大問題に。帰りの新幹線で『寄席噺子 正岡容寄席随筆集』(河出文庫・本体780円)読了。解説は坂崎重盛。我が栄昇ビル上階の、波乗社の代表。前夜、他の店子数人と、神楽坂のキザなそば居酒屋で飲んだばかり。来月末から新大家に。つまり家賃を払わざるを得ない。種々相談を。正岡容、小説はイマイチだが随筆集はいい。あらゆる意味での俗物、安藤鶴夫などと比較しちゃ可哀想。自室で『モスキート・コースト』(監督・ピーター・ウェアー・’86米)。う〜ん…。(つづく)